第13話 五〇〇年の幽閉-③
魔力は、魔法を使う上での基礎体力となる。
魔族や魔法使いは、魔力を消費することで、魔法を発動させる。
魔力が尽きれば魔法は発動しないし、魔法自体も、破壊力のある魔法や、複雑な魔法を発動させようとすれば、大量の魔力を消費する。
故に、魔力の過多が、魔法使い同士の対決を決定すると言っても過言ではない。
この魔力を高める方法は、いくつかあるが、有効なのは二つ。
一つ目は生き物を喰らうこと。
どんな生き物にも魔力がある。
喰べることで、魔力は確実に上昇する。
人間は特に魔力が豊富な生き物で、魔法使いとしての素質がない人間でも魔力を豊富に含んでいる。
魔族が好んで人間を喰らうのは、味だけが理由じゃない。
ちなみに、どういうわけか、魔族が共喰いをしても魔力は上がらない。
魔族は死ぬとすぐに死体が砂のように脆く崩れるため喰べることができないが、生体の内に喰べても結果は一緒だ。
二つ目の方法が、瞑想だ。これは、共喰いをするわけにもいかない、人間が編み出した。
魔力を喰べることにより取り込めないなら、いま体内にある魔力を育てるしかない。
かつて、魔力は食事の様に、取り込まない限り、増幅しないと考えられていた。
だが、人間達は魔力を消費しきった後、食事だけでは考えられない程、魔力が増えていることに気がついた。
魔力は使うことで増える。
これに目をつけて考案されたのが、瞑想だ。
瞑想は、魔力を消費しながらも外には放出せず、体内で魔力を循環させる。
魔力を放出して使う他の魔法と違い、魔力は外にでないので、消費される魔力自体は最小限で済む。
節約をしながら魔力を使い続けることにより、魔力の量を増やす。
瞑想は高い集中が必要になり、その間無防備になるので、他者を基本的に信用しない魔族たちは好まない(俺もそうだ)。
だが、ここは誰も立ち入れない。
喰われる運命の、無害な家畜たちがいるだけ。
一日のうち、十五時間もの時間を俺は瞑想に費やしている。
封印された理由は邪魔が入らず、瞑想に専念できる、というのも大きい。
魔力は基礎体力に過ぎないので、本来は、魔法を使う練習や、自身の技を高度な物にしたり、または、自分だけのオリジナルの魔法を創作する鍛錬も必要なのだが、俺の場合はそれは必要ない。
「こんばんは、マスター」
アイレーの訪問により、今日の瞑想は早めに終了となった。
「今日は時間通りだな」
「今日遅刻したら流石に怒られると思ってね。お勤めご苦労様でした」
ふざけた様子で、ぺこりと頭を下げるアイレー。
今日で封印されてから500年が経過する。
「で、外の様子は?」
「昨日報告した、勇者ローウェルの一行が到着して、待ち構えてるよ」
ローウェルとは、ここ最近力を伸ばしてきた剣士のこと。
封印が解かれる魔王を、放っておく手はない。
今日のために選抜された討伐隊だった。
「他にはいないのか」
「いないね。地形が悪くて、大軍は差し向けられないって結論になったみたい。エルフも来ないよ。『ターリともあろう者が何の対策もせずに外に出るわけがない。ここで襲撃しても無駄だ』ってね」
「そうか」
椅子から立ち上がり、魔法を発動してみる。
痺鞭(パラリ・ウィップ)
長さにして五メートル、細身のムチが出現する。
すぐ近くに居た牛めがけて飛ばす。
牛めがけて一直線。
と、なる前に魔力を調節して、角度を修正。
牛に当たる寸前に、ムチが折れ曲がり、ちょうど九十度に急旋回。
およそ自然のムチではあり得ない現象を起こす。
ムチは最初の牛を外れ、隣にいた牛に直撃した。
当てられた牛は一瞬で痙攣し、バタリと倒れる。
三〇分は麻痺が解けない。
魔法の発動は上々。
「マスター、戦う気なの?」
「ああ。逃げてもいいが、追いかけられたら、結局相手をすることになる。こそこそ隠れる気もない。ここで潰しておく」
封印が解けたら、根城である幻楼城に戻ろうと考えている。
部下たちが気を利かせ、交代で城の番をしていると聞いている。
「さて、麻痺させた牛を喰べるとしよう。ここでの最後の晩餐だ」
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