第7話

 それからしばらく待っていると、動きやすそうな服装に着替えたアリシア王女が部屋へと戻ってくる。


「ノア様。準備万端です」

「分かった。じゃあ、いくよ。我が体内に流れる魔力よ。悪しきものをここから退却させる力となれ リペル!」


 俺は自分達に向かって偽の詠唱をして、ノアとアリシアを国外追放すると思う。すると、廊下の方がバタバタと騒がしくなり……ドアが蹴破られた。そしてゾロゾロと槍を持った兵士たちが入ってくる。


「両手を上げろ!」


 兵士がそう叫ぶので俺達は顔を見合わせ頷くと、両手を上げる。


「ノア、そしてアリシア王女。お前達が国王を王座から引き摺り下ろそうと企てている話があった。アリシア王女の称号を剥奪すると共に、お前達を国外へと追放する! おい、連れていけ!」

「はい!」


 俺達は兵士に逆らわず、言われた通りについていく──港に着くと俺達は船に乗せられた。着いた先は小さな船着き場で、辺りは見渡す限りの草原だった。


「殺されなかっただけでも、有り難く思うんだな」と兵士は船に乗ったまま言って、帰っていく。


 俺達は黙ってそれを見送っていた。


「──プッ! アハハハハハ……」


 突然、アリシア王女は腹を抱えて笑いだす。


「アリシア王女様、どうしたんですか?」

「あ~……可笑しい。私達、悪人だったのですね」

「そうですよ。だって国王を王座から引き摺り下ろそうと企んでいたんですから、悪人に違いないです」

「ふふ、そうですね。あ、そうだ。私、もう王女の称号を剥奪されているから、アリシアで良いですから」


「敬語もいらないです。ブッブッ~、分かりましたか?」と、アリシア王女は言って指を使ってバツを作る。


「うん、分かったよ。だったら俺も敬語はいらないし、ノアで良い」

「うん、分かった」


 アリシアは返事をすると、まるで自由に羽ばたく鳥の様に両手を広げて、草原を歩き出す。


「ねぇ、ノア……私は自由になれたけど、あなたまで巻き込んでしまって、ごめんなさい。ノアはこれからどうするの?」

「実を言うとさ……俺も人間関係とかに疲れて、前から自由になりたい気持ちがあったんだ。だからこれからは、自分が住みやすい村を作って、気ままに生きていこうと思う」

「へぇ……それは凄い目標ね」

「アリシアはどうするの?」

「──まだ決めてない」

「そうか……アリシア、報酬の件だけど」


 俺がそう口にすると、アリシアはクルッと俺の方を向く。そして両手をポンっと合わせた。


「ごめーん、そうだったね。忘れてた」

「忘れないでくれよ……報酬だけど、本音を言うと一人でいるのは寂しいんだ。だから、人が集まるまで、村づくりの手伝いをしてくれないか? 人が集まったら後は本当に自由にして良いからさ」


 俺がそう言うとアリシアの顔がパァァァと明るくなり笑顔になる。


「うん、するする!」と、アリシアは返事をすると「わぁ……村づくりか……楽しそう!」と、話しながら歩き始める。


 そして突然、草原の上に寝ころぶと、隣に来いと言わんばかりにポンポンと地面をたたき始めた。


「おいでよ」

「うん」


 俺は言われた通りアリシアの隣に寝転び、晴れ渡る綺麗な青空を見上げる。


「村の名前はもう考えてるの?」

「いや、まったく」

「そう。ん~……何が良いのかな……」

 

 俺は一緒になって考えず、開放的になっている可愛いアリシアを見つめる事を楽しんでいた。


「そうだ! アーク! 私に助け舟を出してくれた所から始まった村、アークなんてどうかしら?」

「アークか……悪くない」

「でしょ? じゃあ決まり!」


 ──こうして俺達のスローライフが始まる。たった二人だけのスタートだけど、不満や不安は全く無く、むしろ清々しい気持ちが満ち溢れていた。

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