第6話

 ──こうして俺は城に連行され、美味しい料理を食べさせて貰ったり、御礼に小屋一軒建てられそうなぐらいの硬貨を貰ったりと手厚い歓迎を受けることになる。更に今日は城に泊って良いと言われ、いま俺は個室で休んでいた。


 本当にこれで良かったのだろうかと落ち着かないままベッドで横になっていると、コンコンとノックが聞こえる。


 俺は体を起こすと「はい」と返事をした。


「ノア様。アリシアです、入っても宜しいでしょうか?」

「はい、もちろんです」


 ガチャッとドアが開き、アリシア王女が一人で部屋に入る。


「お休みの所、すみません」

「いえ、とんでもございません。どうかされましたか?」

「ちょっとお話をと思いまして」


 真面目な話だろうか? そう言ったアリシア王女は前のような屈託のない笑顔を見せてくれてはいない。


 アリシア王女は部屋のドアを閉めると、俺の方へと近づく。そして深くお辞儀をすると、「ノア様。本日は、本当にこの国を御救い頂き、ありがとうございました」


「いえ……とんでもございません! 本当に俺は何もしてなくて、スケルトンキングが勝手に帰っていっただけですので……」


 アリシア王女は顔を上げると、真剣な眼差しで俺を見つめる。


「その事なのですが……本当にノア様は何もしていないのですか?」

「……どういう事ですか?」

「わたくしの周りの人達はそうは思っていないみたいです。ノア様は私を助けてくれた時にリペルという魔法を使ってくださいましたよね? この世界には様々な魔法が存在しますが、宮廷魔術師でさえ、その魔法の存在を知りませんでした」


 しまった。もっと魔法の勉強もしとけば良かったか……?


「でもあなたはその魔法で二回も魔物を退けた。怪しいと思われてもおかしくはありません。だから……お父様たちは、あなたに特別な力があると予想し、利用しようと企んでいます」

「!? なんだって……」

「お父様たちは娘の私でさえ政略結婚の道具としか見てなくて、自分勝手でズル賢く、そして傲慢な人達です。だから、ノア様。早く出て行った方が宜しいかと……」

「わざわざ忠告しに来てくれたのですね、アリシア王女は御優しいお方だ」

「いえ、そんな……」

「事情は分かりました。準備を済ませたら直ぐに出て行きます」

「はい。ではわたくしはこれで失礼します」


 アリシア王女は笑顔で返事をしてくれたが、どこか不満げな雰囲気が入り混じった表情で背を向ける。それが気になった俺は森での会話を思い出す。


「……あ。アリシア王女様、ちょっと待ってください」

「はい、なんでしょう?」

「森で出会った時、アリシア王女様は俺の魔法の事を聞きたかったんですよね? 大したこと無いっておっしゃっていましたが、何だったのですか?」

「……」


 アリシア王女は迷っているのか口を閉ざす。俺はアリシア王女が言いやすい様に先に「おそらくですが……政略結婚の事と絡んでますよね? 大丈夫です、誰も言いませんから」と、予想を口にした。


 アリシア王女は一瞬、驚いた表情を見せたが、直ぐに表情を戻し……微笑む。


「察する能力が凄いですね」

「これでも色々な奴らに揉まれてきましたから」

「ふふふ。えぇ、そうです。相手の国王、王子ともにお父様と差ほど変わらずの人で、嫁ぎたくないのです。だから……だから、ノア様の魔法でわたくしのお父様を王座から退ける事が出来ないかと思いまして、それで……」

「なるほど……」

「あ、ごめんなさい。わたくしも自分勝手な考えをしていると後で思って、今はその……諦めています。それにお父様が王座を退いても、今日の取り巻きの話を聞いていたら、変わらないのかな……と思いましたし、何よりノア様に迷惑が掛かってしまうのが心配ですので、忘れて下さい」

「じゃあ……アリシア王女様が望んでいたのは自由、って事ですか?」


 アリシア王女は顎に手を当て、考える仕草を見せたが直ぐに顎から手を離し、「そうですね。地位も名誉もいりません。自由に暮らしてみたいです」


「分かりました。もしその願いを俺が叶えたら、あなたは私に何をしてくれますか?」

「え……」

「無報酬だったら、あなたは俺を利用したと気に病むでしょ? だったら俺があなたを利用します。これでチャラ、何も気にしなくて済みます」

「ノア様……もし自由にして貰えるなら、なんでもします」

「なんでもしますって……」


 俺はスッとベッドから立ち上がると、アリシア王女に近づき両方の肩に手を乗せる。


「本当にそんなことを言っても良いんですか? もし俺がこのままあなたを押し倒しエッチな事をしても何も言えなくなるんですよ?」

「エッチだなんてそんな……でもノア様が望むのでしたら、一晩だけなら……」


 マジかよ……忠告のつもりでやったんだが、まさかそんな展開になるなんて……恥じらい顔を背けるアリシア王女が、とても可愛くて、本当にギュッと抱きしめたくなる。だけど俺は……俺は必死に抑え、アリシア王女から両手を離した。


「コホンっ! と、とにかく報酬は後で決めます。アリシア王女、本当に自由になる覚悟が出来たら、準備をして、また俺の部屋に来てください。手立てがあります」

「分かりました。直ぐに準備を済ませます」


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