第2話
結局、バーバラは昨日、帰って来なかったから俺は朝から玄関で待っていた。嫌悪感が湧いてきていて、もうこの家に入れたくなかったからだ。少しするとガチャっとドアが開き、バーバラが無言で入ろうとする。
「ちょっと待て」
「なに?」
「こんな時間まで何をしていた?」
「なにって……どうだって良いじゃない! 子供じゃないんだから親みたいなこと言わないでよッ!」
「あぁ……そう……じゃあ言い方を変えるわ。お前、浮気してるだろ?」
バーバラは俺がそう言った瞬間、目を見開き驚いた表情を見せる。そして、明らかに動揺している様で目を泳がせた。
「はぁ? 何言ってるの? そんな訳ないじゃん」
「へぇ~……しらばっくれるんだ。俺、昨日みたんだよね。お前とクリホードっていう男と一緒に居るところ」
忙しい奴だな。今度は怒った表情か。
「ノア! あんた私の後を付けていたのね!? 最低ッ!!」
「はぁ……どっちが最低なんだよ……まぁいいわ。俺、そんな奴とは付き合えないから別れてくれ」
「あぁ、そうですか! クリホード様の方が断然、素敵だしぃ。丁度、あんたと別れたいと思っていたから、清々するわ!」
バーバラは嫌味を言って、勢いよくドアを閉める。俺も別れて清々したはずなのに……むしゃくしゃが収まらない!!
復讐してやりたい……バーバラもそうだが、クリホードにもッ!! だが……俺にはそんな手立てがない。せめて、一生会うことなく、村……いや国外追放したいところだ。
「──そんな方法、いくら考えたって無駄か。極力、あいつが行きそうな場所を避けて過ごすしか無さそうだ」
──俺はとりあえず朝ごはんを済まし、仕事場の武器屋に向かうため家から出る。すると、昨日、酒場でヒソヒソ話をしていた男たちが立ち話をしている所が目に入った。
「おい、聞いたか? 昨日、酒場に居たハルク盗賊団の二人組。酒も食べ物も残したまま、村から出てったらしいぞ」
「おぉ! 誰か何かしたのか?」
「いや……聞くところによると誰も何もしていないって」
「じゃあ何で?」
「俺が知るかよ。あと不思議なことに盗賊団の団長、ハルクが何故か村に入れないと騒いでいたとか……」
「マジかよ。それでどうなったんだ?」
「諦めて、次に行くぞって、どっかに行ったとさ」
「助かった~」
「だな。この村、結界でも張ってあったっけ?」
「いや無いだろ。そんなものがあるなら、最初の二人組だって入れないだろうし、なにより魔物も入り込んだりしないはずだ」
「そうだよな」
本当に不思議な事が起きているな。魔法使いでも、この村に滞在してくれているのだろうか? なんにせよ、助かった。
※※※
それから数日が経つ。俺はバーバラに会うことは無く、穏やかな時を過ごしていた。仕事に向かっている所で、二人のおばさんが道端で話しているのが目に入る。
「ねぇ、聞いた? 貴族のクリホード様が、国外追放にあったらしいわよ」
「聞いた、聞いた。でも何をしでかしたの?」
「なんでも既婚者も含め複数の女性に手を出しらしいのよ。その中に王族の人もいて、それで……」
「あら、やだ」
「あとこの村に居た……何て名前だったかしら?」
「バーバラちゃんでしょ」
「そう! バーバラちゃんもいざこざに巻き込まれて国外追放にあったらしいわよ」
「そうみたいね。怖い、怖い」
自業自得だな。俺が手を下した訳ではないけど、それを聞いて気持ちがスッキリする。これであいつ等に会うんじゃないかとビクビク過ごさなくて済むし、なんて良い日なんだ。
──良い気分で職場に入ったのに、店主の不機嫌そうな顔をみて台無しにされる。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか? じゃねぇよッ! 今日は冒険者がこの村に立ち寄る噂を聞いたって話、昨日したよな?」
「はい。聞いてますけど……」
「だったら、さっさと来て、準備しやがれッ!!」
「はぁ……すみません。ところで早く仕事をする代わりに、お金は……」
「出す訳ないだろ! 雇って貰ってるだけ有難いと思え!!」
「──そうですか、すみません……」
俺は渋々、仕事を始める──考えたら俺、いま独り身だから無理して沢山、稼がなくても生きていけるよな? だったら辞めちまうか?
──いや、お金が沢山あっても困らないだろうし、店主さえいなければ、この仕事だって悪くはない。
「ノア。俺は出掛けてくるから、しっかりやるんだぞ」
「はい、分かりました」
店主さえ居なければ、か……。俺は店主の名前を思い浮かべながら「あいつも国外……いや、少しは世話になってるから村から追放されれば良いのに……」と呟く。
まぁ、そんな都合のいい事なんてないか──店の掃除を終え、カウンターで椅子に座りながら冒険者を待っていると、店のドアが開く。
入って来たのは4人組のパーティで、剣や盾を装備していたので、これが噂の冒険者だと思い、立ち上がる。
「いらっしゃいませ。今日は何をお探しで?」
「駆け出しの洞窟にいるゴブリン退治を頼まれたのだが、思ったより数が多くてな。今日は一旦、引き上げて、明日の朝、また挑むために予備の剣を調達しに来た」
先頭を歩くリーダーらしき男はそう答える。俺はカウンターから出ると、商品棚の前へと移動する。
「それでしたら鋼の剣は、いかがでしょうか?」
「あるのか?」
「はい。一本だけですが新品でございます」
「では、それを頂こう」
「ありがとございます」
──こうして冒険者一行は色々と買ってくれて、店を出る。値切りもせずに素直に買ってくれる良い客だった。これで店主に嫌味を言われずに済む。
にしても、駆け出しの洞窟に魔物か……村から近いだけに少し心配だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます