▼27・決起の主人公と純情乙女
▼27・決起の主人公と純情乙女
クラウディアは、仲間を集めていた。
彼女も「変わり者」と評されてはいるが、貴族の家の生まれ、宿命として凶賊退治や一揆の鎮圧、異民族との戦いへの救援など、戦いの経験は積んでいる。
その中でよしみを通じた戦士たち、武将たちのうち、特に信頼できる人間を集めて、彼女は胸の内を明かした。
「私は、国王を討って、この国を変える。放伐を成し遂げる」
彼女を除いた全員が、言葉を失った。
「私はいままで、数々の貴族の腐敗を目にしてきました。付け届け、賄賂、醜聞のもみ消し。たくさんの暗部を、見てきました」
落ち着いて、令嬢としての口調を捨て、本来の口で誠実に語る彼女。その様子には、誰もが思わず引き付けられる、強い存在感が備わっていた。
元から?
否、彼女の覚悟が、真摯な思いが、彼女をカリスマに仕上げていた。
「この惨状を正すには、この国が変わるしかない。私の思う正しい世界を築くには、私がその頂点に立って、自ら範を示すしかないと考えました」
重いというより緊迫の空気。
「父上や兄上たちにはひとまず、表舞台から退場していただきます。あの方々では、変革は永遠になしえない。あまりにも貴族の『汚れ』に慣れ過ぎたのです」
彼女は歌うように。あるいは悲壮をまとって。
「この国を変える、その事業は果てしもなく、失敗の時には謀反人の汚名をかぶることも弁えています。……だからこそ、そのためにも成功させなければならないのです。ここにいる面子ならばそれができる、理想に近づくことができると信じています。さあ、問いましょう」
彼女はしかと皆を見た。
「私の刷新に、協力してくれますか?」
重い沈黙が支配する――かに見えた。
しかしその予測は見当違いだった。
「私はクラウディアお嬢様……クラウディア統領閣下についてゆきます」
「軍師ハーミット……!」
兵法家にして策謀家、「アクアエンブレム」では重要人物であり頼れる戦力でもあったハーミットが名乗りを上げた。
「閣下の創られる新しい世を、ぜひとも見たく存じます。もちろんそのためにこのハーミット、全身全霊をかける所存です」
ハーミットはその眼鏡を少し直しながら、「それに、私がお嬢様と道を違えるなどありえません。私はずいぶん昔から、お嬢様の虜ですゆえ」と付け足した。
「ハーミットがそう言うなら、俺もやらないわけにはいかねえな」
「突撃将ロベルト……あなたも……!」
かの「アクアエンブレム」では白兵戦の要となる、突撃将の異名で知られるロベルトも同調した。
「お嬢様にはご恩がある。ハーミットだけにいいカッコはさせねえぜ。お嬢様の一番になるのはこの俺だ」
そして二人を皮切りに、次々と仲間たちは賛同の意を表す。
「デカットも同意します!」
「このカーンツも」
「ショウエル、賛同いたしますぞ!」
見れば、すでに全員がクラウディアへの服従を誓っていた。
「皆さん……ありがとう。私がその命、預かります」
「喜んで!」
皆がこの空気に打ち震えている。意思が一つになっていることがありありと感じられる。
これ以上の好機はない。
「ならば、このクラウディア、新しい世のために皆を導いてみせます!」
歓声が響いた。
北涼では。
「なあニーナ」
アルウィンにとっての「軍師」クラークが退勤後、談話室で偶然会ったニーナと話していた。
「なに?」
「お前、アルウィンがクラウディアを気にし始めてから、なんか感情豊かになったよな」
紅茶を飲みかけていたニーナはケホケホとむせた。
「そ、そんなことない」
「またまた。じゃあなんで紅茶でむせたんだ」
「あ、熱かったから」
彼女は言い訳をする。
「そう、熱い。クラークとアルウィンの友情は暑苦しい」
「えっ、そういう話題だった?」
クラークはニヤニヤと。
「話題を逸らすのはやめようぜ。お前、アルウィンに恋しているんだろ」
ニーナ、今度は空気でむせた。
「そ、そんなことない」
「じゃあアルウィンに従う気はないのか、それじゃクラウディアに取られてしまうんじゃないか」
「や、安い挑発ね」
言いつつも、ニーナの顔は真っ赤である。
紅茶カップを持つ手も震えている。
「ニーナ、俺は別にそのことで責めたいんじゃないんだ。ずっと小さい頃から、お前はアルウィンにあこがれて、さりげなく自分の魅力を誇示したり、寝室に忍び込んで寝台をスーハースーハーしていたしな」
「うああぁ」
彼女の顔はこの世の何よりも紅潮している。
「ただ……アルウィンのやつ、ずいぶん遠くまで行っちまったなって思ってな。俺たちの知っている、ちょっとぼんやり、のんびりしていたアルウィンは、もうここにはいない」
意外な話の展開に、ニーナの顔が少しずつ冷静になってゆく。
「アルウィンが、斯波、とかいう前世を思い出してから、あいつは急激にしっかりしていった。改革を次々とするし、俺が外交を勧めれば、あっという間に……まあ海景伯ジェームズはともかく、承平侯バロウズだとか、あの戦上手の『炯眼公』まで仲間に引き入れちまう」
「それは、そうね」
「アルウィンは、何が一番の火元かは知れないが、とにかく変わってしまった」
クラークは深く息をつく。
「それは喜ばしいのかもしれない。実際、領主がぼんやりのんびりしていては領地が回らないだろうしな……。だけども、寂しいことは確かだ。お前はどちらのアルウィンも好きなんだろうけども」
ニーナは「うん」とだけつぶやいた。
「まあ、まずはクラウディア対策だな。アルウィンはおそらく嘘をついていない。運命というものがあるとすれば、それはきっとアルウィンの言うとおり、クラウディアとの決戦を控えている」
「そうね。私もアルウィンのために頑張る」
「おお。好きな殿方のために頑張るんだな。応援しているぞ」
ニーナは耳まで真っ赤にして「うるさい……」とつぶやいた。
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