ことの始まりは九年前。

 私が七歳の時だ。


 ◇◇◇


「鈴音、森に行ってきてくれない?薬草が足りないの……」


 私は奥の方で家の手伝いをしていると、母にそう言われた。


「うん。わかったよ」


 私はそう言って、いつも持っている籠を持って出かける準備をした。

 私のお母さんは、ナタリア村の外れの森付近に薬屋を営んでいる。お母さんの薬はよく効くらしく、とても評判がいい。

 そんなお母さんの娘の私は小さい頃から、そのお手伝いをよくしていた。

 そのため、色々な薬草の知識が幼いながらに持っていた。


「行ってきます」


 私は支度を終えお母さんにそう言って、森に向かう。

 お母さんの「行ってらっしゃい」という言葉は聞こえない。いや、お母さんはそんなことを言っていない。

 幼い頃からずっとそうだったから、もう気に留めることはなかった。


 ◇◇◇


「幼い頃からそれが、当たり前のことだと思っていたから……」


 私は目の前にある、テーブルに頬杖をしながらそうぼそっと呟いた。


 あれ、君こんな私の話聞いてくれてたの?君、変わり者って言われない?

 ……そっか、外れたか。でも、君は変わり者だよ。村一番の、ね。

 こんな話は聞いても面白くないのにさ

 ……え?私が聞いて欲しいって言ったから?いや、そうだけど本当に聞いてくれるとは思わなかったからさ。

 ……嬉しいな。今日、最後に君みたいな人と出会えて。

 ねぇ、そんな優しい君は私の話しを最後まで聞いてくれるの?

 ……そっか。


 死ぬまであと五十八分——。

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海の沫になるまでに叶えたい 水見 @chunsuke

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