夏の似合わない君

moon

第1話

嫌いだと言ってみせた季節には、かつて好きだった思いがあるに違いない。





「冬は特別。言葉が白く目にみえるんやで」



ニコッと笑ってそう言ったのはまだ真夏で

公園には蝉の鳴き声が五月蝿いほどに響いていた。

たまに、彼女は僕の理解できないことを言う。




彼女はいつも僕の知らないところへ連れて行った。

「ここ、冬になるとめっちゃ綺麗なんやで」

嬉しそうに彼女が言った。


「じゃあまた連れてってな」



君と会話を続けるのは難しかった。

君の世界が全然見えなくて、僕は頷くだけの会話。でもこの感じがたまらなく好きだった。




「ごめん、別れて。」


それは夏の終わりだった。


夏の似合わない君はどこか寂しげな表情をしている。

もうひと季節で君の好きな冬が来ると言うのに、君の好きな季節に僕は居なかった。



初めての失恋に戸惑う僕。

泣かない僕を見てホッとする君。


そんな呑気なところも好きだった。














新しい恋人ができた。


「寒いね。冬好きなの?」


薄着の僕を見て恋人が言った

「冬は、きらいだよ笑」


白い息を吐きながら僕は言った。

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夏の似合わない君 moon @andy0221

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