脱出ゲームの恐ろしさ

 脱出ゲームをやってから一時間。


 竜達はモンスターとの戦闘を回避しながら、出入り口を探していた。

 田中レイの兎耳スキルのおかげでモンスターを察知でき、無駄な戦闘をせずに済んだ。

 仮に戦闘になっても余裕で勝つことができていた。


「いや~問題なく進めてますね」

「そうですね」


 まだ出口は見つからないが、これならクリアできるかもと余裕ができていた。


(正直、一回目の討伐ゲームよりも楽だな。これなら簡単に)


 竜がそう思った時、


「「「ギャアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」


 複数の悲鳴が聞こえた。


「今の悲鳴は……」


 悲鳴が聞こえたのは、後ろのほうからだった。

 嫌な予感を感じた竜達は振り返った、

 その時、ドスドスドスとなにかの足音が、


「!!」


 その足音を聞いた竜は風林を両手で抱え、その場から離れた。


「ちょ、黒川くん!?」

「しっかり摑まってください!!」


 全速力で走る竜。

 そんな彼とサキの耳に、


「キャアアァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁ助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 先程まで一緒にいた大山ユキと田中レイの悲鳴が聞こえた。


「黒川くん!どうして!!」

「アレから全員、逃げるのは無理です!助けられるのは近くにいたあなたしか無理だと思ったんです!」


 足音の正体は分からない。

 だがすぐに危険だと察知したる竜は、一番近くにいたサキを連れて握ることを選んだ。


(自分が最低な事をしているのは分かってる。人を見捨てたのも分かってる。けど!アレはダメだ。アレとは戦っちゃいけない!)


 竜は運動が得意だが、それ以外は普通だ。

 だが一つだけ普通の人よりも高いものがある。


 それは……危険感知だ。


 幼い頃、竜は事故に遭い、大けがをしたことがあった。

 それ以来、竜はなんとなく危険をすぐ察知することができるようになった。


 だからこそ分かったのだ。


 あの足音の正体は……危険だ。

 出会ったら確実にゲームオーバーになると。


(とにかく振り返るな!走れ!走れ!走れ!)


 竜は全速力で走った。後ろから近づいてくるなにかから逃げるために。


<<<>>>


 三十分後。

 なんとか危険なから逃げることができた竜はサキを降ろし、床に座った。


(クソ……甘く見てた。脱出ゲームって、そういうことか)


 竜は今いるこの城から抜け出せばいいと思っていた。

 だが違った。

 本当はあの危険な何かから逃げなければならなかったのだ。


(どうにかして早くこの城から出ないと)


 竜は立ち上がったその時、


「なんで……なの……」

「風林さん?」

「どうして!どうしてあの人たちを見捨てたの!!」

「……」


 怒りが込められた声を吐きながら、サキは竜を睨んだ。


「あなたが見捨てたせいであの人たちは……大切な人たちを!」

「……」


 竜は何も言い返さなかった。

 いや、言い返せなかった。

 サキが言っている通り、竜は田中レイと大山ユキを、見捨てたのだ。

 今頃、ゲームオーバーになって現実世界で大切な人たちを失っているだろう。


「見損なったわ。もう私と関わらないで」


 そう言ってサキは別の通路に向かって歩く。

 そんな彼女を竜は追いかけることが……できなかった。


 ただ……拳を強く握り締め、床に視線を向けることしかできなかった。

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