国語 3
「皆さんはどうやって宿題を終わらせますか?」
教室に沈黙が下りる。近くにいた女の子が「自分でやるんじゃないの?」と不思議そうな声をあげたので、有希はその言葉を拾って「そうだね。それも大事だね」と答えた。
「けれど」
そう続けて、黒板に「とにかく完成させること」と書いていく。
「頑張っても出来なかったは論外だし、逆に言えば誰かに手伝ってもらったり、多少ごまかしても完成させることが正義です」
次に『宿題以外のやらなくちゃいけないことを考えておく』にチョークを合わせた。
「ここで伝えておきたいのは、完成させるにあたって、障害物があるということです。予定通りに行く、ということはまずありえません。必ず邪魔が入ります。それを踏まえたうえで、夏休みの宿題を完成させる計画を立てなければいけません」
「どういうこと?」と次々浮かぶ疑問の言葉に、有希が答えていく。
「最終日にまとめてやるにしても、その他にもやらなくてはいけないことが出てくる場合があります。この日にやろうと決めて時間を空けていたとしても、理不尽なきょうと……人たちから仕事や用事を頼まれてしまうことがあります。そしてそれらは大抵断ることが出来ません」
一度咳をして喉を整える。
子供たちは話が難しいのか、ペンをいじくりまわしたり、椅子にもたれかかって天井を見上げたりする姿が散見された。子供たちは集中力が切れてきている。夏休み明けを楽にする為に、何とか最後まで聞いてもらわなくてはいけない。
そう、授業も予定通りにはいかないし、とりあえず完成させなくてはいけない。
「皆さんが宿題をやらなくてはいけなくても、お家の人からお風呂掃除や買い物、犬の散歩などを押し付けられると嫌だよね。あれもこれもしなくちゃって、段々と余裕が無くなってきてしまうのです」
駆け足気味になりながらも、さらに言葉を重ねる。
「だからこそ、バッファを持たせて生きていくことが大事なのです。もし宿題を最終日にしか出来ないなら、それ以外のお手伝いや用事を予め済ませておくことも重要です。そこまでの根回しをしておいて、初めて遊ぶ時間が作れるんです」
いいですか?と締めくくり、子供たちに書き取りをさせていく。
後日、そのノートを見た保護者からクレームが来たのは、また別のお話。
これも大事な授業です 月峰 赤 @tukimine
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