7話「伝わらなくて困る」

「せんぱいから誘ってもらえるなんて思いませんでした。」


「看病のお礼?そんなの気にしなくて大丈夫でしたよ。でも誘ってもらえたのはとっても嬉しいです!」


「花火大会なんて何年ぶりだろう。」


「全然来てないですよ。学生ぶりですかね?意外ですか?」


「だって家から聞こえるし、見えるじゃないですか。」


「花火興味はありますけど、一緒に来る人いなかったんですもん。」


「そういうせんぱいは来るんですか、花火大会。」


「来ないじゃないですか!!なーんだ。一緒に来る人私以外にいるのかと思いました。」


「そんなことよりなんか言うことあるんじゃないですか?せんぱい。」


「ほーら、見てください。時間かかったんですから。」


「そうです!かわいいでしょ、浴衣!」


「着方とか調べて私ひとりで着たんですよ!がんばったと思いませんか?」


「むう。もっとちゃんとほめてくれないと、拗ねちゃいますよ。」


「えへへ、かわいいってもっと言ってください。嬉しいですから。すごく。」


「ヘアセットもやったのかって、うまいって、ありがとうございます。でも、えっと、それは。」


「美容院でやってもらったんです。この前今日のために練習したんですけど全然思ったようにいかなくて。かわいいって言ってもらいたかったので、予約してやってもらいました。」


「ヘアセットってどうやったらうまくできるんですかね。せんぱいやってくださいよ!私でいっぱい練習していいので。」


「なんちて。嘘ですよ。私がんばって練習します!」


「だから、また来年も誘ってくださいね。まだ花火始まってませんけど。」


「花火まで時間あるので、あの辺の屋台見て回りますか?」


「もしかしてなんか食べてきちゃったりしましたか?」


「よかった!私も食べてなくて、色々食べちゃお。」


(とことこ 足音)


「んー、何にしようかな。せんぱい何がいいですか?」


「もしよかったら、色々食べたいので半分こしませんか?」


「そんなに、色々食べたいのかって?えっと、焼きそばと箸巻きでしょ、あと、たこやきとたい焼き、ベビーカステラにかき氷とりんご飴とか。」


「食べすぎですか?せんぱい、いっぱい食べる女の子は嫌いでしたか?」


「食べてもいいんですか?やったー。じゃあ一緒に買いに行きましょ。」


「すいませーん。焼きそばひとつー!!」


(とことこ 足音)


「よいしょ~。いっぱい買えましたね。冷めちゃおいしくないですから、いただきましょ。」


「いっただっきまーす。」


「んーおいしい。せんぱいも食べますか?」


「はいどうぞ。あーん。」


「おいしいですか?よかったー。」


「これもこれもおいしい。」


「ねえせんぱい。口にソースついてますよ。かわいいですね。」


「違うそこじゃなくて、もうちょっと右。右ってせんぱいから見て右ですよ。そうそうそっち。ああ、行き過ぎです。」


「もう、取ってあげます。こ・こ。」


「取れましたよ。よかったですね。」


「ささ、そろそろ花火始まっちゃいそうです。近くのほう見に行きましょう。」


「いてっ。」


「せんぱい、ちょっと待ってください。すぐ大丈夫になるので。」


「無理しなくていいだなんて、優しいですね。せんぱい。」


「でもここじゃ、家で見るのと変わらないくらい遠いですよ?せっかく来たんだから、頑張りますよ。」


「はい。わかりました。おとなしく座ってますよ。」


「絆創膏はってくれるんですか?でも、足汚いですよ。いっぱい歩いたし。汗いっぱいかきました。」


「それでも?痛そうだから?我慢してはなかったですよ。たぶん。きっと。」


「白状しますよ!さっきからちょっと痛かったです。ほんのちょっとですよ。大丈夫かなってくらいの。」


「そんな心配しないでください。大丈夫ですから。ほんと優しいですね。」


(花火の音 どーん)


「......になっちゃいそうです。てかなってるか。」


「ん?なにもいってないですよ。ほんとですってば。もう、そんなに詮索しないでください。恥ずかしいです。」


「ほら、花火始まったんですからちゃんと見てくださいよ。」


「ほらほら、綺麗ですよ。」


「わたしあのしだれ花火でしたっけ。好きなんですよね。」


「あ、みてください。星ですよせんぱい!かわいい。みてみて、ハートもありますよ。あれもすごいですね。どうやってやってるんだろ。」


「ね、せんぱい。」


「せんぱい?」


「なんかこっち見すぎじゃないですか?花火あがってるんですから花火見ないと。私見たってなにも出てこないですよ?」


「そんな見られたら、穴開いちゃいますって。」


(花火の音 どーん)


「せんぱい?なんか言いましたか?聞こえませんでした。ほんとに!もっかい聞いてもいいですか?」


(花火の音 どーん)


「花火で聞こえないです。もっと大きい声で言ってください。」


(花火の音 どーん)


「んふふ、なんですか。わからなかったのでもっかいお願いしますね。」


「もう言わないんですか?えへへ、聞こえなかったのでもういっかい言ってほしいんですけど。お願いします。もういっかいだけ。お願いですってば。」


「えへへ、今度はちゃーんと聞こえましたよ。」


「聞こえちゃいました。」


「それがほんとだったら、私。嬉しくて足の痛みなんて忘れて飛び跳ねちゃいますよ。」


「はーい。悪化しないようにやめときますよ。」


「えへへ、とってもにやけちゃいますね。」


「せんぱい。えっとね。えっと。」


「私もおんなじですよ。」


「だーかーらー。」


「好きですって言ってるんですよ。」


「鈍感なんですからもう。」


「ささ、花火も終盤ですよ。せんぱい。」


(花火の音 どーん)


「大......ですよ。せんぱい!」

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