聖剣使い殺し

春野あき

第1話 聖剣使い殺し

「アルノルト、お前は聖剣使い殺しな。」


 座っていても威圧感のある男、ズザンに言われ、アルノルトは黙って頷いた。

 

 現在、世の中には、何千人という勇者が存在する。日々、何人もの勇者が誕生しては殺されているのだ。勇者になる方法は様々で、預言者によって選ばれるとか、自ら名乗りを上げるとか、聖剣を引き抜くとか…。


 日々誕生する勇者を始末するために魔王4人は集められ、役割分担を決めることになったというわけだ。


 アルノルトが担当する羽目になったのが「聖剣使い殺し」。一番面倒な汚れ仕事だった。聖剣を引き抜く人間は稀だが、勇者の中では強者揃いだ。


 他の魔王2人は会議が終わるとそそくさと消えたが、テオだけはアルノルトに話しかけてきた。


「聖剣使い殺しか、お前の顔を拝むのもこれで最後かもな。」

「ふん、心配でもしてくれるのか?礼を言う。」

「まさか、せいぜい頑張れよ。」


 アルノルトの方を向くことなく手を振って去っていく姿を少し確認してその背から目をそらした。2人の魔王に比べれば、テオの態度は良好だ。他2人はアルノルトと極力話したくもなさそうなのだから。


 今は魔王が4人いるが、50年ほど前まで魔王はただ1人だった。その魔王の息子こそアルノルトだ。しかし、父親はズザンに殺され、ズザンが魔王になってからアルノルトは人間にも魔族にも受け入れられない存在だった。そんなアルノルトが魔王の1人となったのはほんの数年前の話で、4人の魔王の中でも圧倒的に力のない存在だ。

 1人、円卓でアルノルトは考えごとをした。


「リア、居るか。」

「はい。主様。」


音もなくいつの間にか赤毛の少女がアルノルトの後ろに立った。リアはアルノルトの唯一の部下だ。


「聞いていたか?聖剣使い殺しの役割を賜ったぞ。これから楽しくなりそうだな。」

「えぇ、本当に。」


 アルノルトが笑うのを見てリアも微笑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖剣使い殺し 春野あき @nono_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ