第21話 無いなら私が創る
「ここまで来たことは褒めてやろう。…だが、どう足掻いても私には勝てん」
「私が押し負けたというのですか?私が開眼していれば、どんな能力も理屈も概念も不干渉で、一方的に葬れるというのに!」
「能力?理屈?概念?そんなものを行使して何の価値がある?私の前では理不尽な屁理屈だろうが、言葉の意味がどうとか、森羅万象を無に帰す単純な力量差も関係ない。なぜなら私によって、“そのように出来ている”からだ。」
そのように出来ている…?
一体どういうことなのでしょうか?
「海奈、お前も未来を見たなら分かるだろう?遠い未来で神は人間という存在を創る。そしてその人間が創作し、観賞する漫画や小説といった“物語”というものが誕生する」
「それがなんだというのです?」
「もし私たちがいるのが、創られた物語だと言えば分かるか?」
「…まさか!?」
「この全宇宙に存在する森羅万象、お前たちがしていること、喋っていること、考えていること、これらは全て私が創り上げた物語ということだな。お前たちはその物語に登場する者に過ぎない。お前たちがどれだけ滅茶苦茶なことをしようが、私がそのように創り上げただけのこと。この物語は何もかもが私の思うがままだ」
お姉様が創った…物語?
「海奈、まさにお前はこの物語の語り手を担っているだろう?これはお前自身の観点から語っているように見えるだろうが、これも私がそのように創り上げただけのことだ」
「では何故、私たちと戦うなどという意味の分からない真似をしているのですか?好きなように創ることができるのであればいつでも好き勝手に何もかもできるでしょう?」
「それでもお前たちは私の愛する妹だからな。私を倒そうという最低限の意思を尊重したまでだ」
王奈はまた海奈たちを一瞥する。
…ブッシャァァァッ!
「がはっ…」
「くはっ…」
また海奈たちは吹き飛ばされ、海奈と星奈の血が大量に飛び散っている。
「すまない。苦しいようにはせんと言ったのに血を流させてしまった。海奈の言った通り私は残忍な性格だな」
海奈は、王奈には勝利できないと確信し、絶望した。
しかし…。
「ねぇ…王奈お姉ちゃん」
「なんだ、星奈?」
星奈が王奈に語りかけた。
「お姉ちゃん。この物語は何もかもが私の思うがままだって言ってたよね?」
「あぁ。それがどうした?」
「お姉ちゃんはこの物語を創り、自分で見ている。でも自分が見られる側になることって考えたことはある?」
「…なに?」
星奈は一歩も動かず、何もしませんでした。
しかし、お姉様は―――。
「グハァッ!」
先程の私たちと同じように、身体中から大量に出血していました。
「まだだよ」
そして、星奈は一歩踏み出しました。
「ぐ あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
お姉様の体はボロボロになり、悲鳴を上げています。
「何をした…星奈?」
「物語の創造主は、自分が創作されるだなんて思いもしない。私たちはお姉ちゃんの創った物語。でも“お姉ちゃんの物語”が無いなら私が創る」
「私の物語を創る…だと?」
「星奈?どういうことです?」
「創作物に登場する者がどんなに強くても、それは創造主がそうやって創り上げただけ。創造主には絶対に敵わない。私たちが王奈お姉ちゃんに敵わなかったのも、王奈お姉ちゃんが私たちが負けるように物語を創ったから。…でも逆に、お姉ちゃんも物語として創られたらどうなると思う?」
「私の真似事のつもりか?」
「ううん。お姉ちゃんが私の真似をするの」
「なんだと?」
「お姉ちゃん…ごめんね」
星奈は剣を顕現させ、王奈の全身をバラバラに切り裂いた。
「星奈、お姉様の身体は切り裂いても意味はありません。すぐに蘇ってしまいます」
「それは…どうかなぁ?」
星奈は王奈の生首を掴んだ。
「どういうことだ?身体が言う事を聞かない…だと?」
王奈の身体は微動だにしない。
「王奈お姉ちゃんが敗北するように創られた物語を創作しただけだよ。もうお姉ちゃんがどう足掻いても無駄。次は…爆ぜてもらおうかな」
星奈は手から炎を出現させ、超絶爆破させた。
「があぁぁぁぁぁっ…!」
王奈は真っ黒に焼け焦げ、ボロボロになってしまった。
「すごいです、星奈!これで勝利は…」
「クククク…」
「「!?」」
すると、王奈は不敵な笑みを浮かべた。
「素晴らしい…、素晴らしいぞ!ここまで私を驚かせ、楽しませてくれたのはお前たちが初めてだ!やはりお前たちがいてくれてよかった!ありがとう!」
気が狂ってしまったのだろうか?
海奈は、王奈から不気味かつ脅威的な何かを感じ取った。
これを前にして、あまりにも危険だと察した。
「星奈、逃げてください!」
「え?海奈お姉ちゃんはどうするの?」
「私はまだお姉様の征伐に専念します。星奈、お姉様に勝てるのはあなたしかいません。ここで負けるわけにはいかないでしょう?」
「…これでお別れなんて言わないよね?」
「約束です。必ずまた会いに行きます」
星奈は扉をこじ開け、王奈の支配域から脱出した。
しかし―――。
「私から逃げられるとでも?」
「あ…」
いつの間にか王奈の手は星奈を貫いていた。
星奈はそのまま消えていく。
「そんな…星奈」
「…ごめんね、お姉ちゃん。もう約束破っちゃった…」
「すまない…星奈。愚かな姉を恨んでくれ。本当は私はお前に倒されるべきだったんだ」
「いいの。それに…私には分かる。いつか王奈お姉ちゃんを倒す誰かが現れるから」
「私を倒す誰か…だと?」
「それは…人間だよ」
「人間が…?それは楽しみだな。その時は星奈もいてくれると嬉しかったのだがな…」
「それじゃお姉ちゃんたち、もうお別れかな。また会えたらいいな。…じゃあね」
そして、星奈は完全に消えてしまった。
― 第22話に続く ―
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