第4話


 怠いほど暑苦しい空気が、窓から風になってやってくる。僕は頬杖をつきながら視線を外にやった。



 ミンミンと鳴き続ける蝉は、声が途切れることがなく永遠の生命のように思えるが、実際は地上に出て7日ぐらいしか生きていけない、儚い生命。



 あっという間の一生を終えた蝉はどうなるのだろう。また同じ生き物として生まれ変わるのだろうか。それとも、別の生き物に転生するのだろうか。はたまた、転生という概念はそもそも存在しないのか。



 ……なんて、死んだことのない僕には分からない。



 それでも、心のどこかで魂の転生を望んでしまう。だって、そうしたら、葵葉をあの世界から救い出せるかもしれないから。



「おーい、祥太郎」



 不意に名前を呼ばれて振り向くと、樹隆きりゅう爽楽そうらがリュックを背負って待っていた。早く帰ろうと言いたげな表情に、「今行く」と返して立ち上がる。



 2人は高校でできた友達だ。葵葉と奏太と結菜、3人との関係は切っても切れないし、そもそも切りたくもない。だけど、親友とは別に、ちゃんと世界を広げないといけない。いつまでもあの頃に囚われていたら、葵葉に怒られる気がするから。



「おっせーよ」

「ごめんごめん」

「なぁ、これからカラオケ行かね?」

「おっ、いいじゃん。な、祥太郎?」

「いいね!」



 どこにでもあるような光景。それでも僕は、この日常に感謝する。命がある、この日々に。



 たくさん思い出を作ろう。たくさん体験をしよう。そして語るんだ。



 来年の13日、葵葉に会えた時に。

 



 

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僕らの非日常 葉名月 乃夜 @noya7825

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