第30話 HONYA

 というわけで、アキナの商会が経営する本屋に到着したが、でかいな!

 俺の世界だと、専門書とかも色々扱っている規模の本屋だと思う。

 改めて、アキナの商会が大きな所だと感じるな。


 そういえば、この世界に来てから本屋に行ったことはなかったな。

 こんな大きい本屋だし、いろんな異世界の本がありそうで楽しみになってきた!


「この世界の本屋に来るのは初めてだから、まずは軽く見て周りたいんだけど、いいかな?」


「いいわよ! 私もちょうど探したい本があったし」


「ふむ。ではそうしよう」


 ということで、本屋を探索することにした。



 ほうほう、あっちに置いてあるのは魔法関連の本かな?

 やっぱり異世界だし、そういった本はあるよな。


 そういえば前にホムラが、また魔法を教えてくれるって言っていたな。

 魔法についても色々聞きたいことができたし、楽しみだ。


 あ、でも、魔皇まこう全員と会う予定が先かな? 調整しておいてくれる、って言っていたし。


 こっちは……、お!

 錬金術の本だ!

 めっちゃ異世界っぽい!

 ちょっと読んでみようかな。


 ……うーん。

 錬金術のレシピとか手順が載っているけど、材料の名前を見ても全然ピンとこない。


 他にも趣味関連の本とか、初心者でもわかる剣術! みたい本もあった。

 こっちにもそういった本はやっぱりあるんだな。

 扱っている内容は剣術とか槍術とか、ファンタジーっぽいものもいっぱいあるみたいだ。


 それでここは……、小説がおいてあるみたいだな。

 目当ての本である、ゴブリンの物語を探してみるか。



 うーん、見当たらないな。

 気になる本は色々あったけど。


 クローズドサークルのミステリーっぽい本は、魔法がある世界でどう閉鎖空間を構築するんだろう?

 他にも冒険者二人組が、依頼先で様々な事件に巻き込まれる長編シリーズや、日常にひそむ謎を探る話なんかもあった。

 日常と言ってもこっちの世界での日常なので、どちらもこの世界ならではの物語になっていそうだ。


 いろいろ気になって見ちゃったけど、今になって気づいた。

 どう考えても、ここはミステリー関連の棚だ。

 


 とりあえず別の棚に行こう、と顔を上げたらアキナを見つけた。

 むこうもこっちに気づいたようで、


「どう? 色々見て回れた?」


「気になる本が多すぎて、まだまだ見れていない場所ばっかりだよ。今度、一日かけて見て回ろうかな」

 

「この店舗は品揃えが自慢だからね! そうね、ハクトの探している本はこっちにあるわよ」


 とアキナが案内してくれた。

 やっぱり、来たことがある人に案内してもらうと早いな。


「この本ね!」


「お、ありがと」


 アキナから受け取った本の表紙を見てみると、前にみたゴブリンの駒とそっくりな絵だった。

 イズレの再現度はやっぱりすごいな。


「わたしは買いたい本を見つけたから、目的は達成したわね。ハクトはどう?」


「今日はこの本を買いに来たし、俺も今日は大丈夫かな」


「それじゃ、イズレを探しましょう!」



 うーん、イズレが見当たらない。

 エルフは森の中で隠密おんみつが得意、って作品もあるけれど、本の森でそれを発揮しないでほしい。


「あっ! いたわ!」


 アキナがイズレを見つけたようだ。


 声のした方に行ってみると、イズレは角の方で本を立ち読みしているみたいだ。

 多分、邪魔にならないようにしてるんだろうけど、そんな端っこにいたらなかなか見つからないな。


「イズレの用は済んだかしら?」


 とアキナが話しかけていたが、イズレは本に集中しているようで、全然気づいていない


「イズレ? おーい」


 俺も話しかけてみたが、全然反応しない。

 再度アキナも話しかけたが、これも無反応。


 うーん、肩でも叩いてみるか。


「む。ハクトとアキナか」


 お、ようやく気付いた。


「ハクトとアキナか、じゃないわよ! ……まあいいわ。イズレの用は済んだ?」


「ああ、私は元々さっと見る程度の予定だったからな。……ふむ。この本が興味深く、集中してしまったようだな。購入し、て後でじっくり読むとするか」


 さっきまで、俺たちの声が聞こえないくらいじっくり読んでいたけどな。

 

 というわけで、それぞれで本の会計を済ませた。



 店を出たところで、


「そういえばハクトは、商業ギルドとかに口座は持っていないわよね?」


「ああ。作れることは聞いていたけど、必要性を感じなかったからな」


 半年間の旅行みたいな感覚だったから、そもそも作ろうって発想がなかったし。


「絶対に必要だと思うわ!」


「え、そうかな?」


 半年で帰るし、そもそも口座が必要なほどの大金を稼ぐ予定もないしな。

 

「ふむ。私も同意見だな」


「イズレまで!?」


「それじゃ、次の目的地は決まったわね!」


 ということで、次は商業ギルドに向かうことになった。

 うーん、必要ないと思うんだけどなぁ。



 ということで、商業ギルドに到着した。


 壁はコンクリートみたいな見た目で、四角い箱を何個か組み合わせた、角ばったデザインの建物だった。

 なんというか、役場! みたいな見た目な気がする。


「とりあえず入りましょ。中には役割ごとに受付があるから、口座を作れる受付まで案内するわ!」


 とアキナにうながされ、建物内に入った。


 中に入ると、なんというか昔の銀行っぽい雰囲気だった。

 正面には複数の受付が並んでおり、その近くには順番や処理などを待つためだろう、いくつか長椅子が置いてあった。

 一番左の受付に、案内、と書かれていた。初めて利用する時は最初にそこで色々聞くんだろうな。

 とはいえ、アキナは迷いなく一つの受付を目指して歩きだしたので、それについていった。


「ようこそいらっしゃいました。アキナ様、本日はどういったご用件でしょうか?」


「あ、今日はわたしじゃなくて、知人の口座を作りに来たの」 


 おお、受付の人に顔と名前を憶えられている。

 流石は、大きな商会で、一部門のトップを任されているだけあるな。


 アキナは俺の方を向くと、


「彼に口座を作って欲しいんだけど、どうかしら?」


「何か身分を示すものはありますでしょうか? アキナ様の紹介、といった形で口座を作ることも可能ですが、その場合は上限額や取引など、いくつか制限がかかった状態での作成となります」


「あっ、そうだったわね。……ハクト、身分を示す物、なんて持ってないわよね?」


 うーん、身分証みたいなものか。

 異世界から来たし、どこかで作った覚えも……。


 あっ! もしかしてあれが使えるかな?


 俺は、いつも身につけているバックから、前にクレアから(メイドさん経由で)貰ったエンブレムを取り出すと、受付に見せた。


「これは、身分を示すのに使えるか?」


「こ、これは……。あっ! 失礼いたしました。もちろん、問題なく使用できます」


 ……何も考えずに提示しちゃったけど、出す度に驚かれそうで、あんまり多用はしないほうが良さそうかも。


 ちらっとアキナを見ると、あきれたような視線でこちらを見ていた。

 ……せめて何か言って欲しい。


「エンブレムを確認いたしました。国からの身分が保証されているということで、制限のない口座が作成できます」


 制限のない、ってどういうことなんだろう?

 うーん、色々説明されても分からないだろうし、普通の口座との差を聞いておこうかな?


「えっと、普通の口座と比べて、何かデメリットとかはある?」


「ご本人様が利用する場合は基本的にありません。ただ、代理人を立てる場合には通常よりも厳重な手続きが必要です」


 代理人か。

 基本的にはその必要はなさそうかな。

 あ、そういえば


「もしも口座を解約したい時は、どんな手続きが必要なんだ?」


「お金をすべて引き出す、どなたかの口座に振り込む、といった処理は必要ですが、ご本人様が来ていただければ、すぐに解約も可能です。ただ、金額次第では、引き出すのにお時間が必要な可能性もあります」


 帰る時にはお金を引き出して教会に寄付する、とかで大丈夫そうかな?

 ……多分忘れそうだけど、一応考えておこう。


「わかった、ありがとう。それじゃ、口座の作成をお願いします」


 その後の手続きは、登録者の名前の確認、受付に備え付けの魔道具に魔力を流して、俺の魔力と口座を紐づける作業を行った。

 魔道具にはあらかじめカードがセットされており、利用する際はそのカードを用いて本人確認をするそうだ。

 元の世界で言うキャッシュカード的なやつだな。

 

 カードを紛失してしまっても、本人の魔力を流さないと使えないが、再発行にはお金が必要なため気をつけてください、と言われた。

 元の世界と違って落としても悪用されないのは便利だな。

 とはいえ、落とさないに越したことはないけど。


 そのカードには何桁かの数字が書かれており、その数字と名前を受付に言うことで、その人の口座に振り込みができるようだ。

 これが、元の世界でいう口座番号ってことかな。


 ちなみに、他の商業ギルドでお金を引き出せるようにするには、最初に登録した商業ギルドで、どこの商業ギルドを使うかを申請する必要があるみたいだ。


 流石に、元の世界の銀行みたいにはいかないか。

 まあ、転移門もあるし、そこまで不便はしなさそうか。


 それでも、魔道具で色々工夫しているみたいだし、やっぱり魔道具って便利だな。

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