第31話 無意識でやっている、気配を消すのを

 無事口座が作れたため、アキナとイズレに口座の番号を教えておいた。

 今後報酬が発生したらそこに振り込んでおく、とのことだった。


 アキナからは、


「イズレの時もそうだけど、ハクトは変に遠慮しそうね。報酬が発生した時は、わたしがきちんと判断して振り込んでおくわ。商人としても、そこは譲れないわよ!」


 なんて言われた。


 正当だと思ったらきちんと報酬は貰うぞ、なんて答えたけど、アキナからは疑惑の視線を向けられた。


 げせぬ。



 商業ギルドから出たタイミングで、俺のリンフォンからリーンという音が鳴った。

 

 すぐに確認してみると、やっぱりアオイからの返信だった。

 内容としては、ハヤテの件と、アオイの設計図のことだった。


 ハヤテの方からは伝言を預かっていて、

 

『直接会って話した方が良さそうだね! というか、アオイもホムラもハクトと直接連絡が取れるのずるい! ボクもハクトと連絡できるようにしたい!』


 とのことで、そういえば、この前王城で会った時に交換しておけばよかったか。

 

 アオイの方は、明日には設計図が完成する見込みのようで、予定が空いていれば明後日にそれを渡したい、とのことだ。

 また、その時はハヤテもいっしょに会うことができそう、ということだ。


 二人にそれを伝えると、


「明後日ね! 予定ができそうになっても無理やり空けるから、わたしも行くわ!」


「ふむ。私のほうは作業する日程を調整すれば問題ないな」


 と言っていた。

 二人が会いたいという旨をアオイに伝えたところ、すぐに返信があり、


『もちろん大丈夫だよ。明後日を楽しみにしてるよ』


 との返信が来たため、二人に伝えた。

 

 そして明後日の朝、教会前に集合ということになり、本日は解散することにした。


 アキナの方が色々準備しなくっちゃ、なんて言っていたので、明後日までに色々準備してきそうだな。


 なんだかんだで今日はあちこち行ったし、解散するタイミングとしても丁度よかったかもな。



 そして次の日。

 明日はハヤテに会うことだし、さっそくゴブリンの物語を読むことにした。


 本のタイトルは、小さきゴブリンの冒険。

 内容は、四人のゴブリンが船から投げ出され、島に漂着してしまうところから始まっていた。

 

 ゴブリンたちは知恵を出し合い、まずは拠点を作ることにした。

 それぞれが得意な魔法や特技を駆使して、木を加工して壁を作ったり、簡単な食器や調理道具を作ったりしていた。

 また、獲物を取るための罠までも作っていた。


 これが誇張とかでなければ、ゴブリンたちは手先が器用みたいだな。

 それに、すぐに生活の拠点が作れるのもすごい。


 その後も、仲間たちの元に帰還するために四人で困難を乗り越えていった。


 特に自分たちが絶対に勝てない魔物に遭遇した時のシーンでは、魔法や罠を駆使して翻弄ほんろうしたり、誰かがピンチになった時には他のゴブリンたちが勇気を振り絞って助けたりしていた。

 そして最後は、何とか魔物を倒すことができた。


 ここを読んでいた時はすごくハラハラしたし、魔物を倒したときは思わす興奮してしまったぜ。


 そしてさらに色々ありながらも、最後は小さな船を使って島を脱出、無事仲間たちの元に帰ることができハッピーエンドとなった。


 本はそこそこ分厚かったが、途中休憩や食事などを取りつつ一気に読んでしまうくらい、とっても面白い物語だった。

 これは人気になるな。


 とまあこんな感じで、この日はほとんどを読書に費やしてしまった。

 物語は面白かったし、これはこれで有意義ゆういぎな時間だったけれどね。



 そしてついに今日は、アオイ、ハヤテ、アキナ、イズレが集合する日になった。


 集合時間が近づいたので教会の前に行くと、既にハヤテとアオイが来ていた。

 俺を見つけたアオイが、


「やあ、おはようハクト君。設計図だけど、無事完成したよ」


 と挨拶してきた。

 設計図が完成したみたいでよかった。続いてハヤテも、


「ハクト、おはよ~! 今日はゴブリンの物語について聞きたいことがあるんだったよね? ちなみに、絵はボクが描いたんだよ!」


 まさかの事実が判明!

 ハヤテ、絵を描くのが上手かったんだな。


「実際に見てみたけど、すごく上手だったよ! とはいっても、本物を見たことがないんだけどね」


「本物か~。それは難しいかもしれないね! ゴブリンのあの姿は中々見れないだろうし」


 ……うん?

 あの姿って言った?

 どういうこと?


「ハヤテ、あの姿って――」


「あっ! ハクト、もう来ていたのね! それと、二人いるってことは地魔皇ちまこうさんと風魔皇ふうまこうさんかな?」


 ハヤテに質問しようとしたところ、アキナが来たみたいだ。


 アキナはアオイ、つまり地魔皇とはあったことがあるって言っていたような……。

 ってそういえば、前にホムラが、人間界では認識を誤魔化す魔法を使っているって言っていたな。


「ふむ。これで全員揃ったか」


 えっ!?

 ……いつの間にか、イズレも来ていたようだ。

 皆もびっくりしてる。


 本屋の時といい、隠密おんみつをしないで欲しい。

 本人は無自覚かもしれないが。


 と言うか、魔皇が気づかないって、結構すごいのではないだろうか。


「びっくりするから、気配を消すのはやめてって言ったでしょ!」


「ふむ。面倒ごとを避けているうちに、無意識に消すようになってしまったからな。教会前に見知らぬ人物がいて、気づかぬうちに消してしまったようだ」


 癖になってる、とか言いそうなやつだ。


「な、なんだか変わった人だね」


「流石はハクトの友人だね!」


 アオイ、その認識は正しい。

 そしてハヤテ、それはいったいどういうことだ。


「とりあえず、お話できる場所を確保してるから、一旦そこに移動してもいいかな?」


 皆が賛成したので、アキナが準備してくれた場所に行くことにした。



「あれ? ここって一昨日ご飯を食べたお店だよね?」


「そうよ! とりあえず半日ほど貸し切りにさせてもらったわ。……元々、そんなにお客さんも多くないし」


 前に来た時もほとんど人がいなかったけど、あれはいつものことだったのか。

 そして流石はアキナ、準備がいいな。


「さて、それじゃまずはお互い自己紹介をしましょ! ハクトはそれぞれが知っているだろうし、他の皆でかな?」


 考えてみたら、異世界から来たはずの俺が全員と知り合いって不思議な感じだな。


「そうだね。あっ、その前に」


 とアオイが言うと、何かの魔法を解除した気がする。

 ハヤテの方も、それを聞いて同じようにしていた。


「認識を誤魔化す魔法を解除したよ。ここは貸し切りみたいだし、他の人をびっくりることはないかなって」


 あ、やっぱりその魔法だったか。

 俺みたいに魔力が強い人には効かない、ってホムラが言っていたし、実際それが実感できたな。


「ボクも解除したよ! それじゃ、まずはボクから! ボクは風魔皇で、名前はハヤテだよ! 魔界の名前は人間には聞き取りづらいから、ハクトに名前を考えてもらったんだ~」


 それを聞いたイズレとアキナは、顔をこちらに向けてきた。


 ……アキナ、そのまたか、みたいな視線はやめてくれ。

 そしてイズレ、やれやれ、みたいな雰囲気を出してるけど、そっちの気配を無意識に消すって癖も、人の事は言えないぞ。


「私は地魔皇のアオイ。主に魔道具の研究を行っているよ。多分お察しの通り、アオイって名前はハクト君に考えてもらったものだね。ちなみに、魔皇全員の名前を考えてもらっているんだ」


火魔皇えんまこうのホムラ以外にはまだつけてないよ!」


 ……いや、既にいくつか候補は考えているけどさ。


「まだってことは、名前をつけること自体は確定しているのね……。じゃあ、次はわたし。わたしは今井いまい陽菜あきなよ。アキナって呼んでね! 今井商会っていう所で娯楽部門の責任者をしているの。地魔皇……いえ、アオイって呼ばせてもらうわね! アオイとはその商会の会議で何度か会っているわ」


「ふむ。最後は私だな。私の名前はイズレンウェ。ハクトやアキナからはイズレと呼ばれている。この街で人形の作成と販売をしている」


「さて、それじゃ皆の紹介も終わったし、本題に入ろう。まずは俺がアオイに依頼した設計図からかな?」


「私としては、そこに並んでいる魔道具らしきものが、とっても気になっているけど……。そうだね、まずは今日集まった目的から済まそうか。その後で、じっくりと魔道具について聞いたり、見たり、触ってみたりしたいな」


 ……準備してくれたアキナには悪いけど、集まる場所は別の場所が良かったかもしれない。

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