第31話 無意識でやっている、気配を消すのを
無事口座が作れたため、アキナとイズレに口座の番号を教えておいた。
今後報酬が発生したらそこに振り込んでおく、とのことだった。
アキナからは、
「イズレの時もそうだけど、ハクトは変に遠慮しそうね。報酬が発生した時は、わたしがきちんと判断して振り込んでおくわ。商人としても、そこは譲れないわよ!」
なんて言われた。
正当だと思ったらきちんと報酬は貰うぞ、なんて答えたけど、アキナからは疑惑の視線を向けられた。
げせぬ。
◇
商業ギルドから出たタイミングで、俺のリンフォンからリーンという音が鳴った。
すぐに確認してみると、やっぱりアオイからの返信だった。
内容としては、ハヤテの件と、アオイの設計図のことだった。
ハヤテの方からは伝言を預かっていて、
『直接会って話した方が良さそうだね! というか、アオイもホムラもハクトと直接連絡が取れるのずるい! ボクもハクトと連絡できるようにしたい!』
とのことで、そういえば、この前王城で会った時に交換しておけばよかったか。
アオイの方は、明日には設計図が完成する見込みのようで、予定が空いていれば明後日にそれを渡したい、とのことだ。
また、その時はハヤテもいっしょに会うことができそう、ということだ。
二人にそれを伝えると、
「明後日ね! 予定ができそうになっても無理やり空けるから、わたしも行くわ!」
「ふむ。私のほうは作業する日程を調整すれば問題ないな」
と言っていた。
二人が会いたいという旨をアオイに伝えたところ、すぐに返信があり、
『もちろん大丈夫だよ。明後日を楽しみにしてるよ』
との返信が来たため、二人に伝えた。
そして明後日の朝、教会前に集合ということになり、本日は解散することにした。
アキナの方が色々準備しなくっちゃ、なんて言っていたので、明後日までに色々準備してきそうだな。
なんだかんだで今日はあちこち行ったし、解散するタイミングとしても丁度よかったかもな。
◇
そして次の日。
明日はハヤテに会うことだし、さっそくゴブリンの物語を読むことにした。
本のタイトルは、小さきゴブリンの冒険。
内容は、四人のゴブリンが船から投げ出され、島に漂着してしまうところから始まっていた。
ゴブリンたちは知恵を出し合い、まずは拠点を作ることにした。
それぞれが得意な魔法や特技を駆使して、木を加工して壁を作ったり、簡単な食器や調理道具を作ったりしていた。
また、獲物を取るための罠までも作っていた。
これが誇張とかでなければ、ゴブリンたちは手先が器用みたいだな。
それに、すぐに生活の拠点が作れるのもすごい。
その後も、仲間たちの元に帰還するために四人で困難を乗り越えていった。
特に自分たちが絶対に勝てない魔物に遭遇した時のシーンでは、魔法や罠を駆使して
そして最後は、何とか魔物を倒すことができた。
ここを読んでいた時はすごくハラハラしたし、魔物を倒したときは思わす興奮してしまったぜ。
そしてさらに色々ありながらも、最後は小さな船を使って島を脱出、無事仲間たちの元に帰ることができハッピーエンドとなった。
本はそこそこ分厚かったが、途中休憩や食事などを取りつつ一気に読んでしまうくらい、とっても面白い物語だった。
これは人気になるな。
とまあこんな感じで、この日はほとんどを読書に費やしてしまった。
物語は面白かったし、これはこれで
◇
そしてついに今日は、アオイ、ハヤテ、アキナ、イズレが集合する日になった。
集合時間が近づいたので教会の前に行くと、既にハヤテとアオイが来ていた。
俺を見つけたアオイが、
「やあ、おはようハクト君。設計図だけど、無事完成したよ」
と挨拶してきた。
設計図が完成したみたいでよかった。続いてハヤテも、
「ハクト、おはよ~! 今日はゴブリンの物語について聞きたいことがあるんだったよね? ちなみに、絵はボクが描いたんだよ!」
まさかの事実が判明!
ハヤテ、絵を描くのが上手かったんだな。
「実際に見てみたけど、すごく上手だったよ! とはいっても、本物を見たことがないんだけどね」
「本物か~。それは難しいかもしれないね! ゴブリンのあの姿は中々見れないだろうし」
……うん?
あの姿って言った?
どういうこと?
「ハヤテ、あの姿って――」
「あっ! ハクト、もう来ていたのね! それと、二人いるってことは
ハヤテに質問しようとしたところ、アキナが来たみたいだ。
アキナはアオイ、つまり地魔皇とはあったことがあるって言っていたような……。
ってそういえば、前にホムラが、人間界では認識を誤魔化す魔法を使っているって言っていたな。
「ふむ。これで全員揃ったか」
えっ!?
……いつの間にか、イズレも来ていたようだ。
皆もびっくりしてる。
本屋の時といい、
本人は無自覚かもしれないが。
と言うか、魔皇が気づかないって、結構すごいのではないだろうか。
「びっくりするから、気配を消すのはやめてって言ったでしょ!」
「ふむ。面倒ごとを避けているうちに、無意識に消すようになってしまったからな。教会前に見知らぬ人物がいて、気づかぬうちに消してしまったようだ」
癖になってる、とか言いそうなやつだ。
「な、なんだか変わった人だね」
「流石はハクトの友人だね!」
アオイ、その認識は正しい。
そしてハヤテ、それはいったいどういうことだ。
「とりあえず、お話できる場所を確保してるから、一旦そこに移動してもいいかな?」
皆が賛成したので、アキナが準備してくれた場所に行くことにした。
◇
「あれ? ここって一昨日ご飯を食べたお店だよね?」
「そうよ! とりあえず半日ほど貸し切りにさせてもらったわ。……元々、そんなにお客さんも多くないし」
前に来た時もほとんど人がいなかったけど、あれはいつものことだったのか。
そして流石はアキナ、準備がいいな。
「さて、それじゃまずはお互い自己紹介をしましょ! ハクトはそれぞれが知っているだろうし、他の皆でかな?」
考えてみたら、異世界から来たはずの俺が全員と知り合いって不思議な感じだな。
「そうだね。あっ、その前に」
とアオイが言うと、何かの魔法を解除した気がする。
ハヤテの方も、それを聞いて同じようにしていた。
「認識を誤魔化す魔法を解除したよ。ここは貸し切りみたいだし、他の人をびっくりることはないかなって」
あ、やっぱりその魔法だったか。
俺みたいに魔力が強い人には効かない、ってホムラが言っていたし、実際それが実感できたな。
「ボクも解除したよ! それじゃ、まずはボクから! ボクは風魔皇で、名前はハヤテだよ! 魔界の名前は人間には聞き取りづらいから、ハクトに名前を考えてもらったんだ~」
それを聞いたイズレとアキナは、顔をこちらに向けてきた。
……アキナ、そのまたか、みたいな視線はやめてくれ。
そしてイズレ、やれやれ、みたいな雰囲気を出してるけど、そっちの気配を無意識に消すって癖も、人の事は言えないぞ。
「私は地魔皇のアオイ。主に魔道具の研究を行っているよ。多分お察しの通り、アオイって名前はハクト君に考えてもらったものだね。ちなみに、魔皇全員の名前を考えてもらっているんだ」
「
……いや、既にいくつか候補は考えているけどさ。
「まだってことは、名前をつけること自体は確定しているのね……。じゃあ、次はわたし。わたしは
「ふむ。最後は私だな。私の名前はイズレンウェ。ハクトやアキナからはイズレと呼ばれている。この街で人形の作成と販売をしている」
「さて、それじゃ皆の紹介も終わったし、本題に入ろう。まずは俺がアオイに依頼した設計図からかな?」
「私としては、そこに並んでいる魔道具らしきものが、とっても気になっているけど……。そうだね、まずは今日集まった目的から済まそうか。その後で、じっくりと魔道具について聞いたり、見たり、触ってみたりしたいな」
……準備してくれたアキナには悪いけど、集まる場所は別の場所が良かったかもしれない。
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