第29話 当たりは付いていない、ざんねん

 とりあえず、魔界の件はアオイからの連絡待ちということになった。


「そういえば、ハクトはイズレに何か用事があったの?」


「ああ、実はな……」


 アキナに、調理用魔道具の設計図から試作やその改良を行ってもらえそうな職人を探していること、イズレにドワーフの女性を紹介してもらったことを説明した。


 ついでに設計図の作成者がアオイってこと、この話を王城でしたことを伝えた。


「うーん、設計図に魔皇とか王族が関わることになった過程も気になるけれど……」

 

 アキナはそうつぶやいた後、こちらに向き直り


「ハクト、まず確認したいのだけど、設計図の発案者はハクトってことでいいのね?」


「え、ああ、一応そうだけど」


「異世界の知識に魔皇の設計図、そして王城での需要は確実、ね。ハクト、魔皇の許可とかも必要だろうけど、問題なければうちの商会に製造と販売を任せてみない? もちろん、利益に対してお金は払うわよ!」


「えっ! まだ試作品すらできていないけど……。まあ、そうだな、許可をもらえばお願いしようかな」


「決まりね! それじゃ早速、と言いたいところだけれど、そろそろお昼ね。……調理用の魔道具といえば、お試しでうちの商会が経営している、魔道具で自動化したお店があるの。良かったら行ってみない?」


 魔道具で自動化したお店!?

 ……どんな感じなんだろう、すごく気になる。


「見てみたいし、行ってみたい!」


「ふむ。私も同行しようか」


 イズレ院!



 というわけで、わくわくしながらお店に入ってみたところ、


「いらっしゃいませ!」


 店内には、店員さんが普通にいた。

 そして、奥に見えるのが魔道具なんだろうけど、なんというか……。


「レトロ自販機?」


 それぞれ、うどん、ラーメン、ホットサンド、チャーハンの文字と、絵が描かれた長方形の箱が並んでおり、前に映像で見たことのあるレトロ自販機のようだった。

 実物は見たことはないが、多分それよりは大型な気がするな。

 そんな魔道具が何台も並んでいた。


「ハクトの世界にも、似たようなものがあるのかしら? それも、昔の物みたいね」


 おお、レトロがきちんと翻訳されたのか。

 

「ああ。とはいえ、存在を知っているだけで、実際に使ったことはないけど。あ、でも、飲み物が販売されているものは今でも現役で、俺も何度も使ったことがあるな」


「そうなのね。……それも詳しく聞きたいわね」


 アキナの瞳が怪しく光った気がした。


「ふむ。そういった話は、食事を済ませてからにしてはどうだ?」


「あっ、それもそうね!」


 魔道具から視線を横にずらすと、イートインスペースのように座席がいくつかあった。

 確かにここで立って話しているのもあれだし、購入して席に座るか。


 うーん、どれにしようかな。


「あっ、そうだ! ハクト、この魔道具から出てくる商品なんだけど、軽食にもできるようにちょっと量が少なめになっているわ」


 なるほど。

 ならば、ラーメンとチャーハンのセットでいこう!

 


 ラーメンが描かれた魔道具に近づいてみると、硬貨を投入する口があった。

 この辺もそっくりだな。


 ちなみにお金の単位が円なだけでなく、500円以下は硬貨も存在していた。

 こちらも偽装防止の魔法が掛かっているらしい。


 メニューは一種類のようで醤油ラーメンだった。

 硬貨を投入しボタンを押すと、中から音がしてきた。

 と同時に、何やら紙が出てきた。

 紙には”50”と書かれており、それを見ながら困惑していると、


「あら? もしかしてハクトの世界の物とは少し違うのかしら? それはおつりを貰うために使うのよ。帰るときに入口にいた店員に渡すと、お金が返ってくる仕組みなの」


 なるほと。

 そういえばおつりを取り出す口が見当たらないな。

 ……流石におつりの機構までは魔道具に組み込めなかったか。

 いや、そもそもお金を入れて認識できるだけでもすごいな。

 仕組みが気になるし、後で色々聞いてみよう。


「あ、それと完成までには10分くらいかかるの。今は混んでいないから、他の商品も購入しておくといいわよ」


 なるほど。何台も並んでいるなと思ったが、一つ一つの調理に時間がかかるからか。

 それじゃ、待っている間にチャーハンも購入しておこう。



 ラーメンとチャーハンを食べ終わり、俺とアキナ、お互い気になることを質問しあうことにした。

 あ、食事はどっちもおいしかったです。


「さっきハクトが言っていた、飲み物が販売されている魔道具、じゃなくて機械って言ったかしら? それってどういった物なの?」


 簡単に自動販売機について説明してみた。


 ペットボトルは流石に伝わらなかったが、食料を長期保存するための缶詰はあるらしく、飲み切りサイズの缶詰を冷やしたり、温めて売っているもの、と説明したら、なんとなく理解してもらえたみたいだ。


 それと、ここの魔道具と違い、おつりも自動で出てくることも説明したが、俺も原理は詳しく知らないため、それ以上は説明できなかった。


「なるほどね。でも、ずっと温めたり冷やしたりするのは魔石が勿体もったいないわね。それに、冷やしたり温めたりするのは簡単な魔法だから、常温で販売しても問題ない、かな?」


 こっちの世界は魔法があるから、需要とかも微妙に違うのか。


「魔法が使えるなら、確かに需要は少ないかもしれないな。それで、この魔道具って仕組みはどうなってるんだ? 料理を作る仕組みも、お金を数える仕組みも気になる」


 アキナは、詳しくは知らないけど、と前置きして説明してくれた。


 うどんやラーメンは軽くゆでた麺を結界魔法で包み、魔道具にあらかじめセットしておく。

 注文が入ると、一番下の結界魔法を壊すことで、下にある調理用の入れ物に落ちる。

 水魔法と火魔法で麺をゆで、水魔法でお湯を動かして入れ物から捨てる。

 次に結界魔法で包んだスープを、結界を壊して投入。

 最後に結界魔法で包んだ具材を、結界を壊して投入し、火魔法で加熱して完成、のようだ。


 他の2つも、結界魔法と火魔法を使って調理しているようだった。


 それとお金の方は、お金にかけられた偽装防止の魔法を分析して、いくらお金が投入されたかをカウントしているらしい。

 また、細かい部分は簡易的なゴーレムの腕を用いて動かしているらしい。

 ただ、詳しいことはわからないみたいだけど。


 制作者いわく、この魔道具は結界魔法の工夫した使い方と、単純な動きでパーツや魔石の消耗を抑えたゴーレムによって作ることができた、とのことらしい。


「それでね、この魔道具を開発したのは、ハクトが会おうとしているドワーフなのよ! それもあって、このお店に連れて来たの」


 これを作ったのか!

 すごいな!


「あれ? イズレからは忙しくはしていない、って聞いていたけど本当? これを見た人たちが、別の料理で設計してほしい、みたいに仕事がいっぱい来そうだけれど……」


「この魔道具なんだけど、量産できないから製作費が高いのよね。食材費とか魔石代とかを含めても、動かすコストは安いんだけど、魔道具代の元を取るには結構な数を売らないといけないのよね」


 また、食材を準備したり、結界魔法をかけたり(魔法自体は弱めでいいので簡単)、内部の洗浄やメンテナンスもする必要があるみたいだ。

 アキナの商会のように手広くやっているならともかく、個人経営のお店とかが導入するには大変そうだな。

 

「そういえばここに来る前に、お試しで経営してる、って言ってたっけ」


「そうなの。実際に稼働させることで問題点や改良点、利用者の意見などを集めているのよ! それで、早速製作者に会いに行ってみる?」


「うーん。それは設計図を受け取ってからにしようかな。そっちのほうが話も早いだろうし」


「確かにそうね」


 さて、お昼を食べたし、アオイからの連絡はまだ来てないし、この後はどうするかな……。

 あ! アオイに連絡している件といえば、


「そういえば、ゴブリンの物語って、どんな話なの?」


「そっか。異世界から来たんだし、読んだことはないわよね。それじゃ、次は本屋に行きましょうか!」


「ふむ。せっかくだ、私も久々に行ってみよう。参考になる本が入荷しているかもしれん」


 イズレも引き続き同行するようだ。

 ……フィギュアの完成は後回しでいいのかな。


 あ、店を出る前におつりをもらわないと。

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