第28話 魔界と商会
イズレと一緒に奥から出ていくと
「あっ、ハクトもいたのね。ちょうど良かったわ! ああ、でも先に仕事の話をしておかないと」
と、アキナはさっそくイズレに依頼について説明していた。
それが終わると、
「待たせたわね。それで、もうちょっと話がまとまってから連絡しようかな、と思っていたのだけど、実はチェスの駒について待ったがかかったの」
と言われた。
何日か前に商品化の方向で進展した、って言っていたけれど、どうしたんだろう?
「あの駒は大分見た目が変わったとはいえ、元はゴブリンじゃない? その本人たちが見た時に、勝手に見た目を改変したり、そもそも駒にしたのが問題になるんじゃないか、って話になったの。前に売り場に出した駒も、許可を取らなかったのはまずかったかもしれない、と反省したわ……」
「あれ? そもそも駒を作る切っ掛けが、ゴブリンの物語が流行ったからじゃなかったっけ? そういうことなら、本が出回って大丈夫だったのか?」
「それは大丈夫よ! あの本はね、魔界で書かれてた原稿を、魔法によって翻訳して出版した本なの。それとね、原稿と一緒に紙に描かれた絵を渡されたみたいなの。その絵は、作中に登場しているゴブリンを描いたものだ、って説明されたみたいよ。それと、その絵は自由に使ってかまわないと言われたそうで、表紙の絵にしたみたいなのよね」
本は元々魔界で書かれたものだったのか。それで、それを翻訳して販売していると。
「そして、その表紙に描かれていたゴブリンを、いい感じにイズレに立体化してもらったの」
絵をあんなにリアルに立体化したのか。
イズレ、すごいな。
「なるほど。……でも、その原稿の出どころとかは大丈夫だったのか? 魔界で書かれたって言っても、魔族が適当に書いた、とかはまずそうな気がするけど」
「あ、えっとね。その原稿を持ち込んだのは
「えっ、魔皇!?」
もしかして、俺の知っている誰かだろうか?
「もしかして知っている? 異世界から来たから、魔皇の存在について説明しないとかな、って思ったけれど」
とっても知ってる。
何なら、そのうちの三人には会ったことがあるし、一人は昨日も会ったよ。
……けど、それを言うとややこしくなるよな。
「あ、うん。この世界とか国の常識については教会で教えてもらったんだ」
そう答えることにした。うん、嘘は言っていない。
「あ、そもそもなんで魔皇、というか魔界と繋がりがあるかって言うとね、うちの商会が魔界との貿易を行っているからなの。最初は魔皇からこの国に対して、魔道具を魔界に輸入したい、って打診があったみたいなの。それで選ばれたのが、当時から大手だったうちの商会、ってことみたい。それをきっかけに、今ではお互いに多くの商品をやりとりしているわ」
提案した魔皇はアオイだろうな。昨日、リンフォンは魔界で製造しているって聞いたけど、そのルートでこの国に輸入されているのかも。
「それでね、今輸入している魔道具には、ハクトも買ったリンフォンがあるの! しかもね。なんと、それを開発したのは
あ、えっと、ごめん。
作った本人から先に色々聞いちゃってるし、何なら他にも色々聞いてる。
……とりあえず、話を合わせておこう。
「す、すごいな!」
「そうなの! ……それで、話を戻すとね。まずはそのルートを通じて、原稿を持ってきた魔皇とわたしたち、つまり娯楽用品の部門とで話がしたい、ってことになったのよ」
なるほど。
ということは、アキナの商会とアオイは交流があるってことなのかな?
「ただ、原稿を持ち込んだのは
原稿を持ち込んだのはハヤテだった!
……これは、何かのいたずらって可能性もある気がしてきたな。
「ただ、商談の場でそれとは関係ない話をして大丈夫なのか? って意見も出てきてね。……わたしは、父親に同席する形で何度か地魔皇に会ったことがあるの。会議の場だったから、そんなに会話はしていないけれど、そういったことで怒る人ではないと思うわ。それにわたしの父親も、世間の魔族のイメージとは全く違う、って日頃から言っているわ」
「うん。少なくとも魔皇は、人間たちとも仲良くしたいと思っているよ。……あっ! 話を聞いた限りね」
聞いたのは、本人たちからだけど。
「ハクトもそう思うわよね! 最初にハクトと会った時、魔族に苦手意識とがないって聞いて嬉しかったの。今はイメージが先行しちゃって、人間と魔族の関係はうまくいっていないけれど、もっと仲良くなれると思うの!」
「もしかして、魔族の駒を作ろうって考えたのも、その切っ掛けとして?」
「そうよ! 何でもいいから、魔族に興味を持ってもらって、そこからもっと知りたい、実際に交流してみたい、みたいな流れになっていくといいなって」
アキナは本気で、魔族との仲を何とかしてみたいと考えているみたいだ。
……さっきは誤魔化しちゃってたけど、本人たちに会ったことがある事、ちゃんとアキナに教えよう。
「……アキナ、実は俺、魔皇に会ったことがあるんだ。それも全員に」
「急に冗談なんて言ってどうしたの、ハクト。……え、もしかして冗談じゃない?」
「ああ。しかも、地魔皇と
「ほ、本当に!? 確かハクトって、異世界から来たばっかりじゃなかった? しかもリンフォンを買ったのもつい最近よね!? 異世界から来た人って、こんなにすごいのかしら? ……いや、ハクトがおかしいのね!」
おかしい人にされてしまった……。
「なんだと……」
そして、お茶を持ってきていたイズレも驚いていた。
さっき一度奥に引っ込んだなーと思ったけど、お茶を用意してくれてたのね。
◇
まずは一旦、イズレの用意してくれたお茶を飲んで落ち着こう、ということになった。
「ふぅ。……改めて、本当に驚いたわね。けど、そういうことなら今回の件、ハクトに連絡をお願いして大丈夫かしら?」
「ああ、とりあえず連絡を取ってみるよ」
リンフォンを取り出し、今回の件の相談をアオイに送信した。
「これでよしっと」
簡単にだけど、ゴブリンの件とハヤテの件、両方について送っておいた。
「ふむ。ハクト、私からも頼みがある。急ぎではないが、一度魔皇の誰かに会うことは可能だろうか? 魔族には多くの種族がいて、変わった姿形や文化を持つ者もいると聞いたことがある。何度か魔界に行ったことがあるのだが、限定された場所しか行けなかったのだ。だから、魔界に詳しい人に色々と聞いたり、可能であれば様々な所属や文化に触れたいと思っている」
「わかった。今度会った時に聞いてみるよ」
「よろしくたのむ」
イズレは一時期、各地を旅していたみたいだけど、魔界は許可が必要だから、あちこちは行けなかったか。
忘れないように覚えておこう。
「あっ、そうだ! 焼き菓子のお土産を持っていたんだ。お茶といっしょにどうぞ」
と、今日渡した焼き菓子の残りを取り出した。
今日は何人教会に来ているか分からなかったから、多めに分けておいたんだよな。
「あら、いただくわね。……。ハクト、これ、もしかして王城で渡されたものじゃない?」
「ん? そうだけど、それがどうした?」
「これ、パーティのお土産とか、賓客に対して渡される物なのよ。わたしも父親に貰って食べたことがあるわ。ハクト、一応聞いておきたいんだけど、この国の王族とも連絡が取れたりはしないよね?」
「あ、えっと、確か第二王女だったかな、クレアって人となら連絡が取れるよ」
「……ハクト、うちの商会ので雇われない? 好待遇を約束するわ!」
「あー。嬉しいけど、半年で帰ることになるから……」
「それは残念ね。 ……もし気が変わって帰らないことになったら、いつでも声をかけてね!」
アキナにスカウトされてしまった。
……魔族やこの国のトップクラスの人たちと連絡を取り合える人物。
確かに、俺が雇う側だったら絶対スカウトだろうな。
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