第9話 愛に溺れる

 部屋についた私は、ルシウス様の手によってそっとベッドへ降ろされた。離れていく香りが恋しい。

 ルシウス様は私の隣に腰かけ、私の手をとり、握った。


「プリンセス・ティアナ。今日の貴女もとても素敵でした。堂々としたたたずまい、愛くるしいお姿、気品あふれる対応、すべてが素晴らしかった。姫のおそばで支える事ができ、とても誇りに思います」


 ルシウス様の長いまつげの奥、赤い瞳はルビーのように綺麗だ。うっとり眺めていると、ルシウス様の長い指が私の頬に伸びてくる。


「姫、ぼんやりしていますね。眠いのですか?」


 温かなルシウス様の指が私の頬をなでる。心地よくて、私は目を閉じた。


「ゆっくり休んでください、姫」


 ルシウス様が私の身体に密着するよう距離を詰める。

 彼の手が私を誘導して、私は彼の膝枕に頭を預けた。温かくて、良い匂い。全身の力が抜けていく。

 ルシウス様の手が私の頭をなでる。ゆっくりと一定間隔でなでるルシウス様の大きな手は、私のすべてを包み込んでくれるようだ。

 なんて気持ちいいのだろう。


「姫は俺の太陽です」


 ルシウス様が手の動きに合わせてささやいた。


「初めて出会ったその日から、俺は姫のために生きたいと思った。美しく、明るく、気高い姫。貴女のためなら俺はこの命など惜しくない。貴女こそが俺の生きる希望で、俺の心で、俺の生きる意味です。姫。貴女にずっとお仕えしたい。貴女のためにこの生命、この身体、この心、すべてを捧げたい」


 ゆっくりと穏やかに言葉を漏らすルシウス様。だけど、その想いは熱く重く、これまで見た事もないくらい大きな感情だった。

 人の想いにこんなに重みがあるなんて、私は初めて知った。

 重いけど、満たされる。大きいけど、もっと欲しい。そんな、不思議な気分になる。


「愛しています、姫。俺は貴女のためならなんでもする。なんでもできる。貴女の力になりたい。貴女の支えになりたい。貴女を愛し続けたい。プリンセス・ティアナ。俺の、最愛の人」


 愛の言葉に包み込まれて、私は夢の世界へと落ちていった。これほどまで心地よく眠ったことなど一度もない。できることならずっと、ずっと、この時間が続けば良いのに。私は心の底からそう思った。


 けれど。


 それから2週間後。ルシウス様は、城の牢獄に投獄されてしまった。

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