第8話 素敵なお茶会
大広間に着いた私とお姉さまは、招待客を出迎え挨拶を交わした。
会場には黄色や緑の草花が所狭しと並んでいる。どれもこれもルシウス様が手配してくれたものだ。花のアーチをくぐりやって来た招待客たちはみなその草花を褒めてくれた。センスが良い。美しい。その言葉はそっくりそのままルシウス様に贈ろう。
お茶会といってもただ談笑しながらお茶を飲むだけの会ではない。
帝国が前回のお茶会から今日までにおこなってきた国政の成果を披露し、普段関わりの無いこの国の主要な人物――商工会であったり教育関係であったり――からの信頼を得る目的がある。
今回は北東の国々との交易の成果をみなさんにアピールする予定だった。
「みなさま、お集り頂き光栄です」
みなが着席したあと、私は全員の前に立ち挨拶をした。
「本日の調度品はすべて北東諸国から集めた物でございます。北東諸国は絹織物が盛んで、ナフキン、テーブルクロス、どれも北東諸国から取り寄せた絹を使用しています」
私が今日の会場の説明を始めると、招待客は興味津々といった様子でそれらを眺め始めた。「これは美しい」「手触りが良い」と口々に賞賛の声が飛んでくる。
私は会場の隅で全体を眺めて立つルシウス様に目をやった。ルシウス様は手ごたえを感じるように頷いている。
本来使う予定だったテーブルクロスなどは届かなかった。けれどルシウス様が帝国中を駆け回り、北東諸国の絹を仕入れてきてくれた。そして、パッチワークの要領で大きなテーブルクロスを作成する提案をしてくれたのだ。
どれもこれもルシウス様のおかげ。
北東諸国の品物はまだ帝国にほとんど輸入されていないのに、ルシウス様は私のため、国民のために奮闘してくれた。こんなに沢山、短時間で仕入れてしまうなんて、本当に凄い方だと思う。
このような調子でお茶や軽食など、次々に北東諸国のアイテムを紹介していった。最初に手配していたアイテムに劣らず、いえ、それ以上に素晴らしいアイテムが並ぶ。結果として、招待客も私も、そしてお姉さまも、大満足のお茶会となった。
会が終わり、私は招待客を見送っている。
みんなの満足そうな顔を見ると、とても嬉しい。
「ルシウス様を呼んで頂ける?」
私は近くにいたメイドに告げた。この光景はルシウス様こそ見るべき光景だ。
裏で片付けの指揮をとっていたルシウス様はすぐに私の元へやってきて、私の一歩後ろに立った。
挨拶の合間に声をかける。
「ルシウス様、本当にありがとうございました。おかげさまで無事開催できました。それに、最初の計画以上に素晴らしい会となりました。本当に、本当に、感謝します。お客様にもとても褒めてもらえるのよ」
「それはすべてティアナ姫の計画があったからです。俺はただティアナ姫の計画を再現できるよう、資材を寄せ集めたにすぎません。姫の立てた計画が素晴らしかったのです」
ルシウス様は朝から働き通しているはずなのに、涼しい顔をして言った。彼の赤い瞳が優しいカーブを描いている。
「そんな、ご謙遜を。すべてルシウス様の功績ですわ。ねえルシウス様、この国で北東諸国の品々を集めるのは大変だったでしょう?」
私の問いに、ルシウス様が苦笑する。
「いえ、実は、ルートが色々とあったのです。ティアナ姫に多くの貢物を持参していた時、複数の商家と親しくなりました。今回も彼らの協力があったのです」
「まあ、そうだったのですね」
「はい、なんでもやっておくものですね。最愛の姫のお役に立てて良かった」
そのままルシウス様と一緒に最後の客まで見送った。感謝を述べる招待客を見て、ルシウス様も嬉しそうだ。本当に良かった。
最後の客が大広間を出ると、片づけをするためメイドたちが部屋になだれ込んでくる。
私は隣にいるルシウス様を見上げた。
「無事に終わりましたわね、ルシウス様。本当に、どのようにお礼を言ったら良いか」
「お礼ですか。……では、勝手に頂いても良いですか?」
「え?」
私がルシウス様の発言を理解する前に、ルシウス様は私の体を真正面からギュッと抱きしめた。
「あ、え、ルシウス様! いけません、こんなところで」
「すみませんティアナ姫。でもこれが一番の褒美です」
私の頭にルシウス様が頬を寄せる。私の身体はルシウス様の両腕でがっちりとホールドされており息が止まりそうだった。ルシウス様の襟元から彼の香りを感じる。甘く惹かれる匂い。心臓がうるさい。足の力が抜けていく。
「姫?」
疲労と緊張とルシウス様の力強さで、私はいつの間にか彼の胸に体重を預けていた。包み込まれる感覚が気持ち良かったのかもしれない。
「部屋へ戻りましょう、姫」
ルシウス様はそう言うやいなや、私を軽々と抱き上げた。お姫様抱っこというやつだ。でも、落ちてしまいそうで、怖い。私は反射的に彼の首に両手を回した。
「お、落とさないでくださいね」
「じゃあもっと密着してください、姫」
そう言ったルシウス様が私を抱えなおす。私の全身がルシウス様に触れている。
「姫、落ちたくなかったら、俺の首にキスするイメージで抱き着いてください」
「キ、キス……」
「そうです。あ、そうだ。キスしてくれたら歩きます。キスしてください、姫。それとも、このままメイドたちにこの姿を見られ続けたいですか?」
見上げたルシウス様は綺麗な顔で意地悪な事を言う。「さあ、ここです」と彼は首を傾けた。そんなルシウス様の流し目が色っぽくて、私の心臓はさらに跳ねてしまう。
綺麗な肌に、筋張った首。ブロンドの髪が揺れる。
恥ずかしい。
そう思いながら、私は自分の額を彼の首につけた。私にはこれが限界。それでも、彼の首から香る彼の強い匂いにクラクラしてしまう。
「可愛い人ですね、ティアナ姫」
くすりと笑ったルシウス様は、私を抱えたまま私の部屋へ向かって歩き出した。
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