第6話 幼き頃からの誓い
目を丸くする私の前で、マーシャル公爵がはにかむ。
「当時は子どもの戯言だと、相手にしていませんでした」
マーシャル公爵は「お恥ずかしい」と自虐的に付け足した。
「ですが息子は、一人で学をつけ、剣術を磨き、姫に相応しい人間になろうと努力を続けました。であれば私も真剣に向き合わねばと、姫をお守りする心得をたたき込んだのです。ですが」
マーシャル公爵の視線が私に向いた。
「どこをどう間違ったのか、姫に対し過剰なスキンシップをはかるようになってしまい……本当にどのようにお詫びしたら良いか……」
「ああ、いえ、お気になさらないでください、マーシャル公爵」
私は慌てて手を振りつつ返答しながら、心の中でぐるぐると渦巻く様々な感情に翻弄されていた。
ルシウス様は、本気で、心から、産まれた時から、私を大事に想ってくれている。
そうなの? そうなのだ!
寄り添うのも、肩を抱くのも、腰に手を回すのも、隙あらばあちこち口付けするのも、「愛する姫」と言ってくれるのも、全部全部、心の底からの、本心!
その衝撃たるや、私はめまいがして倒れそうになる。のぼせているのかもしれない。ルシウス様の熱い本心を知って溶けてしまいそう。
熱に浮かされフワフワしている私の目を覚ますように、急に執務室の扉が開いた。
「ただいま戻りました、プリンセス・ティアナ! 新しいプログラムの策定にかかりましょう!」
入ってきたのはルシウス様だ。外での仕事を終えた勇者様の、堂々たる凱旋である。
ルシウス様はブロンドの髪をなびかせ、彫刻のような美しい顔にはうっすら汗がにじんでいる。急いで来てくれたのだろう、私の元へ。
高鳴る鼓動を抑えきれず、私は勢いよく立ち上がった。
「ルシウス様! ありがとうごさいます。こんなにも沢山のグロサリーをこんな短時間で手配してしまうなんて、どのようにお礼を言ったら良いか……」
「ティアナ姫。このルシウス・マーシャル、貴女様のためならなんでもいたします。このくらい、なんでもございません」
ルシウス様は私の前にひざまずき、私の右手を取った。
「姫、言ったでしょう。俺は貴女様のためならなんでも出来る」
マーシャル公爵や貴族たちの視線が集まる中、ルシウス様がためらうことなく私の指先にキスをする。人々がざわめく。でも今の私には気にならなかった。
指先が熱い。彼の唇から力を貰ったみたい。
ルシウス様がいつまでも私の手を握り続ける事が、私は嬉しかった。ずっと離さず私を大事にしてくれる事が、たまらなく嬉しかった。
彼の手に力が入る。
「さあティアナ姫、茶会の準備はまだまだこれからです。集めた資材で最高のプログラムを組み直しましょう」
ブロンドの前髪からルシウス様の深紅の瞳が覗いている。彼となら出来る。そう確信出来る真っすぐな眼光が私を射抜いた。
「ええ、ルシウス様。一緒に、お願いします」
「もちろんです。プリンセス・ティアナ」
私たちはルシウス様が集めてきた食材、調度品の魅力を存分に発揮できるよう、そして招待客がお茶会を心の底から楽しめるよう、新たなプログラムの選定に取り掛かった。
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