第56話 勇者らしい戦い
ルバンカを抱きしめて国へと走る。ダンジョンの町から国は遠い、ルバンカの体にも相当な負担がかかるだろう。
オババの言葉を思い出し、自分の腹に手刀を突き刺した。血の噴き出る傷口とルバンカの傷口を合わせる様にして走る。
温かい血の感触が、冷えた心を温めてくれる気がした。
「オババー!助けてくれ!」
「きたねぇ!血だらけで来るんじゃねぇクソガキぃ!」
「オババ、なんとかならんか。こいつは大事な臣下の一人なんだ」
「ふむ、鬼か。昔同じようなことがあったの、じゃがこいつは儀式の時におったの?」
「以前の奴の姉だ。やったのが妹だ」
「そりゃ嫌な話じゃの。とにかくこりゃ薬師の仕事じゃない。ソーマももう無い。おまえにくっついている精霊に頼んでみよう、人間の魔法使いよりよっぽど上等なのじゃ。お前はここでこの娘を抱いておけ。誰かに精霊を探させよう」
「わかった!」
ルバンカを寝かせたまま横に転がって抱き枕状態にした。止まるんじゃねぇぞ、お前の心臓が動いている限り、たぶん死なんやろ。
「ひょひょひょ!そんなにその娘が大事か!若いもんがいちゃついてるのはええのぅ」
「血まみれな上に片方は死にかけて意識ないんだぞ」
「ワシも若い頃は沢山の男に言い寄られてのう、それでも誰にもこの肌は触れさせんかったのじゃ!」
(それでババアになってド田舎暮らししてるんじゃ世話ねぇな)
と、心で思うに止めておいた。今は余計な話をしている場合じゃねぇんだ。
『呼ばれてきたのです!アレキサンダーが大変と聞いたのです!』
「おうケト、こっちだ」
「アレキサンダーは大丈夫なの!?あら…」
「アレキサンダーさんが大変だと聞きました!あっ…」
「アレキサンダーさ~ん!大丈夫ですか~!あ!」
「あ!また抱きついてる!宿の女の子じゃなくてもいいの?」
「は?どういうこと?」
「なんで関係無いのまで集めてんだよ!あ!じゃねぇんだよ!」
「後は若い二人に任せて外に出るのじゃ」
「死にかけてるっつってんだろうが!」
母者とリリスと姫さんにはお帰りいただいた。
早速ケトが魔法を発動してくれて、ルバンカの表情が少し和らいだ感じがする。
「助かった、大丈夫そうだな」
『ケロ~、うまく治らないのです。傷口が呪われているのです』
「呪いだと?妹鬼の怨念か、恐ろしいやつだ」
『たぶん回復阻止の呪いの武器なのです。ダンジョンでも沢山拾ったのです』
「そうか、あいつも拾ったんだな」
『たくさん売ったのです。武器は売らないほうがいいって言ったのです』
「これが運命か」
「呪いの武器をばら撒いたってのかい。だから学べと何度も言っているのじゃ!」
「いやでも結構高く売れるんだよ、いくら稼いでも足りないって言われるししゃーねーだろ。この国って金貨何万枚稼いできたら安定するんだよ。我が国民無能すぎでは?」
「おかげで余裕が出来て人間と魔族の諍いも少ないのじゃ。たまにはゆっくり町を歩いてみるといい」
「そりゃいいんだけどよ、こいつ死にかけてるのにみんな余裕すぎだろ」
「お前が何とかするんじゃろ?だったら大丈夫なのじゃ、みんなお前を信頼しとるから心配しておらん」
「そんなに問題解決してきたとは思えんが」
「さぁの。それよりこれをどうするかじゃ」
ルバンカの腹をめくって観察するが、綺麗に治っている様に見える。
「治ってない?」
『元の状態に戻ろうとしているのです。治療を止めたら傷が開くと思うのです』
「これはあれか、呪いを解く方法を探せってことか」
「精霊が治せない程の呪いじゃ、人間の魔法や道具ではなんともならんじゃろう。ダンジョンで見つけるか、巨人からソーマを分けてもらうか」
「可能性の実じゃだめかな?」
「意識が無いから食えんじゃろ、腹が破けた状態で食わせるのもこわいのぅ」
「うーん、あっちも放置していられないんだが」
「仕方ない、アンティカ国の東の山々を竜に乗って探してみるのじゃ。どこかに巨人の里があるはず」
「ふぁ!?巨人の居場所知ってたのかよ!さっさと教えろよ!」
「今のおまえにはまだ資格がない。じゃが今は仕方ないじゃろう。もっとちゃんと学んでからがよかったんじゃがのう」
「巨人に会えば可能性はあるか。ケト、ルバンカはどのくらい保つ?」
『魔石を使っていいなら10日は大丈夫なのです』
「そうか、なら先にこうなった原因の方を対処してくる。巨人の方は誰か行けるなら交渉させてくれ。魔道具でも武器でも金でも勝手に交換していい」
「わかった」
急いでダンジョンの町へ戻った。妹鬼が何を企んでいるのかは分からないが、碌な事じゃ無いのは確実だ。早く止めなければいけない。
だがとっくに遅すぎたようだ。町には大量の死体が転がっていた。
「よう!アレキサンダー!早かったな」
「勇者。なんで殺した。この町でお前に逆らえるやつなんていなかっただろう」
「まぁな、でも、殺したかったんだ。おかげでスッキリしたよ、なんで今までこんなゴミ共に認められたかったんだろう?不思議だよな」
「妹鬼は、ルーリアはどうしたんだ?」
「そこに転がってるぜ。そいつ、俺とアレキサンダーを殺し合わせたかったんだってさ。馬鹿だよな。どうせ何度でも殺し合うのに、暗躍してるつもりだったらしい」
ちらりと見るがもう死んでいる。本当になにがしたかったんだ?俺がこいつを狂わせてしまったのか?
「気にすんなよ、そいつ予言とか言って頭弄られてたからな。そういう運命だったんだよ」
「運命か。そういうお前は勇者だったんじゃないのか?なんで勇者がこんな事やってんだよ」
「そうそれ!俺ずっと勘違いしてたんだ!勇者ってみんなを守るものだって!でも違ったんだ、俺は勇者って名前の悪役だったんだよ!誰にも愛されないヒールだったんだ!」
「そうか、さっぱり意味が分からん。お前を殺さなかったのは俺の罪だ、俺がずっと背負ってやる。死ね」
「来いよ!俺はダンジョンで覚醒したんだ!俺が最強だ!!」
「馬鹿が!アレキサンダー流・熊爪両断拳!」
両腕の魔力を込めてただ真正面から切り裂く必殺の拳!一撃で終わらせてやる!
「来い!スティアフェイト!」
バガァァァン!!
突如現れた盾が空中で俺の拳を受け止める。一撃で山すら切り裂く俺の拳が止められた?
「ははは!すごいな!これは人間が使うような盾じゃないんだぜ?ヒビが入ってるじゃないか!」
「お前、そんなものどこで手に入れた」
「ダンジョンに決まってるだろ、ダンジョンにある物は全て俺の物だ、酷いチートだろう?俺は特別な悪役だからな!今度はこっちから行くぞ!グリダヴォル!」
勇者の言葉と共に大振りな杖が現れて猛烈な突風が襲いかかる。
「こんなものでいい気になっているのか?」
「ははは!お前の力は分かっている!お前の攻略している階層も、戦い方も、全て記録されているんだぜ!行け!ファイナルストライク!」
風を吹き出していた杖が光を放ち爆発する。杖に込められた力が暴走して激しい衝撃波を発生させた。
「ちっ!こんなもんで」
「切り裂けクラウソラス!」
「いい加減にしろオラァ!!」
迫る大剣を砕き折るつもりで殴る!しかし硬い!今まで触れた事の無い硬さ、柔軟さ、やはり尋常なものではないか。
「いくらなんでもこれは砕けないみたいだな。こんなもん砕けたら人間とは呼べないが、底が見えたな」
「舐めた口聞いてんじゃねぇぞクソ雑魚が!道具使ってイキってるだけじゃねぇか!」
「そうなんだよ!俺もお前みたいに格好よく戦いたいんだが、俺には無理なんだ。だからさ、ほら、あそこに生きてる住人を残しておいたんだ。見えるだろ?」
くそが、やっぱりそうか。最初から分かってたよ。
「ダンジョンはさ、何でも見てるんだぜ。お前の戦い方も、仲間も、弱点も」
「お前にも仲間がいただろうが」
「もう殺しちゃったよ。ほら急げよ、疾れ!クイン・ゼシア!」
ギュドン!!
勇者の手から離れた剣が唸りを上げて飛んでいく。同時に俺も全速で駆け出していた。
ギリギリで剣の前に割り込めた。本当に馬鹿なやつだ、これが俺の弱点だと?これは俺の力の源泉だ。
オーラの吹き出す神秘の剣は俺の背中を貫くことなく止まった。俺の体は激しく隆起を繰り返し、全身から蒸気を噴き出す。
怯えたアンナの顔を確認した時、頭の中で何かがブチ切れる音が聞こえた。
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