第55話 憎しみ
ルバンカ。鬼族の連中からの聞き取りで生きているだろうとは思っていたが、こんな所まで流れていたのか。
ん?いや、これは。もしかして妹と一緒に勇者とくっついていたのか?
勇者を国から追い払った時は妹の方が一緒に居た。
あれからずっとそのまま?一度も俺に会わずに?そんな偶然あるか?あの喋りたがりの勇者からも一言も聞いていないぞ。
なんとも不気味な事だ、偶然では無いだろう。しかもそれを知るのが本来俺が居ないはずの日とはな。今日知ったのは何かのミスか、それとも誘導されたのか。
「おいお前!何をチョロチョロしてやがる!」
つい考え込んでしまって声をかけられた。んー、mobだな。
「見ないやつだな、昨日の集まりにも居なかっただろう。今日いきなり参加しようなんて無理な話だぜ」
「人が集まっていたから眺めていただけだ。俺は既に30階層を超えているので必要ない」
「なんだと?お前みたいなのは見たこと無いが……」
「それよりあそこにいる鬼族は何者だ」
ささっと金貨を握らせてやる。この町で人に物を尋ねるには金。常識なんだよなぁ。
「ふん。この町の自称勇者は知ってるだろう、ありゃその女の1人だ。何を考えてるのか知らんが今日は1人で参加だとよ」
「へぇ、強いのか?」
「勇者より強ぇって噂だが、アイツラは誰とも組まねぇからな。眉唾だ」
それだけ聞いて一旦離れた。
ルバンカが勇者パーティの一人ということは、妹も一緒だと考えるべきだろう。鬼族を放ったらかして勇者にくっついてるって事は……、よく分からんな??
俺達が会わないように調整している奴がいるとするなら、ここで俺達が出会うのは望まないだろう。だからもっと望まない形にしてやるぜ。
宿に飛んで帰り、鎧を脱いで変身を解いた。ありのままで行こう、俺は真っ直ぐ行くぜ。ごちゃごちゃ分からん、何かあったらその後に殴ったほうが早い!
「お~いルバンカ!久しぶりだな!」
「あ、アレキサンダー!?なんでここに!?え、小さくなってないか!?」
「まぁ色々あってな、俺もこの町にいたんだぜ。今日は俺も手伝うからさっさと終わらせて飯でも食おう」
「もちろんだ!話したいことが沢山ある!」
誰の許可も取らずにレイドパーティに参加した。こっちの俺は町の誰もが知る最強の狩人だ。黙って後方腕組最強彼氏面をするだけである。
暫くしてリーダーっぽいやつが声を上げてポータルから飛んだ。それまでルバンカはずっと興奮して話しており、普段のトレーニングとダンジョンでのレベリングでかなり自信があると言っていた。お手並み拝見だな。
全員が30階層に飛ぶ。守護者の階層は侵入したらすぐ先で戦闘開始だ。前の方では既に戦闘が始まっている様だ。
『GAAAAAAAA ! !』
竜の咆哮が聞こえたかと思うと通路を埋め尽くすブレスが向かってくる。しかしブレスを受け止める魔法隊はいない様だ。
「ぎゃあああああ!!」
炎に撒かれるチンピラ達、忠告してやったのに聞かなかったか。
「私の後ろに下がれ!大鬼風車!」
ルバンカが前に出て槍を高速回転させる。それにより風の流れを生み出してブレスを受け止めた。なぜ槍の回転であんな事になるのか、理屈はわからないがたぶん魔力とかが作用しているんだろう。ついでに言うとルバンカの前にいるやつはさぞこんがり焼けるんだろうな。まぁ甘く見て忠告も聞かなかったのが悪い。
『GOAAAAAAAAAA ! !』
ブレスを止められた竜が怒りを露わにしている、様に見えるが。
「今だ!攻撃のチャンスだ!」
「待て!止まれ!」
ルバンカが止めるが、釣られた連中が前に出た所で二度目のブレス。馬鹿が、どう見てもブレスで半壊してるんだから、あっちにしてみりゃブレスだけで勝てる楽な戦いに見えただろう。
二度目のブレスもルバンカが止める。こいつを倒すためにはこうやってブレスを完封出来る事が大前提なんだ、それが出来ない奴らに突破なんぞ不可能。
「もういいだろう、飛燕裂空脚!」
竜に飛びかかり、魔力を込めた蹴りで首を落とした。
後のことは知らん。放置してルバンカと飯屋に来た。
「やっぱり流石だなアレキサンダー!私もかなり力を付けた筈だが、アレキサンダーとは比べ物にならない!」
「お前だってあいつくらい1人で倒せただろう。それよりこれまでどうしてたんだ?」
「あぁ、アレキサンダーが勇者を追放しただろう?その頃の私は父である族長と一緒に軟禁されていてな。妹が勇者を連れて会いに来て、いつもの二人を父の側に置いて勇者とここまで旅をしてきたんだ」
「何人で?」
「勇者と勇者の幼馴染の少女、それと私達姉妹の4人だけだ。妹の予言に従って逃げるようにここまで来たと言う訳だ。そしてこの町で出会った不思議な女性によって勇者の腕が治り、生活費を稼ぎながらダンジョンで修行している。アレキサンダーの方は?」
「勇者を追放した後に俺が王になった。だが俺は国に居てもあまり出来ることがないからな。出稼ぎだ。お前帰ったらびっくりするぞ、滅茶苦茶発展して魔導汽車とか走ってるからな」
「まどうきしゃ?」
「今度自分で見てみろよ、世の中をよくするのは力だけじゃないって思えるぜ」
「それで、お前この町で俺の噂を聞いたことは無かったか?血舐めの幼王って呼ばれてるんだが」
「それアレキサンダーの事だったのか!もちろん知っているぞ!」
「勇者から俺の事を聞いたことは?」
「勇者?恨み節ならたくさん聞いたが」
「この町での俺のことだ」
「それは知らない、この町で会ったのか?二人が会ったら殺し合いになりそうだ」
「国で勇者と会った時は魔法で変身した姿だったんだよ。俺がアレキサンダーだと気づいてない。それでお前、勇者と一緒に飯を食ったりしないのか?」
「あー、その、彼はだな、私にその、懸想をしているようで……」
「なんだ、お前勇者の女と言われていたが違うのか」
「違う!断じて違うぞ!信じてくれ!!二人にはならないように気をつけているんだ!本当だ!」
「お、おう。大変だな」
「そうなんだ…、本当に大変なんだ……」
「ところでよ、もうはっきり言うが、お互いこの町に暫く居て同じ場所に通ってるのに、今まで会わなかったのって変だと思わないか。俺は変だと思ってる」
「む、むぅ、それは」
「お前の妹の予知ってのはどの程度のことが出来るんだ。俺と勇者を会わせたり、お前と会わせなかったりできるのか」
「分からない、出来ないとは思う。だが妹の予言が発現したのはまだ喋り始めた2歳の頃だ。あれから10年経った、能力が伸びている可能性はある」
「そうか。もし出来たとして、妹がそうする理由は何だと思う?」
「そ、それは……。いやそんな事は無い!アレキサンダー!私を信じてくれ!もしも妹がおかしなことを考えているなら私が止める!私の妹なんだ!」
突然叫んでゴキュゴキュと酒を飲みだした。いやお前酒に弱かったんじゃないのか?
「ありぇきしゃんだぁ、もっとたのしぃはにゃしおぉ」
「はっや!もう潰れてんじゃあねぇか!飲むんじゃねぇよアホンダラぁ!!」
「うぇひひ!やっぱりおまえはそういうのがにあってりゅ」
「あー、問い詰めるみたいになったのは悪かったよ、また今度にしよう。宿はどこだ送ってやる」
「んごおおおお!んごおおおおお!」
「はっや!なんでもう寝てるんだよ!なんでそれで外で酒飲もうとしたんだよ!!」
おかしい、真面目な話をしていたはずなのに1杯の酒で全てが終わってしまった。
こいつ置いてっていいのかな?見た目的には高校生くらい?酔っ払って前後不覚、この治安最悪の飯屋に放置か……。まぁいっか!
という訳にも行かず、担いで宿に連れて行くことにした。こいつ脱ぎ癖まであったからな。
飯屋を出てえっちらおっちら歩き出した時だった。
「ルバンカ!?お前……なにしてんだよ!」
勇者くんの登場だ。
正直言うと予測していた。それでも放置しなかった俺の優しさ凄くね?
ここで俺と勇者が仲違いするのが目的か?それに何の意味が?
「勇者か、こいつは知り合いだ。酒を飲んで酔っ払ったから宿に連れて行こうと思ってな。お前の仲間だろ?引き取ってくれ」
「嘘をつくな!ルバンカは酒を飲まない!何度誘っても一滴も飲まなかった!」
「そりゃお前が警戒されてんだろ」
「嘘だ!嘘だ!」
嘘だ嘘だと叫ぶ勇者。今日は隣にあの女も居ない。妹の方はどこかで見ているのか?気配は無い。
「うーんうるさいな。あれ!?アレキサンダー!?なんで私はこんな!?」
「アレキサンダー!アレキサンダーだと!?どういう事だ。その強さ、お前、まさか!あのアレキサンダーなのか!?今まで俺を騙していたのか!」
めんどくせぇ、なんでこんな芝居に付き合わなきゃならないんだ。勇者が誤解したのは偶然だ、見逃した勇者を殺す気が無かっただけのこと。俺が騙したみたいに言われるのはイラツクぜ、そんなに殺されたかったのか。
「偶然そうなっただけだ、俺は隠してないし隠す意味もない。お前を殺す必要は無いしまだガキだから面倒を見てやっただけ。今までこいつと会わなかったのはお前のところの妹鬼が何かやってるんだよ」
「友達だと思っていたのに!お前となら上手くやれるって!」
「友達でいいじゃねぇか。俺はお前の悪いところを沢山目を瞑って助けた。お前も過去のことは忘れろ」
「忘れろだと!?俺の両腕を奪っておいて!ルバンカまで奪っておいて!忘れろだと!忘れるわけがない!お前が俺にしたこと!絶対に許さない!絶対に!!」
「わかった、じゃあ俺をずっと恨んでいろ。強くなったら会いに来い、いくらでも相手をしてやる」
「舐めやがって!俺は勇者だ!もう50階層も超えた!世界記録だ!」
「すげぇな、もっとがんばれ」
「死ねぇ!!」
勇者がどこからともなく剣を取り出して切りかかってくる。
俺がくれてやった剣だ、俺が稽古をつけてやった踏み込みだ、こいつなりに一生懸命努力して自分の物にした。
俺がこいつを嫌いになれなかったのは、こいつが常に強さを求めていたからだろう。すぐに人を殺そうとする頭のおかしいやつだが、俺の知る中で唯一俺に追いつく可能性を感じる人間だった。もっと頑張ってほしかった。こいつは世界に特別愛されているんだ、きっとまだまだ強くなれるはずだ。
「『黄龍剣』!」
スキルに頼るなと何度も言っているのに。聞かん奴だ。だがそれでいい。
ギャリィィン!
「んなっ!」
剣の腹をぶっ叩いて破壊した。もうそんなもんが通用するレベルじゃないんだ、俺を斬りたいなら星ごと切れる剣を持って来い。
「じゃあな」
もう会わないほうがいい。本当はここで殺したほうがいい。
まだ今でよかった。3年後、こいつがこの世界で成人していたら、きっと殺しただろう。それまでに改心してくれ。
「ぐっ!がはぁ!!」
「勇者様!姉さんが!」
突然の声、振り返るとルバンカが腹から太い槍を生やしていた。
あれは妹鬼!あいつやりやがった!しかしどうやって!?今まで気配すらなかったはずだ!
「あああ!!ルバンカ!ルバンカがぁ!!」
「あの男が突然刺したのです!散々姉を弄んだ癖に!姉が勇者様の物になろうとしたから!」
「あああああアレキサンダー!!」
ルバンカを揺さぶる妹鬼の指に光る指輪、あれは昔俺が売り払った指輪!
妹鬼からルバンカを奪い取って飛んだ。頼りにするのはオババ。
まるであの時の焼き直しだ。そうか、俺はずっと恨まれていたのか。姉さえ犠牲にするほどに。
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