第57話 お互いの帰る場所

 許さねぇ!アンナが!アンナが俺を見てビビってたじゃあねぇか!俺の手に入れたおねショタを!俺の正義を汚したあいつを許せねぇ!!



「許さん!お前だけは!」

「ははは!やっと怒ったか!でもほら、ちゃんと守らないとそいつも死んじゃうぞ!大地剣ガラディーン!地を砕け!炎剣アグニ!全てを燃やし尽くせ!」

「遅い!飛燕竜尾脚!!」

 身体全体を使い相手を貫く必殺の蹴り!俺の体重は既に10トンを優に超えている!魔力による保護を解き、速度はマッハ3!時速3500キロを超えた超質量攻撃!その威力実に50億ジュール!TNT火薬2万kgを超える威力の人間爆弾だ!音速を突き破る軽快な音が鳴り響く!


「おわっ!守れ!スティアフェイト!」

 勇者の前に同じ盾が何枚も現れる、そんな量産品で守れると思うなよ!

「アホが!これで終わりだ!」

 インパクトの瞬間に膝を曲げて溜めを作り、軋む筋肉を一気に開放して盾を蹴り砕く!勢いそのままに勇者の肩にぶち当たり肩先を引き千切った!

 バギャアアア!!

 腕を失い独楽の様に回転しながら吹き飛ばれた勇者だが、それでも平然と立ち上がってくる。


「いってぇぇぇ!くそがっ!別の世界の王龍を仕留めた女神の盾だぞ!簡単に何枚も砕くんじゃねぇよ化け物が!」

「お前が量産したから質が落ちたんだろ」

「ちっ!『隠形』!」

 片腕を失った勇者の姿が消えていく、だがもう見えない攻撃に付き合う気はない。

「セコイ事やってんじゃねぇぞボケが!稲妻足刀蹴り!!」

 稲妻の如き超速度の踏み込みからの足刀蹴り!

「げうぅぅっ!」

 腹にめり込み、骨を砕き内蔵を潰す確かな手応え。もう終わりだ。



 背骨まで砕かれて今度こそ立ち上がれない勇者を見下ろす。まだロクに筋肉も付いてないガキを殺す事になるとはな。

「馬鹿野郎が、ダンジョンに飲まれたか」

「ははははは!違うね、利用してるんだよ。お前を殺す為に」

「俺なんかを殺して何になる」

「言っただろ、俺は悪役だ。お前と戦う事が俺の役目、理由なんていらない」

「そうか、今度はいい奴に生まれろよ」

「おっと怖いな。三郎、あの女を殺せ」

『御意』


 突然影が動き出す!また消えてたのかよ!

「やらせるか!稲妻足刀蹴り!」

 ボギャァァ!

 忍者の様な格好をした男を背中から蹴り砕く!この気配、魔物か!?

「早いな、でも俺から離れていいのか?出ろ、セーレ、ダンタリオン、アンドロマリウス」

 次々と勇者の周りに魔物が現れる。これは隠れてたんじゃない、こいつが呼び寄せてる?生み出してるのか?


「はははははははは!ダンジョンの全てが俺の物って言っただろ!俺は勇者だからな!眷属にならずに力だけいただいたんだ!その為の勇者でしか無かったんだ!俺は初めから!お前を殺すためだけに生まれたオモチャだったんだ!!」

「馬鹿野郎が」

「そうか、じゃあ頭のいいヤツも呼んでみるか。半兵衛・勘兵衛、出てこい」

 地面に黒い穴が発生してそこから鎧武者が出てくる。さっきの忍者といい、世界観滅茶苦茶じゃねぇか。


「凄いだろ?ダンジョンの、いや邪神の力で複製してるんだよ。こいつらの複製元は俺の頭の中にしか無いハリボテだけどな。ちゃんと元があるやつは手応えがあるぜ?」

「チッ!」

「出てこい!魔竜チャードリメイン!」

『GYAAAAAAAAAAAA ! !』


 30階層の竜だ。だが明らかにそれよりも大きく強い。一体どれだけ生み出せるんだ。

 無限?いやそんな事はない、こいつらを倒せば魔石が落ちるし他にドロップ品もある。なんらかのリソースを消費しているはずだ。だがそれが無尽蔵って事は、まぁ、ありえるか。


『GAAAAA !』

 俺が動かないでいると、竜が舐め腐って尻尾で攻撃してくる。お前の得意はブレスだろうが。

「ふん!」

 竜の尾をガッチリと受け止めて指を食い込ませて掴む。俺は舐められるのが嫌いなんだよ。

「フルブライト・ドラゴンスウィング!!しねぃ勇者!」

 そのまま尾を掴んでドラゴンをブンブン回してから勇者に叩きつけてやった。


「うおぉ!ヴァプラ!俺を運べ!」

 ドガァァァァァ!!

 叩きつけた竜の背が地を砕く!召喚した雑魚共はそのまま一掃したが、勇者は逃れたか。

「アレキサンダー!今はお前が強い!だがこれから何度でも殺し合おう!何度でもだ!」

「しらん、ここで死ね!」

「これ以上だと余波で死んじゃうんじゃないか?俺は気を使ってやってるんだぜ。あの女が死んだらお前はどんな顔をするんだろうなぁ」


「馬鹿が!俺が圧倒的に早いわ!闘神斬鉄閃!!」

 一撃、これまでの以上の踏み込みをもって最速の手刀を振り抜く。

 縦一文字に振り抜いた先、天から地まで全てを切り裂いた。勇者を咥えて運んでいた獅子の化け物ごと真ん中から二つに別れて崩れ落ちる。


「………」

「こんなので終わらないのは分かってるだろ。また会おうぜ、今度はもっと沢山人がいるところでな」

 すぐ先で無傷の勇者が告げる。既に複製なのか、何らかの効果なのか。

「じゃあな!」

 退がる勇者、それと入れ替えに大量に湧き出す魔物たち。ここで取り逃がしを確認しながら雑魚を倒して進むのは難しいか。

「水面斬り」

 腰の剣を抜いて水平に振り抜く。魔力を込めた刃はそれだけで視界の先まで魔物共を切り裂いた。

「いてぇぇぇ!素直に諦めろよ!」

 再び勇者を真っ二つにしたが効果は無さそうだ。

「消えろ、次は殺す」

「次も引き分けさ!その次も!ずっとな!」

 勇者は消えた。


 こりゃあ俺の負けだな。殺せなかった、向こうは町丸ごと殺しやがった。

 妹鬼は一体何を考えていたんだ?勇者を強化させて俺を殺したかった?それで自分が殺されてたら世話ないだろ、予言じゃ分からなかったのかよ。

 別に特別思い入れも無いけどよ、胸糞悪いぜ。


 ぶっ殺した魔物共が煙になって消えていく。守護者のドラゴンも同じ様に消える。30階層で倒した時は体が残ったのに、何故煙になるのか?

 煙が消えた後、大きな魔石が大量に転がっていた。その中でも一際大きく綺麗な光を放つ魔石が二つ。どうやら勇者は燃費が悪いらしい。




「アレキサンダーくん。強いのは知っていたけど、本当に凄いのね」

「あぁ、まぁな。ハゲは?」

「驚いて転んじゃってたけど大丈夫よ。あの、町はどうなったの?」

「壊滅だ。見ないほうがいい」

「そっか」

 俺の心のオアシスが失われてしまった。もうアンナは俺の事を超絶可愛いショタだとは思わないだろう。あの恐怖を浮かべた顔、その後の戦い、もう終わりだよ。勇者はとんでもない物を殺していきました。


 その時、ふと俺の手に触れる温かなぬくもり。

「アレキサンダーくん。二人共無事でよかったよ。生きていればなんとかなるよね。今晩も一緒に寝ようね」

「うん!そうだねお姉ちゃん!」

 ありがとう。まだ僕には帰れるところがあるんだ。こんなに嬉しいことはない。わかるか勇者?お前はダンジョンで魔物と戯れてろクソざまぁ!




 バッサバッサとフレアが飛んでくる。

 今は帰ろう。勇者とは必ず決着をつける。

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