第33話 7歳 楽しいダンジョン嬉しいバケーション

「うははははは!わーっはっはっはっはっはっは!!地獄の!爆裂・アレキサンダー・ランニング!」

 荒々しく魔物たちに向かって走り抜ける!激突の瞬間に爆裂する魔物たち!轟き響く衝撃波!血に塗れた魔物共の叫びが地獄を演出する!

「アハハハハハハハ!!アーッハッハッハッハッハ!!」


 俺は開放された喜びに満ちていた。

 2つの解放がある。その1つは当然野生の解放だ。イライラが溜まってたからよぉ、思いっきり暴れられるのは最高だ!

 そしてもう1つの解放が、

「相棒!頼むぜ!」

『分かってるのです。ぱっくーん』

 ケトが大きな口を開いて倒した魔物たちを飲み込む。食べたんじゃない、腹の中に収納しているんだ。

 これにより金策の為の回収・運搬から開放された。


「相棒、オマエ最高だぜ!ほら、ミチミチに満ちた濃密魔力を食べなさい」

『いただくのです!』

 ケトには俺の濃厚魔力を上げているのでお互いにメリットしか無い。最高の相棒だ。

「俺達はズッ友だぜ!」

『そうなのです!魔力を溜めて母を見つけるのです!』

 他にもズッ友がいた?知らない子ですね。いやそんな事はないんだが、あいつの竜生を考えたら今はアリーと一緒がいいだろたぶん。



「ふぅ、これで30階層到着だな。キリがいいから今日は一旦上がろう」

『わかったのです』

 このダンジョンはやたらに親切なゲーム設定が採用されており、各階層の入口に転移装置がついているのだ。一度到達すれば入口からここまで飛ぶことが出来る。


「今日は色々おもしろいアイテムも出たなぁ。欲しいのあるか?」

『机と椅子のセットが出ていたのです。これが欲しいのです』

 ダンジョンではちょこちょこ宝箱まで置いてあるのだ。誰が置いているのかは知らん。

 武器類や消耗品に加え便利な魔道具も出るんだが、何故かケトにぴったりな人形サイズ家具シリーズも出る。メンバーに合わせてるのか?訳の分からん仕様だ。



 ダンジョンから出て買い取り場に向かう。討伐した魔物から素材を剥いで買い取ったり、宝箱のアイテムなんかも買い取ってくれる。

 どこまでも都合がいいのが逆に不安になるが、ケトが言うにはこの世界にはこういう事は珍しく無いとのこと。細かい事はいいや。


「おぉ来たな!今日もたんまり稼いだか?」

「おう、今日も大量だぜ。たんまり稼ぐのはお前らだろ」

「わっはっはっは!ちゃんと綺麗に解体してきたら高く買うんだがなぁ」

「面倒くせぇからいいよ。さっさと倉庫に行こう」

 まだ三日目だが慣れたもんだ。ぽこじゃか人が死んでいくこの町では遠慮なんぞ誰もしない。こいつだって平然と買い叩くし、それにムカついたらボコる関係である。


『ゲェコゲッコ!』

 ケトが溜め込んだ物を吐き出す。ぐっちゃぐちゃに仕舞われた魔物たちを選別し、必要な部位を確認して買い取り値が算出される。もちろん解体費用と処分費用が差し引かれるので買い取り解体所の方が利益は多いだろう。

「宝箱も開けてるんだろ?魔道具も売ってくれよ」

「そっちは暇な時に調べてからだ。そのまま渡したら捨て値しか付けねぇだろ」

「信用ねぇなぁ」

「当たり前だ」



「それじゃ今日の買い取り額は差し引きで金貨300枚とちょっとだ!稼ぐねぇ!」

「他で売れば10倍で売れそうだがな」

 買い取り所でも無遠慮に買取額を大声で言うし、金貨は見せ付ける様に山積みだ。これが欲しけりゃもっと取ってこいって煽ってるわけだな。

 ダシにされてるのは分かっているが構わん。これを奪いに来てくれるならブチのめすだけ、それもまた俺のリラクゼーションって訳よ。


「おう!飯だ飯!酒はいらねぇから果物を絞って冷やしておけ!」

 毎日違う店で飯を食う。金は色んなところに分配してやらねぇとな。不味かったら承知しねぇが。

「あん?なんだガキじゃねぇか。酒が飲める様になってから出直してきな」

 金貨ドン!だまれドン太郎!貴様に俺の腹が救えるか!

「うひょー!どんどん運んでめぇりやす!」

 この町で店やってる連中はこんなのしかいねぇ。

『本当にみんな品性下劣なのです』

「お前も口悪くなってるぞ」


 運ばれて来たのはクソデカステーキや新鮮野菜、魚の姿揚げに謎の煮込み、果物を搾ったジュースも魔道具で冷やされていて美味!

「あぁうめぇ!やっぱ焼いた肉はうめぇな!」

『焼いてないお肉と比較したら何でも美味しいのです』

 金さえ出せばちゃんとした飯が出てくる。ボッタクリも殺されない程度に弁えている。ダンジョンで稼げる強者にとって最高の町。ここは俺のためにあるような町だ。

「おう、全部とっとけ」

「こいつぁありがてぇ!坊主また来いよ!他所行くんじゃねぇぞ!」

 金を払い終わったら口が悪くなるのも御愛嬌。



 街の中心地から離れて宿に向かう。俺は朝までトレーニングをするが、ケトは眠らないといけないんだ。精霊って寝るのな。

 折角なら快適な寝床がいいだろうって事で宿を取った。


「おう今日も生きてたか。ガキの癖に長生きするじゃねぇか」

「ガキなんだからお前より長生きするに決まってんだろ。茶を出せ、部屋は綺麗になってるんだろうな」

 店主の口は悪いが、町の外れにある静かな宿だ。ケトの快適な睡眠のために探し回ったんだぜ。


「おかえりなさい。ケトちゃんにはお水ね」

『ありがとうなのです』

 店主の娘だ。もう成人してるんじゃないか?この命の儚い町では結婚は早いイメージなんだが、まぁそういう事に突っ込む気はない。

「それじゃあ相棒を頼むぞ」

「お前の相棒は知らんが娘の友達は守る」

 客をなんだと思ってるんだクソ親父。だがその筋肉を信用して金貨を渡しておいた。



 一人になったので魔法で体を重くしてランニング、温まったところでストレッチ、インターバルトレーニング、サーキットトレーニング。筋肉増大ではなく体全体の動きを意識して鍛えていく。

 身体トレーニングの後は素振りだ。ただの素人の素振り。

 技の型なんか知らねぇ、どうせ相手は人間の形をしていないのが殆どだし、1:1でもない。ただ、適当に素振りをしている内に最適に近づいている感覚がある。

 全力で素振りをすると色々荒れちゃうので、逆に凄くゆっくり。全身の動きを確認しながらだ。


 全ては肉体が教えてくれる。足先の方向が違うぞ、膝はもう少し溜めたほうがいい、腰の回転が早い、肩を前に出しすぎだ、脇を開くと力が逃げる、捻りがあれば衝撃が増すぞ、首を上げるな、踏み込む位置はここ、この体勢で当てれば最も威力が出る。

 毎日毎日繰り返す動作。しかし奮う相手がいない、強いからって無理やり戦って殺すなんてしたくない。

 だけどここなら、ダンジョンの深くには今の俺でも勝てない敵が待っている。そんな予感があった。


 しかし自重トレーニングは効率よく行えるんだが、首を鍛えようとしてもブリッジくらいしかできねぇな。体重100トンくらいある奴に首を押し込んでもらいたいんだが…。

 そうだ、フレアに丈夫な縄をかけて飛んでもらうとかどうだ?それを口で咥えて引っ張るんだよ。これは気持ちよさそうだなぁ!


 そんな馬鹿な事を考えていたら夜が明けていた。1日が短すぎる、夜寝てる奴は大変だよな。




「おはようケト!しっかり休めたか?俺もトレーニングしてすっきりしたぜ!」

『なんで一晩中体を鍛えて回復するのですか?』

「体が整うんだよ、お前も一度やってみろよ」

『絶対いやなのです』



 宿の朝飯を頂戴する。嫁に逃げられた悲しい親父の手製だ。

「おめぇよぉ、繁盛させたいなら娘に料理させたらどうだ?折角の看板娘なんだろ?」

「うるせぇ、その飯は日が昇る前から火を起こして作ってんだよ!娘にそんなことさせられるか!まだ寝てるんだから静かにしろ!」

「お前がうるせぇ、娘を大事にしすぎるから嫁に逃げられるんだよ」


「ほっとけ。それよりダンジョンの事でも考えとけ、考えなしだとすぐにおっちぬぞ」

「今のところ余裕でなぁ、昨日は30階層まで入った所で帰ったんだ。どの辺からきつくなるんだ?」

「30ってお前……、お前が言うなら本当なんだろうなぁ。普通はとっくの手前で止まってんだよ。まぁ30なら節目だな、守護者はたしか竜だったはずだ」

「竜!?なんで竜がこんなとこにいるんだよ」


『竜じゃないです、邪竜です』

「知ってんのか?」

『竜がダンジョンに入るわけ無いのです。加護を失った邪悪な竜が堕ちるのです』

「ほーん、まぁお仕置きして事情を聞けばいいか」

『無駄です。どうせ本体はもっともっと奥にいるのです。作られた偽物なのでボコボコにするのです!』

「え?そうなの?あいつらあそこで繁殖してるんじゃないの?」

『ダンジョンは変なところです!よく分からないけどみんな魂が無いのです!気持ち悪いです!』


「へー、まぁいいや。倒して平気なら都合がいい」

「倒す気満々だな。竜だぞ?以前は町で最強の奴らが組んで犠牲を出しながら突破したらしいが」

「竜と言ってもピンキリだからな、ここの連中に負ける程度なら楽勝だろ」

「まぁ、生きて帰ってこいや」

「楽勝だ」






『竜を倒した事があるのです?』

「俺の実家に行った時にいただろ、人間に変身してたが。まぁ子供だったらしいけどな。直接攻撃が効かないのが難点だが、分かってればなんとでもなる」

『邪竜にはちゃんと効くのです。加護を失っているはずなのです』

「加護?」

『かとうせいぶつが逆らわない為にあるって母が言っていたのです』

「へぇぇ、そりゃいいこと聞いた」



 混雑するダンジョン入口で雑魚共を蹴散らし、転移装置で30階層に飛ぶ。竜の偽物なんぞ本日のアトラクションの前座だ。


『GOAAAAAAAA ! !』

 フレアの二倍くらいのサイズの火竜か?魂の無い複製品の癖に無駄に吠えやがる。

『GAAAAAA ! 』

『ひぃぃ!ブレスです!よけてよけて!』

 ブオオオオオ!!

 初手からブレス!それもダンジョン内を隙間なく埋める極太火炎ブレス!渦を巻き高速で迫るそれはブレスというより火炎砲だ!


「フン!甘い!遅い!ぬるいわ!食らって砕けろ!!ギガンティック・サイクロン・アレキサンダー・パンチ!!」

 魔力を練り込んだ超高密度の筋肉が唸りを上げる!大きく振り上げ捻り込んで放たれるコークスクリュー!回転が生み出すのは大地をも抉るエアスクリュードライバー!激しい摩擦により空気がプラズマ光を放つ!

「ドラァァァ!!」

 超高速で突き出された拳が空間をぶち砕いた!爆縮された空気は逃げ場を求めて前方へと破壊の力をぶち撒ける!

 ドゴオオオオオオ!!

 相撃つ力は一瞬たりと拮抗すること無く、残骸を撒き散らしてダンジョンを破壊しながら竜の腹を貫通した。


「本体にも最初に同じ物を食わせてやるぜ」





 本日のお楽しみはまだ始まったばかりだ!




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