第34話 7歳 共鳴しちゃう邪悪な心

 竜を撃破すると宝箱が現れた。10.20.30などの節目の階層には守護者という強大な魔物がいて、倒さないと進めないし倒すと報酬があるんだ。

 ゲーム感丸出しで気持ち悪い。自然ではない、誰かが作ったのは明白である。

 快適で便利なダンジョンを攻略して宝と金を得る。町に出れば英雄気取りも出来るし金を使えばみんな言いなりだ。

 もしこれがどこかの勇者の為に誂えられたというなら、その勇者はきっと頭がとろけておかしくなっている事だろう。


「竜といっても全然雑魚だったな。折角だし自分の拳で殴ればよかった」

『普通の人間は最初のブレスでやられちゃうと思うのです』

 だけどあの竜を撃破したチームがあるわけだ。あのブレスをどうやって受け止めたんだろ?魔法で止めて?距離を詰めて反撃?引っ掻きや尾撃はどうやって止めたのか、剣や槍でチクチク攻撃したんだろうか?犠牲も出しながら勝ったと言ってたよな。

「あー!そっちが見たいなぁ!クソ熱かったんだろうなぁ!」

『戦いなんか見ても楽しくないです』


 まぁとにかくお宝を確認してみるか。

「お、篭手だ。これ今まで拾ってきたのとセットだよな」

『足鎧、兜、篭手、腰鎧が揃ってるのです。でも真っ黒で嫌な気配がするのです』

「いやいやカッコいいだろ、こう暗黒騎士って感じでさぁ。お?」

 ガチリ。大きすぎる篭手に手を入れた途端にサイズが変わってしっかり嵌まり込んで抜けなくなってしまった。


「ふん!」

 バギャア!

 宝箱の角にぶつけると砕け散った。雑魚パーツだったようである。

「やはり邪悪な鎧だったようだな」

『どう見ても呪われているのです。捨てた方がいいのです』

「まぁいいじゃないか、篭手は無くなっちまったが鎧が出たらセットで付けてみようぜ。街の連中がビビり散らすと思うぜ」

『はぁ、頭が悪くなっているのです』

「お前は口が悪くなってるけどな。さあ進もうぜ、今日も40階層を目指すぞ」




 30層を超えた先はこれまでの魔物とは質が大違いだった。

 出てくる魔物は犬や死霊、リザードマンやオーガと言った外でもよく見る魔物なのだが、一匹一匹が守護者だった竜と同等かそれ以上の力を持っている。


『ギャシャア!』

 隊列を組んだリザードマンの部隊、先頭に立つ槍持ちの不用意な払いをダッキングで回避しながら踏み込む。

「くたばれ!スターライト・ピストン・アレキサンダー・パンチ!」

 無数に重なりあう星の煌めきを彷彿とする連続パンチ!加熱し発光する拳が流星のごとく降り注ぐ!

 ガガガガガガ!

 瞬く間に槍持ちを飲み込んだ攻撃を一歩後ろにいた盾持ちが防ごうとするが、回転に乗った俺のラッシュを抑えられる訳もなく。他の仲間と共に1秒も持たずに消し飛んだ。


「ふぅやるじゃないか」

 盾持ちが耐えたコンマ数秒の間に、後列の魔物から矢と魔法の石槍を命中させられていた。どちらもダメージにすらならないが、雑魚にヒットさせられた事に違いはない。




「なんでこいつらこんなに強ぇんだ?外にいる奴らとは全く別格じゃないか」

『わかんないのです。ダンジョンは通常の世界とは別、喜んで入るのは世界から逸れた者か人間くらいなのです』

 とても人間が進めるレベルじゃない。以前30階層を破ったというのはやはり勇者かな。


「まぁいい、手強いってならありがたい話だ。よさげな武器も拾ってるし色々試していくとするか」



 そこからは色々と道具を試しながら進んだ。

 風の刃が出る剣、突くと爆裂する槍、自動で敵を追いかける短剣、色々と面白いものがあったんだが威力に欠ける物が多い。

 その中で気に入った物が一つ。


「ビームサーベル?」

『純魔法剣なのです。長さや強さは使い手の魔力次第の剣です。魔力が常に必要なので扱いにくいのです』

「いいじゃん」

 フォン。魔力を込めると小気味のいい音と共に光の刀身が現れる。でもなんかぶっとくて不格好だな。

『もっと繊細に魔力を込めるのです。細くても太くても丈夫さは変わらないのです。細く長く変幻自在なのがいいところなのです』

「ふふふ、使いこなしてやるぜ」


 いろいろ試して見ると、とりあえず多めに注ぎ込むと刀身が大きくなる事は間違いなかった。これを太くせずに細く長く伸ばしたり、必要な瞬間にだけ出せればいいわけだな。

 後は実践で鍛え上げるぜ。




「アストラル・ダーク・スリーパー!」

 無意味な詠唱をスイッチにして剣へと魔力が注ぎ込まれる!

 フィィィィン!

 現れる巨大な刀身!その剣先はダンジョンの天井に突き刺さり見ることさえ叶わない!恐るべきエネルギーの塊!

 哀れなオーガー共の顔が恐怖に引き攣る!

「一刀山砕き!キイエエエエエエアア!!」

 バガァァァァァ!!

 天井を砕き落とし!幅20メートルを超える巨大なエネルギーがオーガー共に振り下ろされる!

 通路を埋め尽くすエネルギーの塊は容赦なく敵を砕いた。



「ふぃー!いいじゃあないの!」

『全然使いこなせて無いのです。力押しなのです』

「ふむ。これ振り下ろさなくても前に出せば波動砲みたいになるのでは?」


 その後は魔物が現れる度に通路を埋めるエネルギー刀身を生み出して蹴散らした。これもうダンジョン攻略必勝法だろ。


「もう40階層か、もうちょっと行かね?」

『昨日より時間がかかっているのです。休まないと駄目なのです』

「必要な時に起こすから寝てていいぞ」

『違うのです。アレキサンダーが休むのです』

「は?」

『今日は入ってから何も食べてないのです。いつもより動いているし魔力もつかっているのにいつもより元気。おかしいのです』

「そうなんだよ絶好調なんだよ」

『お願いです。休んでほしいのです』

「むーん…」




 ケトがせがむので転移装置を使って外に出た。

 なるほど昨日までより少し遅いようだ、買い取り所も空いていた。でも今日は魔物を消し飛ばしたから腹に穴の空いたドラゴンくらいしかない。

「うおぉぉ…まじか、ドラゴンをやったのか。流石だねぇ」

「いいからさっさと査定してくれ」

「……腹に穴が空いてるから金貨200枚だな。完璧ならもっと出るんだが」

「あ?」

「いやいや待て待て待て!2000枚の間違いだったわ!そんな怖えぇ顔すんなよ」


 金を受け取って店を出た。2000枚にもなると流石に邪魔なのでケトに預かってもらった。

「舐めやがって、人間どもはこれだから」

『ご飯は食べないのですか?』

「飯?……腹減ってねぇな」

『じゃあ宿に行くのです』

「あぁ」


 なんだかイライラする。さっきまであんなに楽しかったのに。こんなならずっとダンジョンに潜っていたい。ずっと戦って、魔物共をぶち殺して、もっともっと奥へ。


「おう、帰ったかガキ。今日は辛気臭ぇ顔をしてるな」

「うるせぇよ、じゃあ頼むぞ」

『待つのです!座るのです!』

「あぁ?なんだってんだよ」

『ちょっと座っているのです!アンナー!アンナー!』

「アンナってあの娘か?」

「娘っていうんじゃねぇよお前よりずっと年上だ」


「あ、アレキサンダーくん、怪我がなくてよかったわ」

「あ?」

(ひぃ!こわい!)

(大丈夫なのです!頑張ってほしいのです!)

「あ、あの。よかったら一緒に御飯食べない?お姉ちゃん、アレキサンダーくんと一緒にご飯食べたいな」

「……わかった、ちょっと買ってくる」

 なんなんだいきなり、仕方ねぇな。適当に食い物買ってくるか。何も食ってねぇしな。



「た、沢山買ってきたのね。お姉ちゃん嬉しい」

「うん、お腹減ってたから」

「ブフォ!!」

(静かにするのです!)

「アレキサンダーくんの一杯食べるところみたいなぁ」

「うん、たべる」

 パク、ズズズ、ナポ、モニュモニュ、ゴキュゴキュ、うし…うし…。

 さっきまで全く食欲がなかったのに今は腹が減って仕方ない。イライラしていた気分も吹き飛んだ。

「おいしい!おねえちゃんも食べなよ!」

「うん、ありがとうね。いただきまーす」

 ご飯美味しい!


「ふぅ、ごちそうさま。凄い豪華だったね」

「うん!おいしかった!」

「あ、アレキサンダーくん、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ましょうか!」

「!!」

「待て待て待て!何言ってんだアンナ!」

「一緒に寝るだけじゃない、アレキサンダーくんは7歳よ?」

「だからってお前そいつは…」

『えいっ!』

「ぶごっ!」


「ん?何かあったか?」

『何もないのです!今日は三人で寝るのです!』

「そうしましょう、お姉ちゃんと一緒に寝ようね」

「うん!ねるー!」






 翌朝。

「お、俺は一体何を……」

『おはようなのです』

「うーん…スヤァー…」

「とりあえず出るか」



 部屋を出て1階の食堂へ移動した。自分が一晩丸々睡眠した事に自分で驚いていた。

「おう、何もしてねぇだろうな」

「当たり前だ、俺は7歳だぞ」

「ちっ!」


「それでケト、俺はどうなっていたんだ?」

『アレキサンダーは頭がおかしくなっていたのです。元からおかしいですけどもっとおかしくなっていたのです。ダンジョンと相性が合いすぎるのだと思うのです』

「なんだそりゃ?」

『あのままだったらダンジョンに入り込んだ竜と同じになっていたと思うのです』

 ふむ、心当たりが無くもない。この町は俺にとって都合が良すぎる、ダンジョンが快適すぎる、ここには巨人も精霊もいないのにドハマリしてしまっていた。


「ここにはバケーションに来たんだったな。切り上げ時かもな」

『そうなのです!また気が向いたら2.3日遊んで帰ればいいのです!』

 そうだな。楽しいからっていつまでもこんな所で遊んでいたってしょうがない。俺はもっと沢山の世界・人・神秘に触れたいんだ。王にもならなきゃいけないしな!


「帰るか」

『帰るです!』

「だがその前に今日は1日町で遊んでいこうぜ。ダンジョンはやめとくわ」

『?』

「あの鎧のセットあっただろ?篭手もまた出たしマントも出た。アレを装備して町に行こうぜ」

『絶対呪われるのです!馬鹿なのです!』

「いいからいいから、俺は竜の呪いも効かなかったからさ」

『本当に訳がわからないのです…』



 テレレレッテレー!、あんこくよろいセットー!

 そして更に。

「シラナ・クルフィア」

 変身魔法だ。魔法の中ではかなり簡単な部類で、変身する姿の構築さえ済んでいれば短い呪文で発動出来る。フレアが学んでいる横で覚えた、俺が使えるたった2つの魔法の1つだな。


『大きくなったのです』

「男前だろう?これで鎧を身に着けて…、どうだ!地獄からの騎士って感じだろ!」

『はぁ…』






 今日はこれで遊んで帰るぜ!軍資金はたっぷりある、暴れる以外でも遊びをおぼえねぇとなぁあ?

 町で稼いだ金はきっちり還元してやろうじゃないの。

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