第29話 6歳 一人旅って原点だよね

「アハハハハハ!カカカ!ククク!!カーッカッカッカ!」

 妖怪のじゃロリBBAが不気味な笑いを続けている。元半妖だったのに今じゃ完全な化け物だ。俺は大変な物を生み出してしまった。

「のう、どういう笑い方がいいかのう?アハハじゃと可愛すぎるかの?」

「知らねぇよ、脳味噌までガキになってんじゃねぇよ。おばばは『ケェッケッケ!』って化け物みたいに笑ってたじゃねぇか」

「馬鹿者!女子がその様な笑い方でどうする!可愛い笑い方を考えるのじゃ!」


 誰だよこいつ。返して…ばばあ返して……。いややっぱいらねぇわ、どっちもいらねぇ。旅に出たい。

「おばば、そんなのどうでもいいだろ。それより世界樹の葉っぱと竜の牙なんかもあるんだ、薬に使うようなもんあるか?母者も土産を見てください」

「誰がおばばだクソガキ!このピチピチの肌を見るのじゃ!髪もツヤツヤで幼気なボディが堪らんじゃろう!カーッカッカッカ!」

「はぁ…」


 笑い方は「カーッカッカッカ!」にするのか、顔が3つある超人みたいだな。情緒不安定だし丁度いいのかもな。

「それで、なんて呼べばいいんだ?」

「うむ!ワシの事は花の聖女、ベルナデッド・ハーブウィスパーと呼ぶのじゃ!」

「長い」

「特別にベルちゃんでよいぞ!」

 地獄かよ。


「母者、ダイオスは元気ですか」

「えぇ、もうお乳も卒業して少しずつ動き回る様になってきて凄く手間がかかるわ。あの頃のあなたは既に一人で村中を深夜まで走り回り、平然と狩りをしていたけれど。あの頃は本当にごめんなさい、本当は私なんて母親失格なのだけど」

「何を言うんですか母者!俺が異常だったのです!それに母者以外に俺の母者が務まる者はいません!」

「その通りじゃ!ワシは殺したほうがよいと何度も勧めたからの!」

「ばばぁ!!!」

「なんじゃあ!やんのかこらぁ!!あんなもん誰だって魔王の生まれ変わりだと思うわ!!」

 それはそう。



「はぁ。母者、俺はまた旅に出ます。たまには顔を出せる様にするつもりです。おばば、諸々置いていくから勝手に研究してくれ。桃食いすぎると消えちまうぞ」

「わかったわ、無茶をしないでねアレキサンダー」

「アマンダによろしくの、絶対3個目は食わすでないぞ。それと次におばばと言ったらどんな方法を使ってでも殺す」



 土産を降ろして荷物を分けた。

 持っていくものは、魔力を込めると水の出る水差し、モコモコの羊毛、フレアからもらった謎の直剣と小さな杖、それと桃が5個だ。

 街で新しいカバンと食料、それと薄い毛布を購入して旅に出よう。帰る場所は母者とおばばが守ってくれる。こんなヤバイものを平気で置いていける場所なんて他に無い。


「じゃあまた」



 目的は巨人。魔王と勇者も見に行きたいな、後は精霊ってやつか。

 竜の長老には戦うビジョンすら浮かばなかった、世界樹は何一つ理解出来なかった。巨人も魔王も訳わかんないくらいすげぇ奴らなんだろう。早く会いたい。彼らの神秘に触れたい。






 トーリア国王都。冒険者ギルド。

「おう久しぶりだな。転職出来るか見に来た」

「久しぶりですねぇ、国は出来ましたか?」

 冒険者ギルドで働く姫さんだ。フレンドリーではあるが姫ガキ共とは違う姫っぽさを感じてしまい、俺の中の少年の心が疼いてしまう。だがここはクールだ、クールに行くぜ。


「まぁその内な。急いでるなら西の端っこの村に行けば生活に困ることはないぞ。町の名前とかは覚えてないが、誰か匿いたいなら調べておこう」

「本当ですか?生活に困らないとはいかほど?」

「なんだ?まぁ毎月母者には金貨1000枚は渡してあるし、色々特別な物もあるからな。俺の名前を出して事情を説明すれば街で働くくらいは貰えるんじゃないか?行商は頻繁に来てるみたいだぞ」

「そうですか。早速何人か行くかも知れません」

「あぁ、母者に従っておけば大丈夫だ。それより転職を」

「奥へどうぞ」


 人の居ない部屋に入ったがもう像は無かった。俺以外の奴にはどうしてるんだろうか?

「とりあえず転職先候補を見ましょうか。どういう系統を考えてるんですか?」

「まともな魔法職が出てるならそれで、無いなら戦闘職でスキルってのやってみたいから何でもいいや」

「わかりました。それでは目を閉じて祈ってください。まずは魔法職からですね」


 目を閉じて念じる。

 魔法だ、出来れば回復魔法。空を飛べたり冷気を出したり風を起こしたり。何でもいい!魔法だ!魔法を使わせろ!ぶっ殺すぞボケが!!


「あれれ?んーもういいですよ」

「ふぅ、今回は手応えあったか?あったよな?」

「………」

 ぴらり、職業を書いた紙が渡される。改めて手に取る必要すらない、『狂修羅』とだけ書かれている。


「………」

「あの、最初は祈祷師っていう、魔法職と一般職の間みたいな職業が出てたんですが、途中で消えちゃったんです。何か邪念があったのでは?」

「………」

「あの」

「この、『狂修羅』というのは何だ?」

「んー、見たこと無いんですよね。私これでも一通り勉強してるんですけど、もしかしてこれって上位職というやつなのかも知れません」

「上位職?」

「昔の勇者様曰く、特定の条件を達成した後に現れる物だそうです。戦士、弓師、格闘家を経験した後に武芸家になれるのが有名ですね。ほんの一握りの人しか達成出来ません」


「つまり………」

「あなたは狂戦士と狂魔道士を極めた狂った修羅…という事ではないでしょうか」

「………」

「すごい職業かもしれませんよ!スキルや魔法だってあるかもしれません!」

「………」

「………」


 ―――――――――

 アレキサンダー

 6歳


 ジョブ 狂修羅

 レベル 1


 体力 19572

 魔力 49686


 スキル

 狂化ω

 体力+5%

 体力+20%

 体力+50%

 体力+100%

 体力+200%

 体力+300%

 体力+400%

 体力+500%

 魔力+5%

 魔力+20%

 魔力+50%

 魔力+100%

 魔力+200%

 魔力+300%

 魔力+400%

 魔力+500%

 魔力+600%

 鍛錬ω

 天壌無窮


 スキルアーツ

 狂戦士化

 修羅道

 

 魔法

 魔力暴走

 ――――――――――


「まぁいい、折角だから変えておこうってだけだったからな」

「焦らせないでくださいよ。殺されるかと思いました」

「それより、旅をするつもりなんだが何か面白い話は知らんか?」

「さあ…最近隣の国にドラゴンが攻めてきたくらいしか話題無いですね」

「それはいいや」


 この後、村からのうろ覚えのルートを話し合い割り出した。どうも色々と意に沿わぬ人生を押し付けられそうなのが居るらしく、亡命希望があるそうだ。そんなの逃がしてたら姫さんの立場もきつくなりそうだが。

「私も危なくなったら母と逃げます。ちゃんと迎え入れてくださいね」

 との事だ。


「じゃあな。村にはたまに帰るから誰か送られていたら様子を見ておく」

「ありがとうございます。ご武運を」





 魔導王国アンティカ首都。

「アリーってどこでエンカウントするんだっけ?」

 失敗した。いつも向こうからフレアに会いに来てるからどこで会うか分からん。

 仕方なく学園長に会いに行ったが行方が分からなくなったそうだ。あのババァ、結局礼も何もしないでトンズラしやがった。大方男でも漁ってんじゃねぇかな。


 簡単に手紙を書いて城門の兵士に渡しておいた。届くかどうかは知らん。一応俺が竜の飼い主という事は分かっている筈なので、たぶん届くんじゃないの?

 フレアには今回は俺だけで行くと書いておいた。あいつは俺の実家を知ってるんだから何かあれば連絡出来るし、今はアリーと仲良く遊びながら魔法を学んでりゃいいよ。あいつはガキだという事が発覚したしな。



「さて、行くか。5年か、10年か、それとも一生か。この世界を冒険するんだ」

 胸には希望しかない。世界の謎が俺を待っている。


「あばよー!」






 ―――――――――――

「ハァハァ、まってよ~」

「だらしないぞミレイ、もうレベル100超えてるんだろ?」

「でも~」

 今は竜の山を登っている、村を抜け出して往復10日もかかる遠出だ。書き置きを残して抜け出したので怒ってるだろうなぁ。


「仕方ない、ちょっと休憩するか」

「よかった~もう限界だよ」

 ここまでにも魔物を沢山倒してるんだけど、やっぱり経験値の多いレアモンスターに比べると全然効率悪い。早く自由に動けるようになってレアメタルスライム狩りに行きたい~!

 今は勇者が100、盗賊が100、弓師が63だ。弓を100にしてレンジャー、その後戦士と格闘家を100にして武芸家、レンジャーと武芸家も100にしてから魔術師系だ。滅茶苦茶先が長い。

 でもあの子を仲間にするには最上級職になってないと駄目なんだよなぁ。二周目要素を一周目で狙うってマジきつすぎ、ゲーム開始前にどれだけ動けるかだよ。


「この山って竜が出るんでしょ?大丈夫なのかな」

「あぁ、竜と言っても小さい竜だからね。盗賊のスキルがあれば完封できちゃうんだ」

「ふぅん?なんでわかるの?」

「俺にはわかるんだよ、いいからついてくればいいんだよ」

 最近は色々文句を言うようになって面倒くさい。まだ子供だからな~、思春期になって俺に惚れたら楽になると思うんだけど。

「ほら、もうちょっとで頂上だから頑張ろ!」

「うんー」




 歩き続けて頂上に着いたんだけど…竜が居ない?何十年も住み着いてるはずだけど、イベントのタイミングじゃないからなのか?

「ない!ない!剣が無い!世界樹の杖も!」

 竜の集めた宝がほとんど無い!ガラクタばっかりだ!

 なんで?まだ早かったの?でも奪われたのはずっと昔の設定だ。設定資料集だって何度も読んだ、奪われた英雄の話も読んだ、こんなのおかしい!

 ソード・オブ・ウィダリスは終盤近くまで使えるチート剣、世界樹の杖も魔法職になった時の為に確保しておきたかったのに!何のためにこんなところまで来たんだよ!!


「どうしたの?あんまり騒ぐと竜が帰ってきちゃうかも」

「うるさい!竜なんてどうでもいいんだよ!」


 くそっ!予定が大幅に狂った!故郷の村を襲う部隊の長は魔族の伯爵クラス。負けイベントをひっくり返すにはただ二周目以降の高レベルだけじゃ駄目なんだ!

 他に時期を無視して手に入れられる装備となると。



「アレを奪うしか無いか。多少の犠牲は仕方ないだろ」

 仕方ないじゃないか、だってここにあるはずの物が無いんだから。

 仕方ない、仕方ない。仕方ないことなんだ。

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