第28話 6歳 若さとは

「それじゃ急いで戻るぞ。フレア、つらいだろうがアリーの街まで頼む。そこで休んでくれ」

『はーい!頑張るよ!』

「桃を詰める袋も必要だなぁ、何かいいものないかな?」

『そうだ!世界樹様ー!葉っぱ1枚くださーい!』


 わっしゃわっしゃわしゃわしゃ


 空からでっかい絨毯みたいな葉っぱが落ちてくる。1枚っつってんのに10枚くらいあるぞ、何かに使えそうだし貰っとくか。

「世界樹って竜が好きなのか?もしかして幼女好きの変態だったりしてな」

「やめなさいってば!」


 でかくて柔らかくて丈夫な葉っぱだ。ここは何でもデカくて感覚がおかしくなるな。

 葉っぱを重ねてその中に桃を並べて包んだ。

「ありがとうな世界樹さんよ、害虫でも付いたら払ってやるぜ」

 相変わらず俺を無視する木。一人で来ることがあったらぶん殴ろうと思う。

 なんとなく名残惜しさを感じながらその場を離れた。




「あぁそうだ、襲ってきた奴らから剥がした鱗と爪を置いてきたんだ。母者の土産に回収していこう」

「えぇぇ、あんたそんな事してたの?竜相手に怖いもの知らずね」

「採っていかないとフレアが狙われるからな」

「えぇぇ……」


 世界樹の葉を広げて戦利品を包む。その作業の最中に何かがぶつかった。

「おっと。なんだ?」

『GAAAAAAA!!!愚かな人間め!我が呪いを受けたな!生涯苦しむがよいわ!GAAAAAAA!!!』

 倒れてた竜の一匹が何かしたようだが、呪い?

「フレア」

『えい!』

 べしり!

『GUUUUU……』

「ヘロヘロじゃねぇか、こんなんでもあの長老のところのガキだと思うと殺す気にならんな」


『愚か者め、貴様はもう終わりなのだ。竜の呪いを受けたものは恐怖と苦しみで……苦しまないのか?』

 のろい~?竜であることだけが寄る辺になってる様なこんな雑魚に呪いかけられてもなぁ?

「大変よ!ステータスを見てみて!」

「何にも無いと思うけどなぁ。ステータス」


 ―――――――――

 アレキサンダー

 6歳


 ジョブ 狂魔術師

 レベル 682


 体力 39145

 魔力 99372


 スキル

 狂化ω

 体力+5%

 体力+20%

 体力+50%

 体力+100%

 体力+200%

 体力+300%

 体力+400%

 体力+500%

 魔力+5%

 魔力+20%

 魔力+50%

 魔力+100%

 魔力+200%

 魔力+300%

 魔力+400%

 魔力+500%

 魔力+600%

 鍛錬ω

 天壌無窮


 スキルアーツ

 狂戦士化

 

 魔法

 魔力暴走

 ――――――――――


「うん、呪いなんかねぇな」

「ななな、何よこれ!あ!分かったわあんたが魔王ね!?」

「失礼な奴だな。ステータスなんて意味がないから気にするな。数値が高くなるとより効率的なトレーニングが出来るに過ぎない」

「何を言っているのか分からないけど、あんたが魔術師名乗ってるのが一番訳が分からないわ。狂化は納得だけど」

 本当に失礼なやつだ。置いていってやろうか。


『嘘だ!我が呪いは間違いなくお前に取り込まれた!』

「知るか。だがお前にはお仕置きが必要だな。さて、何をもらおうか。ゲームで有名なのだと、牙、舌、目玉、肝臓、胆石あたりか?あ、火を吐くなら火袋とかあるのかな」

『な、な、なにを言っているのだ?』

「あ?お土産だよ、みんなが喜んでくれるお土産。お前は弱いから目玉は力が無さそうだし、胆石は育って無さそうだし、肝臓か舌だなぁ。どっちがいい?」

『ヒッ!ヒッ!うぐぐ!UGAAAAA!!』

「やはりそう来るか。これで寝とけ!ファイナル・アトミック・ハイパーボッ!」

『GYAUUUU……』

 二連スープレックからの後頭部を叩きつける危険なパワーボム。よい子は真似しちゃ駄目だぞ!

 だがまぁ軽く寝る程度に調整しておいた。たぶん竜は丈夫だし大丈夫だろう。たぶん。


「んじゃ牙を採っていくか。根本から」

「うえぇ、すっごい痛そうなんだけど」

『大丈夫だよ!無くなったら生えてくるからね!』

 そういう問題だろうか?まぁ失われても戻るなら遠慮なくいただこうかな。

 歯茎から切り取ろうと思っていたが、謎の直剣は竜の歯にもサクリと刺さったので根元付近でぶった切ってきた。運のいいやつだ。



 回収も済んだので魔導学園に向けて出発した。まずはアリーを降ろさないとな。

 竜の谷は明るかったが、出発したのは深夜に近いだろう。フレアに頑張ってもらい街に着いた頃にはもうすっかり日が昇っていた。





 ドズゥン!

『ふあぁ、眠いよう』

「よく頑張ってくれた。村までは俺一人で行ってくるからゆっくり休んでいてくれ」

「フレア、無理させてごめんね。今日は人間に変身して私のベッドで休みましょ」

『うん~』

 もう限界だなこりゃ、事故らなくてよかったぜ。

「あぁそうだアリー、お前の取り分だ。いくつか持っていけ」

「いいの?」

 こんなにあるのに独占したら俺が悪人だろうがよ。

「あ!あぁぁぁぁ!!」


 突然でかい声がした方を見上げると学園長が空に浮いていた。いつも澄ましているその顔は、目を一杯に見開いて大口を開けた間抜けな姿だ。

「そ、そそ、その実は可能性の実?本当にとってきたのですか?」

「あぁ気前よく貰えたぜ、助言助かった」

「あ、あなた、あなたはもしかして花の聖女にこれを与えるつもりでは!?」

「まぁ、そうだが?」

「ぎ、ぎいいぇぇぇっぇぇえぇぇ!!駄目です!許されません!おぞましい………!あの女が若返ったりしたら、その時私は………!あああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」


「なんだ!?落ち着け!なんだってんだ!」

「お願いします!その実を私にもください!なんでもします!この身も捧げます!貴方に尽くします!全ての財産も差し上げます!!」

「おげぇぇぇぇぇぇぇ!!えぼろろろろろろろ!!!」

 そんなもん捧げるんじゃねぇ!ぶっころすぞ婆ぁ!!!

「あの女が若返ったら必ず私の所に来る!!老いた私の前で!美しい姿で!あの時の様に私から奪っていく!!あああああぁぁぁっぁああ!!!」

「わかった!わかったからかしがみつくな!!ほら投げるぞ!ほーら!さああっちへ行け!」

「ミィィィイィイ!!ミミィィィイ!!!」


 なんというおぞましい姿だ。頭のおかしくなった老婆が桃を拾い上げて貪り食っている。汁が垂れたのを必死に舐めて・・・うぅ、また吐きそう。

「学園長……」

「お前、その実は隠しとけ。俺が全部持っていったことにしとけ」

「そうする」


「うぐっ!はあぁぁぁっぁ!!!」

「お、おい大丈夫かよ」

 学園長が唸り出したと思うと、みるみる体が若返っていく。白い髪は銀色に、皺の刻まれた顔は・・・まだ皺あるな。

「若返った!若返ったわ!おほほほほほほ!私は若さを取り戻したの!!」

「どう思う?」

「んー、半分くらい若返ったんじゃない?」

 老婆が中年の女性になった感じ。半分になったのか、40歳程若返った結果なのかわからんな。


「学園長、ほらもう一個」

「ちょ!」

「ミイィィィィ!!ミミィィィィィィ!」

 繰り返される惨劇!アリーはドン引きである。フレアは寝た。

「おほほほほほ!完璧ですわ!私は美貌を取り戻しましたの!」

「おぉぉ、すごい効果だ」

 学園長は妙齢の女性に生まれ変わった。生命力に溢れ、美しい銀髪がキラキラと輝いている。まぁ元が婆ぁだからどうでもいいんだが。


「でもそれだと学園長だと分かんないかもな」

「学園長?そんな人はもういません。私は生まれ変わったアマンダ・クリスタニア。新しい人生が私を待っているのですわ!」


 意味が分からん。話し方も変化しているし、頭まで若返ってお花畑になってしまったんだろうか?恐ろしい効果だ。

「効果も分かったし俺はもう行く。迎えに来るからフレアを頼むぞ」

「もちろんよ!大切なお友達だもの!」

「ではな」






 故郷の村。

「母者!戻りました!」

「アレキサンダー!今までどこに行っていたの!おばば様は家に運び込んでいるからすぐに見舞いなさい」

「すいません母者、そのおばばを救える薬を探していました」

「がきぃ…そんなもんいらないよ。あたしゃ思い残すことも無いんだ。やれるだけのことはきっちりやったよ」

「おばば」

 らしくねぇ。弱々しくぼそぼそと。さっさと元気になれや。


「おばば、俺を舐めるなよ。おばばなら可能性の実という物を聞いたことがあるだろう。それを持ってきた、これを食えばきっと元気になる」

 桃を見せるとおばばは少しの間だけ驚いたように目を見開いた。

「やるじゃないかガキぃ、まだまだガキの癖に大したもんだ。あんたはきっと何にだって成れる、だから今はしっかり学びな。そんなもんは金持ちにでも売っちまえ」

「おばば!何言ってんだ!これを食え!」

「いらねぇ。そんなもんに縋るのはな、弱虫のやるこった。あたしはちゃんと自分の人生をやりきったんだ、そんなもん必要ない」


「おばば・・・分かったよ、流石おばばだ。あんたの事はわすれねぇ」

「ケッケッケッ、偉大な王に覚えててもらえるなら上等だ…うぅっ、ゲェホ!ゲホッ!」



「おばば、あんたはすげぇ。学園長の婆ぁなんて縋り付いて懇願して貪り食ってたってのに、やっぱりモノが違うんだな」

「ん?」

「学園長が実を貪る姿はそりゃあみっともなかったぜ。2つ目を投げても何も考えずに貪って、すっかり若返ったせいでもう学園長とは分かんねぇよ。そんなの今までの人生を捨てる様なもんじゃねぇか。そういうのは、やっぱ違うよな。おばばは立派に胸張って生きてきたんだもんな」

「待ちな、待て」

「おばば!俺はおばばの生き方を尊敬するぜ!」

「待てっつってんだろうが!!その実をあのアマンダが食ったってのかい!?」


「あ?あぁ、一個食わせたらおばさんになって、もう一個食ったら姉ちゃんになったぞ。銀髪の綺麗な姉ちゃんだった。ばばあだけど」

「よこせぇぇぇぇ!!みっつだ!みっつよこせ!!」

「うぉぉぉ!ばばあどこにそんな力が!やっぱり妖怪だったのかてめぇ!」

「よこせってんだよガキぃぃ!ぶっころされてぇのか!!!」






 そしておばばは3個の実を食べた。10歳くらいの可憐な少女になった。


「アハハハハハハハ!やったのじゃ!あのババアに自慢してやるのじゃあ!」

「アレキサンダー?母の分もあるのよね?」

「はい」




 どうすんだよこれ

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