第27話 6歳 本当に強い人は優しい

「おーい!フレアー!おーい!」

『アレキサンダー!』

 竜たちを落っことした後、当然俺も落っこちた。今更落下ダメージなんぞ受けないが、フレアが見つけてくれるまで待たなきゃならなかった。

 仕方ないのでその間にピクピクしている竜共の鱗を剥ぎ、爪を砕き、牙が折れないから歯茎から切り落とすか迷っていたらフレアが見つけてくれた。剝いだ戦利品は帰りに拾っていこう。


『やったねアレキサンダー!へへーん!ざまぁ!!』

「あんた無茶苦茶ね。暇な時に魔王探して倒してきてよ」

「そのうちな。行こうフレア、こいつらは放っていくぞ」

 目的は可能性の実とやらだ。今は他のことにかかずらってる場合じゃない。



 竜たちを撃退した地点から更に飛ぶこと10分ほど、眼前には世界の端っこを思わせる大渓谷が現れた。

 とにかくでっけぇ、まず山がデカすぎてどこから山なのか分からん。渓谷は遙か先にかろうじて対面が見える広さ。とんでもなく深い谷なのに、ずっと下に流れる川が光を放ち明るく保たれていた。木々の全てがデカイ、生息している全てがデカイ、そして今まで倒して来た竜の数倍デカイ奴らがそこらでたむろしてやがる。ここが竜の谷、なるほどこいつはイカれた場所だぜ。


「すまんなアリー、ポーションとか意味の無い物を持たせてたわ。形見も残らないと思うし何か預かっておこうか?」

「ややややめなさいよぅ、ふふふ、ふれあぁぁぁぁ」

『大丈夫だよ!大人は乱暴したりしないよ!』

 大人の竜ね。

「お前自分を大人の竜って言ってただろ」

『お、大人だよ!?あいつらがガキなだけ!ぼくは大人!全然違うよ!』

『誰が大人だって?よく帰ってきたなフレア!』

『お、おじ…早く長老のところに行くよ!』

「きゃ!フレアゆっくり!」

 家族は大事にしなきゃ駄目だぜフレア。




 クソでか渓谷の中へと降りていく。見ると辺りの壁にクソでか穴が空いていて、そこが竜たちの寝床なんだろう。デカすぎてスケールが把握出来なくなるわ。

 フレアは山の頂上のむき出しの場所に巣を作っていたが、雨降ったら大変だったんだろうなぁ。

『ちょうろ~!ちょうろ~!長老さん居ますか~!』

 その中でも一際クソでかい穴に入っていくんだが、体高10メートルを超えるフレアがラクラク飛行できる穴っておかしいだろ。これ1つでも大空洞とか大迷宮って言われそう。一本道なのに大迷宮はおかしいって?ゲームだと珍しくもないだろう、丁度竜の巣だし、大迷宮バハムー…。


『なんじゃい騒々しい!』

『長老さん!可能性の実っていうのください!』

『あ~ん?おぉ!人間じゃないか!それも普通の人間だ!ここに来るなんて……なんて………どのくらいぶりじゃったかの?』

 ででででけぇぇぇぇ!顔だけで幅200メートルくらいあるんじゃないか!?いやデカすぎだろ!お前この穴よりでかいじゃん!


「あんたが竜の王か、ハチャメチャウルトラでかいな。何食ったらそうなるんだ」

『ん~?はっはっはっ!もうずっと食事なんてしておらんよ!前に食ったのは……う~ん………はて?』

「すまん、急いでるんだ。竜の王よ、可能性の実とやらが欲しい。譲ってくれ」

『なんじゃい人間、まずわしは竜王様ではない、ここの長老じゃ。可能性の実が欲しいとな?ふむ、そうよな、、、え~と、、うむ』

『長老!谷の奥にあるでっかい木に生る実のことだよ!』


『あ!あ~アレじゃな!分かっておったよ!人間はあれが好きじゃのう。我らには無用であるし、木は守らんといかんし、実を狙って色々来るしでほんに迷惑で。なんじゃあの木は!ワシが生きてるうちに焼きはろうてやろうか!ムカついてきたの、思えば昔からあいつのせいで何度も』

「貰いに来た人間が過去にいるんだな。伝承では勇者が竜の王に実をもらったらしいが」


『おぉそうじゃそうじゃ!勇者だったわい。わし竜王じゃないけどな。勇者はめんこい娘っ子でのう、若い王に食わせて「おねショタ」とかなんとかをやると言って熱く語っておったわ』

「女勇者と若い王のおねショタ……だと?」

『うむうむ、男は若いほどよい、出来れば「しょうがく5ねんせい」までと言っておったかな?よくわからんかったが凄い熱意でのう、今でも覚えておるわ』


 エクセレンツ!その勇者に敬意を払おう!あなたにお会いしたかった、叶うなら俺とおねショタを楽しんでもらいたかった!今はあなたを想い、拍手を送ろう!


「ブラボー!ブラボー!」

『なんじゃ?なんで急にないとるんじゃ?』

「あ、あの!長老様!私はその二人の末裔です!その節はありがとうございました!」

『ん~?おぉ!そうかそうか!言われてみると勇者に似て……るんじゃろうだぶん』

 勇者に似てるのか?でも小学五年生で子供は無理だろ。いや、きっと育ってからちゃんと結婚とかしたんだろうさ。そのはずだ。あまり突っ込まないほうがいい気がするぞ。



「話が逸れたな。その可能性の実を貰い受けたいんだ」

『ふむ、勝手に取っていってええぞ。我らには何の恩恵も無い、美味くもない実じゃ。ただし、木には絶対に触れんことじゃ。実を取るだけなら許される事もある』

「許される?」

『かつて勇者は1つだけ許された。2つを望めば戻ることはなかったじゃろう』

「そうか。ありがとう竜の長老よ」


『はっはっはっ!礼を言うのはまだ早いぞ?木に嫌われればそれまでじゃ。実が手に入らぬからと木に手を出せば、我ら竜の全てが敵になる』

「ふん、ありがとう竜の長老。俺は必ず実を手に入れるから大丈夫だ」

『不遜な者よ、不純な思いは木には届かぬぞ。心して行け』

「名乗っていなかったな。俺はアレキサンダー。純粋で偉大な王になる男だ」

「わ、私はアリシア・エリゼ・アンティカ・フェアリス。アリーとお呼びください!」

『フレアだよ!』

「では行くぞ。また会おう」


『待て!おんし王になるつもりか?』

「そうだ」

『はっはっはっはっはっ!そんな力を持っているのに王になるのか!やはり人間はおもしろいのう!』

「面白いか?」

『あぁ面白い。竜王様もかつては嘆いていたものじゃが…。人間よ、お前の事はたまに窺わせてもらおう。さあもう行け』

「…ではな」

 なんだろう、嫌な感じがあった。強いやつが王になったら何かあるのか?




『木のところまでいこ!』

 フレアに乗って渓谷を進んでいく。国の端から端までを2時間もかからず飛行するフレアだが、さっきから景色が殆ど動いてないぞ。

 毛布に包まったアリーがまたうつらうつらと始めた時。

『これだよアレキサンダー!大きいねぇ!』

「は?」

 言われて見上げる、壁の続きだと意識すらしていなかったそれは、よく見れば確かに木の肌だ。

 見上げる先では所々に枝葉が伸びているのが僅かに確認できる。しかしその先は光りに包まれて何も見えなかった。

 夜なのに明るい渓谷、それを照らすのは底の川だけじゃなく、空を覆う葉も光り輝いていた。恐らくあの光る川もこの木から垂れ流されているんだ。


「宇宙まで伸びてんじゃねぇのこれ」

『宇宙って?』

「空の果てのことだよ。葉のあるところに行って実を探そうぜ」

「ダメダメダメ!木に近づいてお願いするのよ!勇者様はそうしたらしいわ!」

「なんだ起きたのか。お願いって、お願いすんの?」

「そうよ!長老も言ってたでしょ!木に触っちゃいけない、お願いして実を分けてもらうのよ」

「ほーん。じゃあやってみるか」



 もう少し木に近づいてもらったが、壁に寄っている様な感じで距離感もよくわからん。適切な距離感って難しいよ。

「おーい!木よ!実をくれ!実ーをーくーれー!!」

「…」

「…」

『ふあぁ…眠くなってきちゃった』

「駄目じゃねぇか!やっぱ探して捥いでいくぞ」

「まってまってまって!私がやってみるわ!私は実を食べた王の末裔だからね!」

 いやいや無理だろ。木っつーか壁に向かってお願いしてるの滑稽すぎるわ。思いっきりぶん殴ったらカブトムシみたいに落ちてくるんじゃねぇの?


「偉大なる世界樹よ、あなたの根は大地に深く、あなたの葉は空に届く。そしてその恵みは世界を覆っています。私たちの願いを聞き入れ、どうかこの小さな命にあなたの実を恵みたまえ。その実は私たちの国を豊かにし、未来への希望となるでしょう。どうか、あなたの優しさを分けてください」

「なんだその詠唱!?」

「しっ!」

 わさわさ、わさわさわさ。

「ん?」

 見上げると桃のような果実が1つ落ちてきた。


「やったやったやった!世界樹様!ありがとうございます!」

「は~?なんだその世界樹って、てかさっきの詠唱何?」

「勇者様の発言録が残ってるのよ!その、秘密なんだけど、『ものすごく立派な木だから世界樹のはず、褒めまくれば楽勝だったわ!』って」

「へぇ、勇者ってのは随分と俗物なんだな」

「秘密よ!秘密だからね!」

 んじゃ俺もいちょやってみるか!


「世界樹よ!俺はアレキサンダー!偉大な王になる男だ!実をくださいだ!」

「あんた…」

「どうだ!?」

 ………。

『なんにもないねぇ』

「やっぱクソだわ」

「やめなさい!」


「んじゃ帰るか。よくやったぞアリー」

「ふふん!私を連れてきてよかったでしょ!」

「うぜぇ」

『ぼくもやってみていい?』

「あん?無理無理、長ったらしく褒めないと駄目なんだろ」

「フレアならきっと大丈夫よ!純粋なお願いには答えてくれるわ!」

「けっ!」


『世界樹様ー!ぼくの友達が世界樹様の実を欲しがってるの!お願い分けてー!』

「だからそういうのじゃ駄目なんだって、もっとセレブの叔母様を褒めるみたいにだな」

 わさわさ、わしゃしゃしゃしゃしゃ!!

「う、うぉぉぉぉぉ!」

 親方!空から桃が!いやさっきも落ちてきたけど今回は大量だ!

「ば、ばかな…俺と何が違うってんだよ……」

「何から何まで違うわよ!ちゃんと受け止めなさい!自由な風よ!私の元へ届けて!ザル・トラベリアル・ラスク、ケトルウル・トラー!」

 アリーが魔法を発動して桃を掻き集めてくれる。だけど100個くらいあるぞ?ちょっと捨てていくか。味見するにも多いし。

「絶対全部持って帰るわよ!!」

 だそうです。



「とりあえず食ってみるか?」

「調べてからの方がいいわよ。食べた王が幼くなったんだから、あんたが食べたら赤ちゃんになっちゃうんじゃない?」

「………帰るか」


 王の病が治ったと聞いて取りに来たのに、食べた王が幼くなっておねショタやってただけという謎の実。本当にオババに食わせていいのか?

 まぁオババだったら自分で判断するだろう。






「待ってろよオババ!俺はソーマに並ぶ神秘を手に入れたぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る