第26話 6歳 竜の巣

「てめぇらどこの組のもんだ!何が目的だ!さっさと吐けごらぁ!!」

『組!?すいません!俺等竜の谷で平和に暮らしてたんスけど、こいつにかけてた呪いが消えたから見てこいって言われて、それで』

 あぁ、そう言えばそんな事言ってたな。呪いが消えて気づいたのか、呪い返しってやつ?よく知らんが、そんなしょうもない理由で時間を使わせやがったのか。


「今俺はクソ忙しいんだ、だからお前らを殺して終わりにする」

『殺す?死って?え?』

『俺等って死ぬの?』

『いや竜って死なないんじゃ?』

「そうか、じゃあ試そうぜ。この剣は竜を切れるからこれで首を落としても生きてられるか実験だな。おっとっと」

 プスリ。

『ふぎゃあぁぁぁ!』

「あーあー。血が出てるじゃないか、それに随分痛そうだ。これじゃ首を落とす最中に痛みで死ぬんじゃないか?実験にならねぇなぁ」

『すいません!ごめんなさい!何でもするから許してください!!』


「冗談だ、殺すならさっきやってる。実は俺は今、薬を探してるんだ。それもとびっきりの最上級、どんな状態でも生きてさえいれば完全回復するような奴だ。その情報があれば許してやる。情報がなければ足一本で許す」

『あ、足……足………』

『薬ってなに?』

『人間が怪我した時に使うやつだよ!前に街で遊んだ時に見ただろ!』

 駄目か、じゃあ反省の為に足一本切り落とそう。竜ってのは簡単に屈服するような生き物じゃない、放っておけば俺だけじゃなくこの街にも復讐をするだろう。だが今は時間をかけてわからせをする暇は無いんだ。



「秘薬をお探しですか?ならば、竜の棲み処には可能性の実という奇跡の果実があるという伝承がありますよ」

 婆さんが空を飛んでやってきた。魔法ってのは本当に色々出来るもんだ。まぁジャンプした方が早いんだがな。

 アリーも一緒に飛んできてフレアとキャッキャと騒ぎ出す。こいつこんなアクティブでいいの?


「婆さん。そりゃ本当か?それはソーマより上なのか?」

「アレキサンダーさん、街を守ってくれてありがとう。可能性の実は遥か昔の勇者様が竜の王と仲良くなり、1つだけ譲ってもらったそうです。ソーマは巨人族の作るどんな傷も治る秘薬。可能性の実は竜が守る実で、食べると病に苦しんでいた王が全快したそうです。どちらも伝説の存在ですが、竜たちであれば知っているかも」

 また勇者か、勇者ってのは手広くやってるもんだな。しかし1つしか持っていない物を王が食べるって、なんだかなぁ。


『故郷の谷の奥に特別な実が生るっていうすっごい大きな木ならあったよ!でも絶対食べちゃ駄目って言われてた!』

『あぁあったなぁ』

『あれっていいもんなの?』

『しらねぇ』

 うーん、竜の下っ端は凄く馬鹿っぽいぞ。フレアが賢く思えてしまう。


「なんか知らんが可能性があるならいくぞ。どっち道竜の谷ってのには行って聞きたい事があると思ってたんだ」

『うーん、あんまり行きたくないんだけど……』

「すまんなフレア。だが今は俺の為に協力してくれ。頼む」

 わだかまりがあるのは知っている。だが今は少しでも手に入れる可能性を上げたい。何も知らない俺が行っても喧嘩して終わるだけかもしれない、手を貸してもらいたい。

 だから頭を下げた。今は助けが欲しい。

『ア、アレキサンダー!?』

「あらまぁ」



『わかったよ行こう!ごめんねもう平気!』

「ありがとうフレア。おい竜ども、お前ら一緒に行ったらどうせ襲ってくるだろ、先に帰って伝えろ。実を渡せと」

『帰っていいんスか?』

『やった!早く行こう』

『大人がいれば絶対負けない!』

 竜共はバッサバッサと帰っていった。どうせ裏切る奴らと並んで行くなんて馬鹿らしい。かと行ってどうせ向こうで再度ボコるのにここでわからせするのも時間の無駄だし、殺してしまっては後が面倒だろう。


「ところで婆さん、花の聖女って知ってるか?」

「っ!!それは国を混乱させた悪魔の名です。どこでその名を?」

「さあな。でも、あんたよりいい女だったって話だぜ」

「!!!!!!!!」

「ははははは!じゃあな!もうここには戻らんぜ」




「行こうフレア!目標は竜の谷!幻の果実だ!」

『うん!いこう!』

「待って!私も連れて行って!」

 はあ?何を言っとるんだこいつは?


「竜と戦いになる可能性が高いんだが?お前がいて何が出来るんだよ」

「私も行きたい!冒険したい!竜の王に会いたい!お願いお願いお願い!」

「アホか。いくぞフレア」

『うぅぅぅぅ』

「私は勇者の末裔よ!実を食べた王の末裔でもある!勇者と竜の王がお友達だったなら、私の話を聞いてくれるかも!」


「そうかもしれんな、また今度な」

「待って待って待って!もうここには戻らないんでしょ!最後に冒険したい!」

『アレキサンダー、連れて行ってあげようよ』

「何言ってんだ、連れてったら死んじまうぞ。自分の身も守れない足手まといだ」

「だったら守ってよ!」

「なに?」

「あなたは偉大な王になるんでしょ!?だったら私の事を守りなさい!」

「はあ?」

「みんなを守る優しい王になればいいでしょ!それともみんなを怖がらせるしか能が無いの?」


 クッソ煽ってくれるじゃねぇか。俺はお前あれだぞ?守ることについては定評があるぞ?なんと打率5割だ、MVPも取れちゃうぜ。

「アリシア様!いけません!」

「お願いお願いお願い!」

 婆さんが真剣に引き止めているな……、ふむ。

「よしいいぞ、乗れ!」

「やった!」

「やめなさい!大変なことになりますよ!」

「すまんな、軽い仕返しだ。やっぱり俺は人間だぜ。飛べ!」

『いくよー!』


 フレアが大きく羽ばたいて浮き上がる。婆さんが喚いているが今更どうにもできん。

 自分から相談した癖に仕返しも何も無いんだが、まぁ心配するな。俺の命よりは優先してやる。



「ところで竜の谷ってどこにあるの?」

『このまま真っ直ぐで夜には着くよー』

 ほう……。

「どこか大きな街を見つけたら食事と水と毛布と耐火マントと鎧と帽子と火傷ポーションと普通のポーションと耐火ポーションと火除の魔道具を買っていくか」

「急に過保護ね」

「文句があるなら捨てていくぞ」

 装備大事!






 万全では無いが準備も済ませて竜の谷へ飛ぶ。アリーは毛布に包まってすやすやと眠ってしまった。

「フレア、竜達が襲ってきたら俺一人で戦う。すまんが下がってくれ」

『うーん、谷の長老たちはいきなり攻撃とかしないと思うけど』

「だったらよかったんだけどな、早速きたようだぞ」


『GAAAAAAA!!フレア!なぜ戻った!出ていけ!』

『さっきはよくもやってくれたな!』

『竜の強さを教えてやる!下等生物め!』


「10匹くらいか?お前本当は里で問題起こして逃げてきたとか無い?」

『酷いよ!そんなことないよ!里の男の子達が嫌がらせしてきて大変だったんだよ!』

「ん?もしかしてお前って女なの?近くに居たアリーをコピーしただけだと思ってたんだが」

『酷いよ!?』

「お前も言わなかっただろ、じゃあちょっと跳ぶから下がっててくれ。アリーを頼む」

『はーい!』



 フレアの背中から宙に飛び上がった。ちんたら構ってる暇はねぇんだ!

 筋肉がはち切れるまでパンプアップ!魔力が迸るまでバースト!俺の直接攻撃を全て無効にする竜共!それでもこの一撃で落とす!

「腐れ竜ども!お前らの事情など知らん!『狂戦士化』!『魔力暴走』!おぉぉぉぉ!!真・ドラゴンキラー・アルティメット・アレキサンダーパンチ!!」

 体を全体を捻り上げて空中で拳を振り抜く!光の速度に近づき眩く発光する拳!空気そのものが打ち砕かれ!大気が崩壊を始める!!


 ドパガァァァァン!!


 轟く轟音!空気が破裂し飛び散り真空となる空!生きるもの全てを否定する赤い空が現れる!!

『GAAAAAAA!』

 竜たちに出来ることは体内の空気を吐き出してかろうじて大気をふるわせることのみ!


 勝負あり!

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