第25話 6歳 目覚め
「見てくれよこの魔力がミチミチに満ちたNEW俺ボディをよぉ!」
深夜なので誰も見ていない。だが構わん、最近の俺は魔力式筋肉増強トレーニングにドハマリしているのだ!
正直言って魔法は訳わからん、難しすぎる。ゲームだと大体勝手に覚えるやん?この世界でも「魔術師」とか「召喚師」「各種属性魔道士」「賢者」などの魔法ジョブはレベルアップで強力な魔法が使えるわけだが、それとは別に自分で学んで魔法を使いこなす事も出来る。
「星の運行を知るように、海で距離を測るように。世界を識り、魔力を導き、魔法という奇跡を起こすのです」
婆さん曰くそういう事らしい。その結果あの長ったらしい呪文が出来たり、難易度が高い代わりに短い呪文が出来たりする。
最初から魔法職という連中を除き、この世界では大変な勉強の先にやっと魔法を使えるって事だ。あのアリーでさえ破格の才女扱い。俺は魔法を使いこなす事を諦めた。
そんな俺に齎された福音が魔力操作だ。
魔法は難しいが魔力自体はたっぷりある。それを体に纏う事により俺の体は進化したのだ!
婆さん曰く、ある程度の下地は既に出来ていたという。それを更に進めるため、魔力を励起させながら筋トレをする日々を過ごしているわけだ。
「我が身に重みを添えよ、ルカナトリュー・ザリフラモ・ドゥルカーヴァン、シルナクタ・モルダクス・フラトゥス、テンゴルミス・ナクシエル・ドゥルカーヴァン、
ハルスレイア・ラトンダリ・ワグナスル・アスモダ・オルクタ」
扱える様になった魔法の1つ。馬鹿みたいに長い呪文だが、自分の体重を重くするだけの魔法である。これでも何日もかけて呪文を覚え、詠唱を練習して、魔力操作を繰り返した成果なんだぜ。
この状態でトレーニングをすると魔力を使いながら肉体への負荷も増やせて一石二鳥なのだ。
進化を続け密度を高める俺の肉体は素の状態でも4000kg近くあり、本来とっくに建物が支えられる重さではない。以前から歩法には気をつけていたが、どうやら無意識の魔力操作により足元への影響を散らしていたらしい。必要は発明の母って事なのかな。ちょっと違うか。
体力と魔力は対にして一体、俺の体には意識せず魔力が練り込まれていた。それを更に高める修行を半年間やっていたわけ。
その結果、俺の力はもう人に向けて奮う物では無くなってしまった。誰も俺を傷つけることは出来ないし、誰も俺の攻撃を受け止めることは出来ない。
半年前、校舎を破壊した事もやり過ぎだと後悔している。あんな事を続けていれば俺はただの化け物になってしまうだろう、おとぎ話で勇者に討伐される魔王みたいなもんだ。
勇者というのがどれだけの存在なのか知らんがな。
この国で欲しい物はフレアの変身魔法だけ。それが成れば出ていこう。俺は人と暮らすべきじゃない。王になってどうするってんだ、国民全員より王一人が強いだろう。
俺は暴力で全てを手に入れられる。だからって俺を恐れて言いなりになる国民を集めて、それが何になるんだ………。
『アレキサンダー!見てみて!シラナ・クルフィア!』
変身しとる。学園編終了!!
フレアは人間の姿になった。見た目はアリーのコピーだけどな。
変身魔法はなりたい姿をイメージして、魔力でその体を作り出す必要がある。1から人体を作り出すよりもコピーする方がずっと楽なのだ。誰かをコピーして、そこから少しずつ弄るのがいい。
「なんだ、急に成功したな」
「なんかねー、邪魔してるのがあったから思いっきり魔力を強くしたら無くなって出来るようになった!」
ほわい?
「たぶんフレアちゃんには呪いがかけられてたのよ、だから高い魔力を持つ竜なのに変身魔法が出来なかったの」
「へー、竜もせこい嫌がらせなんてするんだな」
「ほんとだよ!僕すごい大変だった!でもアリーちゃんのお陰で使えるようになったよ!」
「ふふん!私達お友達でしょ!当然よ!」
「アリーちゃん!」
同じ見た目の女児がキャッキャと喜びの舞を踊りだした。帰るって言い難いじゃねぇか。
「俺は学園長と相談があるから行くわ。また後でな」
今水を差すこともないだろう。学園長にちょいと相談。学園長はこの国に来た初日に出会った婆さんだ。
「入るぜ」
「はぁ、ノックは何度も教えたはずですが」
「すまんな。そろそろここを離れようと思う」
「そうですか。あなたならその気になれば魔導の道でも大家になれるでしょうに」
「それはいいんだ。それより聞きたいことがある。俺は人として生きられると思うが?」
ちょいと情けない質問だ。だが年の功ってのもあるだろう、悩める若人を導いてもらおう。
「無理です。あなたは既に人の領域にいない。人は生きている限り誰かに迷惑をかけ、誰かを不幸にします。あなたはそれを堪えきれない、あなたはいずれ雨の日に泥が飛ぶだけで人を殺すようになるでしょう」
「俺が狂ってるって言いたいのか?」
「いいえ、あなたは人の枠を超えているのです。あなたを知る人は全てあなたを恐れ、敬い、警戒し、恨みを抱くでしょう。あなたは人の中に居ても不幸になるだけです」
「……そうか。おすすめの生き方を言ってみてくれ」
「竜、巨人、精霊、それらの中で生きるのがいいと思います。あなたはそれらとは違いますが、人間よりは近いかと」
「なぜ俺に魔力の扱いを教えた」
「最初は勇者ではないかと疑ったからです。過去には奔放な勇者や粗暴な勇者もいましたから。そうでなくとも勇者に連なるものとして魔王に対抗する力になると思いました。ですがあなたは強すぎた。そして勇者は他にいると分かりました」
「そうか、これまで助かった。俺に出来ることがあったら力になろう」
「大変心強いです」
「最後に。俺はアレキサンダー、偉大な王になる男だ」
「私はアマンダ・クリスタニア。アンティカ魔導学園の学長です」
「じゃあな」
辛気臭い話をしてしまった。
人とは生きれないか。この国で対等に話が出来たのは婆さんだけだったが、婆さんも強く警戒はしていたしな。
そうだ、竜の谷ってトコに連れてってもらおう。そんでフレアに呪いをかけた連中を見つけて、ぶっ殺して、……終わっちまうじゃねぇか!
……………帰るか。俺には帰るところがある。
「フレア!この国でやる事は終わった。もう行こう。一度俺の家に帰る」
「えぇぇ!?でも、でも」
「二人共行っちゃうの?」
うーむ、言葉遣いで分かるが見た目には双子姉妹みたいで分かんないな。間違って誘拐される事件とかありそう。ばうばうー。
「いや、俺だけで帰るわ。何日かフレアを頼む」
「わかったわ!任せておきなさい!」
「うん!まってる!」
随分と人に慣れたもんだ。あんな山に一人でいるより、このままここに居る方がいいんじゃないか?
まぁ帰るとするか、周囲への影響を抑えたら1時間くらいの距離だ。
「我が身に重みを添えよ、ルカナトリュー・ザリフラモ・ドゥルカーヴァン、シルナクタ・モルダクス・フラトゥス、テンゴルミス・ナクシエル・ドゥルカーヴァン、
ハルスレイア・ラトンダリ・ワグナスル・アスモダ・オルクタ」
せっかくだしトレーニングも兼ねるぜ!
辺境の村。
ぶはーーっ!!自重40000kgでの600kmマラソン効くぅ!俺の全身が高レベルの負荷に喜びの歌を捧げているぜ!
さてまずは母者と弟の顔を見ておくか。
「母者!ただいま戻りました!」
「アレキサンダー!よく戻ったわ、よく間に合ってくれた」
「なにか?」
「おばば様が倒れたのよ」
「………まじっすか?」
「オババ!」
「うるせぇ餓鬼!静かに来いって何度言えばわかるんだ!」
「静かに来い!?オババはいつも来るなって言ってただろ!?やはり頭が悪いのか!それとも顔か!?」
「死にてぇのかこのガキャアァァ!!うぅゲェホッ!ゲホッゲホッ!」
「お、おばば…」
信じられねぇ。あのオババが、無敵のオババが。この世界でただ一人、一切の気遣いをせずとも俺を恐れず文句を言ってくるオババが。
「なんて顔してんだ、この婆と別れるのがつらいのかい?まだまだ餓鬼だねぇ!ケッケッケッ!」
「おばば・・・」
「フン!なんかあったみたいだね。言ってみな、このおばばに言ったところで今更恥にもならんだろ」
「……俺は人の中では生きられないと言われた。俺は強くなりすぎた、力で何でも解決出来てしまう」
「あーん?なんだそりゃ?あんたそんなの言われて殴りもせずに帰ってきたのかい」
「相手はババアだったからな、隣のアンティカって国の魔導学園の学園長なんだぜ。そんな奴が冷静に考えて駄目ってんだから、駄目なんだろ」
「あーん?魔導学園のババアって、まさかアマンダかい?」
「ん?なんで知ってんだ?」
「へっ!あの性悪、何十年学園長やってんだ!あんなババアの言うことなんぞ気にすんな!あいつは昔から品性が捻じ曲がってんだ!あたしに男を取られたって難癖つけてきやがって!」
「ちょ、いきなり気色悪い話するなよ、吐いちまうだろ」
「うるせぇクソガキ!大体アンタもだ!強くなりすぎただぁ?力で解決だぁ?ヘッ!死にかけの婆ぁ一人どうにも出来ずにしょぼくれてる分際でよくも言ったもんだ!」
「おばば……」
「アンタは力が強いだけの馬鹿だ、その癖に勢いまで無くしちまうとは手の付けられねぇ馬鹿だ。今お前に何が出来る?何も出来ねぇだろ、それがアンタだ。アンタはまだまだ足りてない、もっと自分を磨きな、呆けてる暇なんてないよ」
「お、おれは」
「さっさと行きな。もうここには…げぇほっ!げほっ!」
「また来る」
はぁ、やっぱり俺は馬鹿だ。
オババは世界を巡ってみろと言ってたじゃないか。それなのに俺は自分が強くなるために修行ばかりして、強くなりすぎたって落ち込んで、まるっきり馬鹿じゃねぇかよ。
冒険に出よう。今すぐにだ。フレアを連れて竜の谷へ行くか、それとも巨人を探すか。ソーマを超える秘薬を見つけて持ち帰る。それまで悩んでいる暇なんてないぜ。
フレアのいる街へと飛んだ。自分に何が出来るのか分からない、だがもう迷うことは無い。
1時間後、魔導王国アンティカ首都近郊。
『GAOOOOOO!!』
『GAAAAAAA!!』
「フレア!?なんで竜同士がこんなトコで戦ってんだ!」
『アレキサンダー!こいつら僕をいじめてた奴なんだ!』
フレアと対峙するのは一回り大きい三匹の竜、街への被害などお構いなしにブレスを吐き散らかし暴れまわっている。
「忙しい時に出てきやがって!何人たりとも俺の邪魔はさせねぇ!死に晒せ!!アレキサンダー式・対空朧無双!」
自重を重くする魔法がかかったまま竜の背中に飛びつき、首から落とす危険な投げ!
ドガガガァァァァンン!!
合計体重100トンを超える落下!しかし終わらない!これではただ落ちただけだ!
「追撃のぉ!ローリング・アレキサンダー・スープレックス!!」
ガゴォ!ガゴォ!ガゴォ!
相手が死ぬまで止まらない連続スープレックス!その一撃一撃が大地を爆砕する!大気を震わす衝撃!天高く舞上がる粉塵!誇り高き竜を打ち砕く地獄の鐘が鳴り響く!!
『すいまっ!すいませ!やめっ!ゲボォっ!』
「ふんっ!次だ!!」
『GA,GAAAAAAAAA!!!』
全ての竜が地に沈むまで3分とかからなかった。
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