第12話 4歳 かつて血の匂いは嫌いだった

「我らは攫われた仲間を救いに来た赤鬼族の戦士!商人ギルドが攫った我が妹にして赤鬼族の姫巫女!ルーリアを差し出せ!!さもなくば我らの武威を示すのみ!!」


 ルバンカ高らかに宣言した。周りには普段から扱いの難しい冒険者共がいるんだ、ここまで堂々とされたら相手も無碍に出来ないだろう。

「鬼族の姫を攫っただと?そんな話は聞いていない、お前たちは魔王の手先じゃないのか?我々はこの街の警備隊だ、少し事情を聞かせて…」

「姫様危ない!バッファロー・ハンマー!!」

 先頭に立つ隊長っぽいやつ目掛けて助走をつけて飛び上がり、ラリアットをぶち当てて兵士共の方に吹き飛ばした。

 グダグダ喋りだす前にやっちまうに限る!兵共も巻き込まれて大混乱、ついでに冒険者たちも理由がわからず大混乱!チャンスだ!


「姫!こいつらは我らを魔王の手先と決めつけて殺すつもりです!先ほど商業ギルドのギルド長と領主が密談している所に潜入して証拠は掴んであります!」

「何!なんと卑劣な普人ども!みなごろしに…」

「ひめぇ!!姫巫女を救出して郷に帰還しましょう!!全ての普人が悪人なのではありません!」

 なんちゅう事を言うんだ馬鹿が!お前達が飲んだくれていたせいで打ち合わせしてないんだよ頑張って合わせろ!



「姫巫女は領主の館に捕らえられています!既に戦闘状態なので蹴散らしていきましょう!」

「分かった!みな続け!」

「「おう!」」

 よし!しっかり宣言したうえで有耶無耶で戦闘状態に突入した!敵は鬼族の姫を攫った上にこちらを魔王の手先だと嘘をついて無体を働く悪党なのだ!間違いない!

 事前に殺しはするなと言ってある、大仰な槍を持っているのも威圧のためだろう。こいつらも一応相当なやり手、一般の領兵ごとき叩きのめしてくれるはず。


「セイ!ハァ!痛い目にあいたくなかったら我の前に立つな!」

「くそっ!あの鬼共を止めろ!殺して構わん!」

 よ~しよし!おしょしょしょしょ!いいぞぉ!

「姫様を殺すだと!?貴様からしね!『鬼火蜂』!」

 主人の敵を打つべくスキルアーツを発動するスバルカ!体ごと一本の矢に変化したが如く!凄まじい勢いの一刺しが隊長を襲う!

「ヒィッ!」

「サイコクラッシャー!!」

 きりもみ回転しながら敵陣に特攻して隊長ごと吹き飛ばす!ついでに殺意の波動に目覚めた馬鹿も回収だ!殺すなっつってんだよ馬鹿がよ!


「姫っ!この馬鹿は私が運びます!まっすぐ領主館に向かってください!」

「うむっ!領主館ってどこ?」

 クソっ!もう真面目な時間は終わりか!何もかもコイツラが悪い!俺は悪くねぇ!




「そこまでだ!」

 新手だ!恐らく領軍の部隊、ざっと見ても200はいる。来た!メイン軍来た!これで勝つる!

「私は一帯の領主、アーサリオン・グレイブウィンだ。貴様らが魔王軍の斥候である事は分かっておる。諦めて降伏せよ、魔王軍について情報を話すなら生きる道もあるぞ」

「お前たちが魔王軍側の鬼族である事は調べがついているのだ!」


 領主を名乗る男の横にはギルド長もいる。

 すげぇ、あんな馬鹿の言うことを鵜呑みにする領主とかアリ?さすが異世界だぜ。


「魔王など知らぬ!我が妹を解き放て!我らが望みはそれのみ!」


 今度は街中での宣言だ、多くの野次馬がルバンカの声を聞いた。鬼族は仲間を助けに来ただけだとアピールするのだ!


「ふん、やはり知恵の回らん魔物の仲間か。殺せ」

「え?も、もったいない…」

 一列に並んだ兵士が領主の号令で弓に矢を番える。なるほど蹴散らされた警備兵ごと射殺そうと言うわけか。これはちょっとムカつかせてくれるなぁ。

「卑怯な悪党どもめ!」

「やれ」

 一斉に矢が放たれる。双方の距離は僅か、解き放たれた矢が到達するまで1秒も無い。だがそんなものやらせるか。


「フゥゥゥン!!ジェットストリーム・マッハパンチ!!」

 ドゴォォォ!!!

 引き絞った拳に極限の捻転を加えて打ち出す!音速の壁を破壊する衝撃波をも前方に弾き飛ばし!拳の先にジェットストリームが発生した!中心風速200メートル!飛来する矢を吹き飛ばし、兵士を巻き上げ、精兵に守られた領主に激突する!

「うぎゃぁぁぁぁぁ!」

「悪は死すべし、慈悲はない」

 殺してないけど。たぶん。



「ひっ!ひいいい!」

「姫!こいつが巫女姫を攫った商業ギルドのギルド長です!!こいつが我らを魔王軍の手先であると煽ったのです!!こいつが黒幕です!!」

 皆さんにアピールするために大声で報告する。領主はこいつに騙されたのだ、悪いのは全てこいつ。

「あ、お、おまえは」

「頭が高い!」

 頭を掴んで突っ伏させる。余計なことを喋るんじゃあねぇよ。

(姫はどこだ、姫を渡せばこのまま逃がしてやる)

(うぐぐぐ、あ、あそこに)

 そこには馬車。連れ歩いていたか、こちらは助かるが変態の考えることは分からん。

(じっとしていろ、余計な事を言えば消す)


 カサカサと音を立てて近づいて反対側から押し入った。

「やあお姫様、お祈りは済んだかい?」

「え?ひゃ、ひゃぎゃああああ!」

「品の無い悲鳴だ。お前の姉はもっといい声で哭いていたぞ」

「そ、そんな……おねえちゃんが……」

「お前は楽しめそうにないなぁ。ん?そういえば後二日生きていいと言っていたな」

「そ、そうです!ころさないで……おねがい………」

「あれは嘘だ」

「ひぎいいいいいい!」

 ちっこい姫が恐怖に駆られて逃げ出した。怯え、震え、恐怖に支配された幼女。そしてその先にいるのが。


「ルーリア!!」

「お、おねえちゃん!おねえちゃああんん!!!」

 ひしと抱き合う二人、うんうんいい絵だねぇ。悪に囚われた姫は恐怖の時を過ごし、今正義の戦いにより開放されたのだ。ハッピーエンド!

 取り巻いていた野次馬たちから自然と拍手が起こる。他種族であっても美しい姫姉妹、その二人を引き裂こうと魔王まで持ち出してきた領主たち。この状況で鬼族に悪感情は無いよなぁ!

 

「側鬼、この金を迷惑料としてばらまけ。姫からの施しとしてな」

「側鬼!?は、はい。わかりました」

 これでアフターケアも万全だ。金はギルド長の所からパクったやつだから惜しくも無い。あいつが盗まれたと騒いでも誰も信じないだろ。

 さて、とっとと帰ろう。丸一日家を空けてしまった。母者が産気づいていたら大変だ。




 バン!パン!

 前世の何処かで聞いた音がする。見るとギルド長が立ち上がって何かを構えている。

 あれは……、なぜあんなものが……?


「ふふふふ、これだ!再会を喜ぶ少女が一転して絶望に染まる顔!これが見たかった!」

「ルーリエ?ルーリエ!」

「あはははははははは!幸せから転落する気分はどうだ!!姉も殺してやろう!これは勇者が生み出した武器!これを持つ私こそが英雄に相応しいのだ!」

 馬鹿が嬉しそうに笑っている。あれは銃だ、それも効率化された小さな拳銃。勇者?勇者が生み出した?転生者か。あんな物をばら撒く馬鹿が居たとは。

「あびゅ」

 不快なので捻って殺した。


「ルバンカ、見せろ」

「アレキサンダー!ルーリエのはら…はらが」

 見ると一部を吹き飛ばしながら貫通している。もう既に虫の息だ。




「守ると決めている。俺を信じろ」




「『狂戦士化』」

 ちっこい姫を抱きしめ、俺がもっとも信じている治癒師の元へ全力で飛んだ。

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