第11話 4歳 戦士からポンコツからの戦士

 昨夜は商業ギルド長と話しをつけた後、街を囲う壁を飛び越えて領都周辺の魔物を狩りに行った。

 狩りはほぼ毎晩の事だ、どうという事もない。遠くに見える山に登ったらデカいトカゲが居たので狩ってきた。

 木を二本折って下敷きにしてトカゲを乗せる。全長5mほどあるので尻尾をたたんで体の上に雑魚魔物を乗せて運ぶ。アイテムボックスとかないのかな?勇者様が持ってたりするんだろうか。早くジョブを変更したいぜ。

 厳しい門番に魔物を売りに来たと伝えたら若干狼狽えていて笑った。これはギルドの買取で「俺なんかやっちゃいました?」が言える可能性が出てきた。異世界転生したからには言ってみたいセリフだ。面倒だったが大物を取ってきてよかった、街の冒険者ギルドが楽しみだな。

 とりあえず宿に寄ってあいつらを確認するか。



 宿の人間にこづかいを渡して見張りを頼み部屋に戻る。階段まで漂う強烈な酒の匂いが嫌な未来を予感させた。

 ドガッ!

 声もかけずにドアを蹴破ったそこにはあられもない姿の鬼女達が!

「起きろボケが!本当に出かけた時より臭くなってるじゃねぇか!!」

「う、うぅん……、むりぃ」

 ボディブローをぶち込んで吐かせてやろうかと思ったが堪えた。吐くなら外でだ。

 もう放っていきたい。ギルド長に口からでまかせを吹き込んでなければ絶対放置したのに、これが因果応報というやつか。ショッギョ・ムッジョ。


 パロスペシャルでも決めてやりたいが確実に吐く、放っておいたらここが見つかって無防備にやられる、外で見張りをさせているが目につくので時間をかけたくない。詰んだのでは?

「なぜ、ど、どうしてこんなことに」

 酷い、鬼族酷い。これが一晩中頑張ってきた俺に対する仕打ちか?金をやった俺が悪いのか?

 とりあえず素っ裸の鬼女達を一人ずつシーツで包み、大量の荷物も同様に包む。それらを結びつけて引きずることにした。

 宿のカウンターに居たやつが目をひん剥いていたが、シーツ代と掃除代を含めて金貨を握らせて黙らせる。


 洗い場が欲しい、そうしたら全員の腹に拳をぶち込んで全部吐かせるのに。こんな大きな街ではそこらの川で洗い物って具合には行かない。こんな汚い物を洗える場所といえば。

「そうだ!買い取った魔物を洗うはずだ!」

 ずりずりと荷物を引きずり、絡んできたチンピラに案内されてギルドへ向かった。




 カランコロン。

 あぁいい音だ。冒険者ギルドはこうでなくっちゃな。

 この血と酒と汗の混ざる匂いが今の俺にはよく馴染む。荷物が臭えから。

(で、デビルチルドレン!ここまで来ていたのか!)

(知っているのかライディン!)

 なんか見たような顔がいるな。騒いだらブチのめそう。


「魔物の買取をたのむ。大きいので表で見張らせている」

「なんだ坊主。ここは冒険者ギルドだ、ままごとなら他所でやりな」

「魔のショーグン・クロー!」

「ぐぎゃあぁぁぁぁ!」

「買い取りっつってんだろぶっころすぞクソガキャア!!」

 今余裕ねぇんだよ!握りつぶされてぇか!!!

「わかった!わかっ!わかりました!すいませんでしたぁ!」

 やはり暴力、暴力は全てを解決する!

「魔物を解体したり洗う場所があるだろう、そこまで運ぶから案内しろ」



 洗い場まで来てようやく人心地付いた。だが悠長にしている暇はない、予定ではこれから領軍に追われるのだ。

「大変お恥ずかしい所を…」

 ルバンカは深く深く反省している様に見える。だが当然だ、深酒の翌日はみんな反省するものだ。そしてまた繰り返す。下痢で便所に籠もる時と飲み過ぎで苦しんでいる時はみんなその時だけ反省して、祈りを捧げるいい子になるものだ。

「もういい、それで戦えるのか」

「はい、我らは普人とは違いすぐに酒が抜けます。その代わり酒が回るのも早いのですが」

 見栄を張って酒を飲んであの醜態か。昨日の内に襲われていたらどうしたんだよ。身を守るように厳命すべきだったか。

「顔まで知ってるのは少ないだろうが懸賞金が懸かっている事を忘れるな。さっさと着替えろ」

 部屋を借りて着替えさせた。一応良さげな服も買い込んでいたようだ。結局素っ裸だったが。

 着飾ったルバンカは見栄えだけは中々だった。以上終わり。



 魔物の買取窓口に戻る。既に獲物は引き渡し済みだ。デカいトカゲをカウンターに載せて「うわぁ!ド、ドラゴンだとぉ!SSS級冒険者昇格だ!」とかやりたかったのに台無しだ。

 カウンターはさっきとは別のオッサンだった。強く握りすぎたかな?

「アレキサンダーだったな。あのゴルドリザードは本当にお前が狩ったのか?」

「名前は知らんが全部俺が狩った。それよりギルドでは転職が出来ると聞いた、ここで出来るのか知りたい」

「ん?どこで聞いたんだ?余り知られていないんだがな。転職にはレベル100を超える必要がある。諦めろ」

「100?そんなもんとっくに超えている。どうすればいいか教えてくれ」


 ―――――――――

 アレキサンダー

 4歳

 ジョブ 狂戦士

 レベル 386


 体力 14,957

 魔力 386


 スキル

 狂化θ

 体力+5%

 体力+20%

 体力+50%

 体力+100%

 体力+200%

 体力+300%

 鍛錬ω

 天壌無窮


 スキルアーツ

 狂戦士化

 ――――――――――


「な、な、なんじゃあこりゃぁ!!」

「凄い!流石アレクだ!」

「どうしたんだ?なにかおかしいか?」

「何かってお前!このレベルはおかしいだろ!?」

「おかしいですよアレキサンダー様!」

「おかしい?俺のレベルがおかしいって、低すぎって意味だよな?」

「「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」」

 んぎもぢぃぃぃ!!!

 ここまでの悪い流れでこれが出来るとは!今日は意外といい日だったな!今なら全てを許せるぜ!!

 ルバンカ達はリアクション芸人だったんだ。戦士だと勘違いしてた俺が悪いよ。これからは大事にしてやろう。

 ちなみに一般人のレベルは20も行かない。戦闘職でも50は稀。全部知ってます。


「しかしもったいない、狂戦士じゃなく戦士だったら良かったのにな。これなら転職したくもなるわな」

「は?狂戦士は駄目なのか?」

「知らんのか?この狂化ってのがあるだろ、これでお前狂ってんだよ。スキルアーツの狂戦士化は一時的なやつだけどこっちは永続だ。これだけ育ってたらもう駄目だな」

「魔のショーグン・クロー!」

「あだだだだだだだだ!!!」


 なんという事だ。少しだけ暴力的に育ってしまった自覚はあったが勝手に決められたジョブのせいだったなんて。俺は何も悪くなかった。よかった。


「それで、ここでジョブ変更出来るのか?」

「くそっ!出来ねぇよ!出来るのは王都のギルド施設だけだ。だが誰でも出来るわけじゃねぇぞ、信用も金も必要だ。お前のようなガキでは無理だな。いや狂化を抑えるためにありか?」

「大丈夫だ、俺と握手したらみんな言うことを聞くようになるんだ」

「………。とりあえず買取の代金を…」

「待てぇい!」

 ギルド内に兵士がわらわら入ってくる。まだ昼にもなってないのに随分早いな、もう少しゆっくり出来ると思っていた。



「貴様らが魔王の手先だという事はわかっている!大人しく降伏しろ!」

 ふむ、上手くやったようだ。

「姫、我らの義を掲げましょう」

 こくりと頷くルバンカ。俺はお前の芸人魂を信じているぜ。



「我らは攫われた仲間を救いに来た赤鬼族の戦士!商人ギルドが攫った我が妹にして赤鬼族の姫巫女!ルーリアを差し出せ!!さもなくば我らの武威を示すのみ!!」



 二人の戦士を控えさせ、紅い肌に蒼のドレスアーマーを纏う鬼姫。巨大な十文字槍を手に、堂々と布告が行われた。

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