Folge.12:会談―会食①―

あの後私は王城に戻った。そして今は部屋で会食への支度をしているところだ。


「一級鉄十字章は・・・・・・あった。」


称号を誇り高きドイツ第三帝国の軍服につけることを忘れない。勿論鉤十字ハーケンクロイツも腕につける。こういうところで権威を象徴しなければどこでするというのか。


立てかけてある鏡を見て身だしなみを整えていく。これを疎かにすると自らの国を蔑ろにしている事になりうる。それは絶対にあってはならないことだ。我が帝国こそヨーロッパの覇者であり、指導者フューラーにふさわしいのだ。間違っても英国ブリタニアンがヨーロッパを指導するなどあってはならない。まぁもうヨーロッパも英国も存在しないのだが・・・・・・。


鏡に写っていたのはどこの国の人が見ても第三帝国の上の地位にいる者だと言うことがわかるような見た目に仕上がっていた。腕につけた鉤十字ハーケンクロイツの存在感は大きい。やはり黒に赤は目立つものだ。


「さて、後はメイドを待つだけか。」


会食会場にはメイドに案内されるらしい。メイドとはヴィクトリア朝の英国ブリタニアンというイメージしか無い。我が友好なる同盟国である大日本帝国ヤーパニシェーズカイザーライヒですらメイドではなく侍女だ。ん?もしかしてあまり変わらないのか?


少し考えてみたが結果は出なかった。外交官としての恥かもしれない。


―コンコンコン


「誰だ?」


「メイドのマリア・フォン・クヴェストと申します。クライツ宰相からヴィルヘルム第三帝国外務大臣を案内するよう仰せ扱っております。」


「分かった。頼んだよ。」


私はドアを開けた。


◆◇


会食会場はとても綺羅びやかで活気に溢れていた。


会場ではクラシックな音楽が流れ、奥にある壇の上には我が第三帝国の国旗である鉤十字ハーケンクロイツと神聖ヴァルトグロース帝国の国旗が並んでいた。


会場は既に開宴されていたらしく、貴族らしい人達が談笑している。


「貴方がドイツ第三帝国の外務大臣であるヴィルヘルム殿ですかな?」


そう話しかけてきたのは少し太った身なりの良い男だ。手に赤いワインを持っている。


「ええいかにも。そういう貴方は?」


「ああ、失礼申し遅れました。私は神聖ヴァルトグロース帝国第二主席公爵の地位を皇帝陛下より受け賜っている四英雄の叡智のクローヴィスの末裔家である当主、ヴァイス・フォン・クローヴィスと言います。肩書が長々としていますが総称であるクローヴィス公爵とお呼びください。」


正直言って肩書の殆どを覚えていない。とりあえず第二主席公爵とかいう家の当主だということは分かった。


「分かりました、クローヴィス公爵殿。して気になったのですが第二主席公爵とは?」


「第二主席公爵とは、ですか。我が帝国では主に皇位継承順位と公爵家の中でもどの地位にいるのかを表したものですね。大体は皇位継承順位を表します。これは皇帝陛下が変わるたびに変化し、それはその代の皇帝陛下が任命します。今代では俗に言う2位だった。というわけです。」


「成る程、その様な制度があるとは。我が帝国には無いのでね。」


「では皇位継承はどうするんです?争いが起きましょうぞ?」


「そもそも”皇帝カイザー”という地位がありません。言ってしまえば貴族もいません。いるのは国の指導者である総統フューラーとその政治内閣の内政外政の各々の機関のリーダーのみです。私はその機関の一つである外務省という外交を司る機関のリーダーを国を代表してしているというわけです。」


クローヴィス公爵は納得したような顔をしていた。


「同じ帝国であるのに中身が全く違うとはこれも文化の違いなのでしょうかね?まぁもう帝国が他国に自国の領土を作る英雄時代だと言うのに未だに過去の体制を保守する愚かな国があるので不思議では無いですが。」


クローヴィス公爵はそう言い、グビッとワインを一口飲んだ。


英雄時代とは話しぶりからするに帝国主義のことだろう。ということはチャーチルの様な帝国主義者のことは英雄主義者というのだろうか?チャーチルにはお似合いだな。


そういう冗談はさておき、私は気になった事が今の話にあった。


「過去の体制を保守する国とは?」


私が問いかけるとクローヴィス公爵はワインを回しながら言った。


「貴国はどうか知りませんが・・・・・・例えば隣国のアルタイル王国などのことです。機械的現代兵器も作らず、ギルドも冒険者ギルドのような古臭い制度を重宝し、全てを魔法に頼り、未だにつるぎや馬、歩兵、翼竜などという明らかに時代遅れなもので戦争する愚かな国のことですよ。文化も貴族間の政争も全て何もかも遅れています。」


・・・・・・中世期か?いや、少し語弊があるな。中世”風”と言うべきか。


「では私はこれで、スヴェトリャーナ侯爵殿に呼ばれていましてね。彼は他国の貴族なのでいくら格下の家といえども蔑ろにするわけにはいかないので。」


「ええ、ではまた後ほど。」


「ええ、また会いましょう。」


クローヴィス公爵はそういい、人混みに消えていった。


「マリア、外務大臣に会いたいのだが・・・・・・案内してくれるかい?」


「勿論です。こちらへ。」


マリアはそう言って、私の前を歩き始めた。




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