Folge.8:外交

―コンコン。


儂しかいない総統官邸の閑散とした執務室にノックオンが響く。


「誰だ?」


「ハイル・ヒトラー!外務大臣及び名誉親衛隊大将のヴィルヘルム・フォン・ライングラーフです。神聖ヴァルトグロース帝国との会談に関しての報告がございます。」


「入れ。」


「失礼します。」


ヴィルヘルムはピシッと軍服を着ており、腕にはこれでもかと言わんばかりの存在感を示したハーケンクロイツがあった。


「ヴィルヘルムよ、君の評価は常々聞いているよ。流石は我が帝国が誇る外交官だ。」


「恐悦至極にございます。総統フューラー。」


「それで早速なんだが、まず聞きたいことがある。」


「何でしょう。答えられる事ならば答えます。」


「ヴィルヘルム外務大臣、君はドイツ語の派生語・・・・・失礼、ヴァルトグロース訛りのドイツ語を話せるのか?話せないと少々この会談はキツイと思うが。英語やフランス語、スペイン語じゃあ無いんだからな。」


「どんな難しい質問が投げかけられると思ったらそんなことですか。問題ありませんよ総統フューラー。私はこう見ても言語には達者なのでね。既に習得しておりますよ。派生語なのでとっても簡単でした。」


ヴィルヘルムは言葉に詰まることなく言う。


「ならば良いんだ。して報告とは?」


「はい。まず、モールス信号での接触を図りましたがそもそもあちらにモールス信号を受信する機器が無いのか無反応でした。次に遠距離無線での接触を図りましたところ反応があり、無事に日程を結びつけることができました。どうやらあちらの皇帝カイザーも望んでいたらしいので。」


「未だに王政を取っているのか?少し古臭いな。」


「ええ、既に程度がしれていると思われます。」


「所詮は権力に溺れた者が治める国ってところか。せっかくの技術がもったいないな。」


歪んでいる戦闘機とは言えそれを作るほどの技術がある。それを王政で制限するというのは些か傲慢がすぎやしないだろうか。


「それで?日程は。」


「はい、明後日の午前10時からということです。会談の初日の会談には私。二日目からクラウス親衛隊全国指導者ライヒスフューラーSSとシュテュルムシャッテンからの”お土産”が参加いたします。」


「取り決める条約は・・・・・・分かっているな?」


「勿論です総統フューラー。相手に不利を、こちらに利をという言葉を忘れないよう心がけます。私に任せておいてください、戦争前夜の御膳建てをさせていただきます。」


「流石だ。それでこそ外務大臣のあるべき姿と言えるな。」


「ありがとうございます。それでは私はこれで。」


ヴィルヘルムは右手を上げ敬礼し、執務室を出た。


儂は目をティッシュに移し、ある資料を見た。


それにはこう、書かれていた。


✣―✣

ドイツ第三帝国異世界転移に関する調査報告書(確定)㊙

✣―✣


これを見ると、まず初めに例の列車砲がこの不可解な転移を行ったのは確定とのこと。次に、国民は全員無事であり、一切の精神被害や外傷がある人は一人も出ていない。


こんな事よりも頭を抱える問題が次に書かれていた。


✣―✣

フランス地域よりレジスタンス及び共産主義者がこの異界の地の他国に亡命し、亡命政府を立ち上げた。亡命政府の場所はレイノ・デル・オセアノ海領王国。政府名を新自由フランス政権と名乗っている。これにより我が外務省はオセアノ王国政府に逮捕の要請を出しているがオセアノ王国政府はこれを拒否し続けてる模様。

✣―✣


要は英国ブリタニアンにあるレジスタンスの本拠地を失ったヴィシー残留不穏分子がレイノ・デル・オセアノ海領王国という王国に新たに本拠地を建国した。我が国は逮捕し、こちらに引き渡せと言っているがオセアノは拒否しているというなんとも腹立たしくも悩める内容だった。


兎にも角にも一先ずはこれから行われる会談の成功を願う。

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