第3話 魔術って?


 プリムと会った後はそのまま家に戻ってきたので件の人に会う約束というのは彼女のことだったのだろう。


 だが、俺の頭の中は最早、突然現れたゴスロリ少女の事でさえどうでもよくなる程の衝撃に見舞われていた。


 ──今世はどうやら地球ですらないようだ。


「魔術って……」


 あの後、それとなく母親に聞いたのだが、この世界では魔術が広く浸透しているようだ。


 逆に科学技術はそこまで発展していないらしく、科学が人の生活を便利にするために生まれたのだとするなら、その機会を魔術が補ってしまっているのだろう。


 俺自身もいきなり魔術がどうとか言われても信用は出来なかったが、この目で人が空に帰っていくのを見てしまった。


「これって異世界転生ってやつなのか……?」


 独り言を漏らす。


 今まで割と楽観的に過ごせたのは、日本語を話せるし、最悪ここが海外でもお金を貯めて日本に行けばいいと思っていたからだ。


 だが地球上ですらないなら、ここから先は全てが未知である。現代で学んできた事が活かせる可能性も低いし、何より魔術なんて訳のわからない物もある。


 この世界と地球上とでは物理法則までもが違う可能性すらあるのなら、俺の付け焼き刃の科学知識など何の役にも立たないだろう。


「……うーん」


 だが悪い事ばかりではない。赤ん坊の時分から17歳程度の思考力があるのだ。他にも自分と同じように転生した人間がいないとは限らないが、それは今は考えないでおく。


 俺は歩いて扉を開け、リビングに向かう。母親はリビングの机で何かを書いていた。


 ちらりと目に入った羽根ペンにジェネレーションギャップを感じながらも、臆せず話しかける。


「お母さん」


「んー? どうしたのレオ? 歩けるようになったからってまだ一人で外に出ちゃだめよ?」


「別に外に出たい訳じゃなくて、ええっと……」


 土壇場になってプリムの事や、転生のことについて頭に浮かんだが、思考の隅に追いやる。


「魔術について教えてもらいたいんだけど……」


 母親はそれを聞くと一瞬目を丸くした。


 俺自身も自分の口から魔術なんて言葉が出て、ちょっとアホっぽいなと思った。


「魔術? プリムのを見たから気になったのかしら?」


「う、うん。知ってる事だけでいいから教えて欲しいんだけど……」


「うーん。ちょっと待ってね」


 母親は羽根ペンを机に置くと、腕を組んで思案中である。


 長い沈黙が恐ろしい。もしかして魔術って禁忌的なやつなのか。


「だ、だめかな?」


「だめって訳じゃないわ。そうじゃなくて、魔術には適正……得意、不得意があるから、私が教えられるかわからないのよね」


「あ、いや、魔術についてなら何でもいいよ。どんなのがあるのかでもいいし」


「そう。なら、仕事を片付けたら教えてあげる。けど、一つ約束できる?」


「約束?」


「ええ。むやみに魔術を使わない事。魔術は便利だけど、とっても危ない物だから……」


 母親に言われ、俺は音速で頷く。


 というか、俺が始めた話なのだが、そんな危険な物を三歳児に教えていいのだろうか。


「じゃあちゃっちゃと仕事終わらせちゃうから、少し待っててね」


「はーい」


 平常心で部屋に戻るが、心臓はバクバクである。


 あのまま何もせずに魔術やこの世界の事など気にしないでいられたらよかったのだが、そうもいかない。知らない、というのはそのまま危険に直結するのだ。


 俺は地べたに座ると、天井の木目を数える。


(やっぱりやめときゃよかったか?)


 

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