第9話 失われていた時間
ちくしょー!!!
何でこうなったんだァ!!
俺は家に帰ってからソファを殴っていた
俺がなぜ台パンならぬソファパンをしているかというと
―――――
「わ、私と買い物して…?」
「え………」
うわやっちまったー
俺は許してもらうためとはいえ「何でも」と言ってしまったことに後悔した
買い物か……
まあでも友情を取り持つため、仕方がない
「……あぁ、いいぞ…」
ハアッ…と、出かけたため息をぐっとこらえて俺は返事をする。
「うん、じゃあ明日放課後に集合ね!」
「…はい」
――――――
ということがあったのだ
ダルいだけならここまではならないのだが、買い物は金を使う。
そのため金がなくなってしまうのだ。
だから気をつけなければならない。
しかも
玲夏によれば買い物はデパートらしい、あんな人がうじゃうじゃいるところに入っていくなんて、一人暮らしを始めてから近くのコンビニくらいしか行ったことのない俺には至難の業である。
そろそろソファパンしていた手が腫れてきそうなので、ソファパンをやめると、諦めてスマホを開く――――
『写真が送信されました』
「ん?」
タップして某アプリを開くとそこには木材を運んでいる隆輝がいた。
「用事ってこれか…」
隆輝の父は建築関係の仕事に就いているため、たまに手伝わされるらしい。
「あ、そうだ。隆輝も誘うか」
『玲夏が明日、一緒に買い物に行こうと言ってきたんだがお前もどうだ?』
『玲夏が?』
『うん、そうだけど』
『ああ、玲夏は別に怒ってなんか無いとか言ってたけどアレはどう見ても怒ってたな。顔が真っ赤になっててさ、もう断れないじゃんだからお前も巻き込もうかと。』
『怒ってて……か?』
『ん?どういうこと?』
『いや、それがお前…怒ってるんじゃなくて…』
『え?怒ってないのか?じゃあ断ってもいいのか?』
『それはダメだ』
『じゃあどうすればいいんだ?』
『俺は行かない。二人で買い物に行ってこい。』
『ちくしょー、裏切り者め』
『いや、俺は多分勇者だぞ』
『そうなのか?もしかして玲夏の機嫌をとってくれたのか?』
『あー…まあそんなところだ』
『ありがとう、じゃあ明日は頑張るよ』
『あー…おう、頑張れよ』
『ああ』
ここまで打ち込むと、俺は夕食のカップ麺をつくる。
「はぁ…パシられないといいな…」
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
………
ついにこの時が来てしまった
日は落ちてきているが夏なのでまだ明るいこの時間
「あ、愁斗!」
「お、それじゃあ行くか」
「え……?」
「ん?」
何故疑問を口にする?
ハッッ!!
そうか、玲夏はもう昨日のことを忘れているのか!!
これは千載一遇のチャンス、これを逃すわけにはいかない!!
「あ、いやなんでもない!じゃあ!」
「え?買い物いこうよ」
「え、覚えてる?」
「そ、そりゃあ当たり前だよ。約束したし」
「じゃあ何に疑問があるんだ?」
「疑問……?ああ、いやだって、この格好で行くの?」
「…そりゃそうだろ、放課後だし」
玲夏はなにやら不機嫌そうな顔をすると、手を引っ張ってデパートではない方向へ進んでいった。
「なにしてんの?デパートは逆だろ?」
「――っ!そういうことじゃない!」
そういうことじゃない…?やはり天才の思考は読めないな…
俺達は坂を越え、マンホールを越え、横断歩道も越えた。
「私の家ここなの」
「へぇ」
家を見上げてみると分かることは、外壁の色が白、屋根が無くて長方形っぽい形だということくらいで至って普通の家だった。
家を紹介するためにここまで連れてきたのか?失礼だが自慢できるようなところなんて無いように見えるが…
こういう時は褒めろと聞いたことがある
「すごいな、なんというか…うん、普通で」
「何言ってるの?」
「え…………いや、なんでもない。」
家を自慢したかったんじゃないのか?
「それじゃ、ちょっと待ってて」
玲夏はそう言うと、家の中へ入ってしまった。
――あれから30分が経過していた
え、どういうこと?
太陽はジリジリと照りつけ、俺の肌をどんどん焼いている。
「ちょっと待ってて」と言ってから30分も待たせるやつなんているのか?
「……よし帰ろ――――」
ガチャリ
「おまたせ!!」
「おおぅ…Very Bad Timing……」
玲夏はこっちへ駆けてくると
「ごめん、どの服着てこうかと選んでたら少し時間がかかっちゃって…」
全然『少し』じゃない
玲夏の服は、フリルのついた白のトップスに
下は黒のスカートだった。
まあ、それはどうでもいいのだが。
こういうときのテンプレは知っている
「いや、全然待ってないよ。今来たところ」
「……今来たところ?どこか行ってたの?」
「え?どこも行ってないけど…」
ここまで言って自分の間違いに気づいた
あ、これは待ち合わせのときのテンプレだった。今は『待ち合わせ』じゃなくて『待たされ』だからこのテンプレは通用しないじゃないか。
しかも俺がどこか行ってきたという誤解もされている。
まあ、こういうときは―――
「よし、早く行こ」
「え―――う、うん……」
ゴリ押し作戦である
作戦は成功したはずなのになぜか玲夏が少し落ち込んでいる。
まったく謎である
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます