第6話 失われていた私の過去

授業の合図が鳴り、私は席につく。

先生はまだ来ない

いつもなら今日の授業の予習をしているところなのだが――――

なんだったの愁斗…

私の頭の中には先程の光景しか映っていなかった


あのとき私はコンクリートで殴られそうになって正直「あ、やばい」と思った。

あのまま当たっていたら怪我じゃすまなかっただろう

救急車がやってくるところまで想像してしまった。

怖かった


だけど愁斗が助けてくれた

速かった

そして本気であの人を殴った

あの構え方

そして打ち出される拳

正拳突きとは少し違って捻りを加えてある

あの拳

あのときの拳




思い出した




――――――――――


あのときの夜


「ねぇ、君、ちょっと一緒にカフェでもい行かない?」

「…すみません」

当時の私は断る

ちゃんと頭を下げて、丁寧に

…なのに

「まあまあ、こっち来てよ」

「えっ…!?あ、いやその…!」

その人は諦めない

私の手を掴み、暗い路地裏へと連れて行く

「やめてください…!」

「うるせえ、ボスが待ってるんだ。静かについてこい」


私は誘拐された


しばらくの間路地裏を歩くと、ある空き地に出た。

そこには瓦礫が積み上がっていて

そして、そこにはヤンキーがいた


「ボス、連れてきたぜ」

「おう………ほぅ、いい女じゃねえか」


ヤンキー集団のボスは不敵に笑う

身長は私の倍以上、とてもいかつく、さすが集団のボスをやっているだけあるなというかんじだった。


「おら、俺と付き合え」

嫌だった

怖い

恐ろしい

「…すみません」

「…チッ、ああそうか…」

ヤツはそう言いバットを持つと

「なら、ボッコボコに痛めつけてやらねえだなぁ!!」

バットを私に向かって振り下ろしてきた


「よう、ゴミカス共」


そこに、黒いフードを被った男の人が来た。

「ああん?テメェ誰だ?」

手下が聞く

「お前らに名乗る名など無い」

するとその人はそう言い捨て


「グアアアッ!」

そのヤンキーを蹴り飛ばした

「なんだお前ェッ!!」

手下たちが一斉に襲いかかる

あの数は無理だ

敵わない

そう思っていた


ドカッ ドゴッ


黒い人は次々と敵を倒していき、あんなにいたヤンキー達が僅か一分で皆地面に倒れていた。


「俺の手下どもをボコボコにするとは…お前やるなァ」

と言い、ボスはバットを構える。

だが黒い人は素手だ

黒い人から見てもあのボスの身長は倍近くある

しかも素手じゃ勝てるわけがない



黒い人は構える

正拳突きの構えだ

ボスはバットを振り下ろす

当たらない

黒い人はその構えのまま一瞬で近づくと

「フッ、遅いな」

その拳をみぞおちに叩き込んだ

正拳突きとは少し違う

ひねりを加えた特徴的な殴り方


ボスを一発でノックアウトさせた

すると

「気をつけろよ…」

そう言い残して去っていってしまった


――――――――――


さっきの愁斗はあの黒い人そっくりだった


結局、放課後まで集中できなかった。





―――――


放課後、隆輝が

「今日、愁斗ん家で遊ぼうぜ」

と言ってきた


そして遊ぶことになった


―――――

「お、お邪魔します」

「…玲夏なに緊張してんだ?初めてじゃないだろ?」

「えっ!?あ、いやなんでもないよ」

危ない…動揺を隠しきれてなかった


その後、隆輝の持ってきたお菓子を食べたりゲームをしたりして過ごした。

だけど全然集中できなかった

「ちょっとトイレ行ってくる」

私はトイレに向かっていたその時

「……!!」

乱雑に入れられたのか、ロッカーから黒いフードが少し出ていた。

取り出してみると、やはりあの黒いフードだった。


やっぱり愁斗が…


私はトイレから戻ると

「お、きたきた、玲夏このポテチうまいぞ」

愁斗がポテトチップスを一枚取って私に渡してきた。

「えあっ…う、うん」

私はポテトチップスを受け取―――

愁斗と手が触れてしまった

「――――!!!!!??!?」

顔が赤くなる

「ん?玲夏どうした?顔が赤いぞ?」

「いやっ!なんでもないよ!」



私は正気じゃいられなかった

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