第18話
瞬間。詩乃は固まった。
「詩乃と申します。以前女神様の件でお伺いしたのですが、覚えてない、ですかね?」
「なんと! 女神様の事を知ってらっしゃるのですね。もしや女神様からの使いの方でございましたか?」
「そうです。覚えて無いですか?」
「……使者様に会うのは初めてかと」
「そうですか……とりあえず中に入れて頂いても?」
「はい! 勿論です。女神様もいらっしゃる良い部屋なんですよ」
「詩乃さん……どういう事ですか? これも異能の影響ですか?」
「いや……もう少し話を聞いてみよう」
部屋に入ると生ゴミのような臭いが立ち込め、僕は思わず顔をしかめた。玄関には先日来た時のままの野菜炒めにハエが集っていた。
「うわっ酷い匂い」
「ささ、どうぞ、何もない所ですが」
キッチンには放置された調理器具が何個も散乱している。ベッドや服も洗濯されていないらしく、そこら中に乱雑に放置されていた。鳩羽はさもそれが日常の光景と言わんばかりに服をどかして、僕達を床に座る様促した。
「今日はどこに行ってたんですか?」
「あー何処でしたかね?」
震える手でスーパーの袋をベッドに置き鳩羽は答えた。
「詩乃さん。これ、明らかにおかしいですよね?」
「そうだね、記憶障害に手の震え、目には見えてないだけで他にもありそうだね」
詩乃は鳩羽に向き直すと質問を再度始めた。
「鳩羽さん。最近なにか変わったことはありますか? 例えば、眠りが浅くなったり、食事がし辛かったり」
「あんまり、気にはならないですねぇ、あっそうだお茶を出すのは忘れていましたね」
鳩羽はポンっと手を叩き、立ち上がった。
「おっとと」
立ち上がった拍子に倒れそうになったのを慌てて詩乃が支えた。
「大丈夫ですか? お茶は私が持って来ますので、座ってて下さい」
「申し訳ないです。女神の使者様の手を煩わせてしまうなんて」
鳩羽は申し訳なさそうにそのままゆっくりと座った。
「鳩羽さん、この後、というかこれから何か予定は有りますか?」
「いえ、特にはなかったと思いますが」
「分かりました。では、良かったら女神様の使徒の管理する本部の方にいらっしゃってもらっても良いですか?」
「なんとそんな場所が! 是非行かせて頂きたいです!」
目を見開き、詩乃の両手を掴む。鼻息荒く詩乃の手をぶんぶんと振る。
「それは良かった。では同志に連絡しますのでお待ちを」
一度鳩羽を置いて2人で部屋を出た。
「鳩羽さんの病気って……」
「認知症が1番可能性が高いかな。詳しくは病棟で検査してからだけどね」
詩乃はメモ帳にすらすらとペンを走らせると携帯で電話を掛けた。
「もしもし? 今から鳩羽さん連れて行くから、紫と青色のものは隠しといてね」
「青色も隠すんですか?」
「何があるか分からないからね」
病棟への連絡を手早く済ませ、また部屋の中へと戻った。
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