第17話

「あっあの! なんでっこんなっ急いでっるんですか!」


 全力で走っていく詩乃の後ろを走る。詩乃の前方には酒井が僕達がついてきているか逐一確認しながら空を飛んでいた。


「猫座くんの予知夢は普通の夢と同じで起きると同時にどんどん忘れていってしまうんだ。酒井さん! 今どのくらい経ちましたか?」


「ワシが家を出てから20分程じゃ!」


「ギリギリだな……億利さん、急ぐよ!」


「え!? ちょっ」


 詩乃は僕の手を掴むとより速く勢い良く走り出した。


「それじゃわしは体に戻っとるからの」


 霊体の酒井はそう言って古風な平屋へと入った。


「お邪魔します」


 詩乃は引き戸を勢い良く開けて中に入った。僕も手を引かれたまま入った。


「おっ来たな、おい猫座。詩乃先生来たぞ」


「あ、先生」


 猫座は何度も何かぶつぶつと呟いていたのをやめ、こちらを向いた。


「なにを見たのか、教えてくれるかな?」


「はい、見たのはえっと、知らない人が、倒れてたんです。個室、多分個室だったと思います。夜では無かった筈です」


「うん、それで?」


「えっと、あー。そう! 全身傷だらけ、というか変に折れてた気がします」


「全身が? どういう風にかわかる?」


「……えっと、確かこう、すみません。もう、思い出せないです」


 手を持ち上げるが、その手は宙を掴むのみ。額に浮かんだ汗を拭った猫座の手は力無くストンと落ちた。


「いや、充分過ぎるよ。ありがとう。早速解決に行くとするよ」


「え、何処に?」


「分かったんですね。良かった」


 猫座はそれを聞いて安心したのか眠ってしまった。


「もし、私の請け負ってる患者じゃなかったら、どうしようも無いけど、私が請け負ってる患者さんだったら、1人心当たりが有る。というか彼以外思い付かないんだ。億利さんも会ってる人でね」


「……それってもしかしてこの前の」


「うん。鳩羽さん。まだ検査出来てなかったからね。1週間特に連絡は無かったけど、もしもがある。急ごう、猫座くんの予知夢はそう遠くない未来が多い」


 僕達は急いで鳩羽の住むマンションへ向かった。


「鳩羽さん、いらっしゃいますか? 鳩羽さーん」


 ノックを数回するが返事はない。嫌な予感が2人の間に漂う。


「鳩羽さん!」


 先ほどより強くドンドンと扉を叩く。


「あの、どうかしましたか?」


 後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると、僕達の探していた張本人。鳩羽がスーパーの袋を持って立っていた。


「お久しぶりです鳩羽さん。あの後調子はどうでしたか?」


 最悪の事態を回避した詩乃はほっと胸を撫で下ろし、落ち着いて話しかけた。


「えと、あの」


「なにかありましたか?」


「すみません。どちら様でしょうか?」

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