第14話
「んじゃ、ワシらは帰るとするかの」
「そうだね〜」
ひとしきり雑談を楽しんだ2人は最後まで騒がしく病室を出て行った。
「それじゃあ、私達も新しい患者さんの診察に行こうか」
「はい……えっ?」
「もしなにかありましたら、そこのナースコールで呼んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
しずかになった病室を僕達も後にした。受付で鶴見と別れ僕達はビルの前に戻った。
「今日の患者さんは1人暮らしの男性らしいから。早速行こうか」
「新しい患者ですか? 糸夜くんはもう良いんですか?」
僕はさっさと歩く詩乃の後ろをついて行く。今日も仕事は会話内容の書き留めだけらしく、渡されたのはノートとペンのみだ。
「糸夜くんは様子見かな。安定してきたしね。もう少しゆったりしてたい気持ちもあるけど、患者さんを診察しないとね。病気は待ってはくれないんだよ」
「あの、今回の患者さんも異能を持ってるんですよね?」
「もちろん。億利ちゃんも分かってきたね」
「ちゃん呼びで行くんですね」
「うん、因みに今回も初診察だから気を付けてね」
気を引き締めた僕達は患者の住むマンションにやって来た。そこはセキュリティというセキュリティが一切なく、無関係の僕達でも簡単に入れる非常にオープンで杜撰な設計だった。
「えっと、105、105、あぁ、ここだ。うわ、なんだろこれ」
詩乃は扉の前に置かれた段ボールを足で遠くに退かす。僕は好奇心半分に中を覗く。しかし中身はなんてことない。ただの放置されて干からびたさつまいもだった。
ピンポーン
「出てきますかね? もし、糸夜くんみたいに暴れられたら……」
「その時は……その時だね」
何と行き当たりばったりなのだろうと僕が呆れている間に扉がガチャリと音を鳴らしてゆっくりと開いた。
思わず身構えたが、扉から拳が飛んでくるなんて事もなく、顔を覗かせたのは青と紫の綺麗なオッドアイを持つ中年男性だった。
というかこの人。何処かで見た事ある気が? ……駄目だ思い出せない、後少しで出てきそうなんだけど。
「どちら様でしょうか」
「初めまして
「はい……何のご用で?」
「最近なにか不思議なことはありませんでしたか?」
突然のあやふやな質問に鳩羽は不審そうに眉をひそめた。
「不思議なこと……もしかして女神様の事ですか?」
「……えぇ、その女神様について話を聞きたくて」
「なんだ、そうだったんですね、どうぞどうぞ上がってください」
不審な表情は一瞬で消え去り、ニコニコと笑顔で僕らを中へ招いた。
「これは?」
詩乃は玄関に置かれた青い靴入れの上にある。青い置き時計の前に置かれたものを指差した。
「あぁ、それは女神様への供物です。いつも見守って頂いているお礼に」
そこに有ったのは紙皿に置かれた野菜炒めだ。
「へぇ、素晴らしい心がけですね」
「そういえば、詩乃さんよくあの化物の横を通れましたね」
「化物ですか?」
「そうです。私が部屋を出るのを妨げるあの化け物です」
「……あぁ、苦戦致しましたがどうにかしましたよ」
いつの間にそんな事してたのか、いや、この横顔は絶対嘘をついてる顔だ。横顔が余りにも胡散臭すぎる。この前鶴見の冷蔵庫に入れていたおやつを盗み食いした時にもこんな顔をしていた。適当吹くのも大概にして欲しい。
「本当ですか!?」
そんな詩乃の嘘を信じた鳩羽は僕達を押し除けて玄関の外を覗く。
「本当だ。居ない。凄いです詩乃さん!」
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