第13話
「ま、まぁ酒井さんも反省してるし、その位で……」
「詩乃先生! 貴方もです!」
「うっ」
「何が大丈夫じゃない? ですか。糸夜くんは勿論、糸夜くんの異能で酒井さんが怪我する可能性だってあるんですよ!」
「確かにその通りだったね。私が浅はかだったよごめんね鶴見ちゃん。糸夜くんもごめんね」
詩乃にも臆せずぐいぐいと詰めて凛とした声でビシバシと言う。詩乃も若干仰け反り気味だ。
「だ、大丈夫ですから、酒井さんも悪気があった訳じゃないでしょうし、全然気にして無いので、看護師さんもありがとうございます」
「鶴見です」
「え?」
「看護師さんじゃなくて、鶴見と呼んで下さいね」
「はい! 鶴見さん」
鶴見は優しく微笑み全身をピンと伸ばして糸夜の頭を撫でた。
「あ、はい」
糸夜は頭を差し出したまま少し照れ臭そうに頬をかく。肌がさわつく温かい空気が部屋に立ち込めた。
「あの〜僕の診察まだですかね?」
そんな空気に耐えかねた猫座がベッドの中で足をパタパタ動かす。
「ごめんね、猫座くんは眠気の方はまだ続いてるみたいだね」
「うん。でもいきなりぶっ倒れることは無くなってきたかな」
「それはよかった。薬は出しておくからしっかりご両親に渡してね。これからも夜に十分な睡眠を取ってカフェインを控えて生活していけば確実に良くなってくるはずだよ」
「うん。ありがとう」
猫座は薬を受け取るとベッドに潜ってしまった。
「さて! 我々の診察もこれで終わりじゃろう? そろそろ後ろの彼を紹介してくれんかのぉ」
「そういえば紹介してなかったね。彼は糸夜くん。分かってると思うけど2人と同じ異能を持つ患者さんだよ」
「糸夜です。異能とか、よく分からないんですが、力が強くなる異能らしいです」
「そうかそうか! ワシは酒を飲むと意識が肉体から離れる異能じゃ!」
「意識が?」
「幽体離脱みたいなものと考えれば大丈夫よ」
鶴見がすかさず説明を付け足した。
「僕は夢で未来の事が見える事があるんだ。予知夢ってやつだね。代わりにいつも眠くて眠くて仕方がないよ」
布団の中から猫座の声が篭って響く。今にも寝てしまいそうだ。
「で、そちらの別嬪さんは?」
「別嬪? あぁ億利くんの事ね、彼には私の助手をしてもらってるんだ」
別嬪では無いし、彼って。
「ん? 男だったのか? 最近のは区別がつかんのぅ」
「あの、詩乃さん」
「え、嘘。僕も女の子だと思った。ごめんね億利くん」
驚いて猫座が布団から顔を出して僕の顔をじっと見つめた。
僕が詩乃にどう説明しようか悩んでいると、鶴見が詩乃の肩を叩いた。
「あの、先生。億利さんは女性ですよ」
「そうそう。男女の違いくらい分かるようにならなきゃだよ、猫座くぅえ?」
ポカンと口を開いたまま詩乃は僕を見たので僕は頷いた。
「ほ、本当に?」
詩乃はズレた眼鏡を直しながら気まずそうに振り向いた。
「僕、女です」
「……マジかぁ」
額に手を当てて唸る詩乃。そんな詩乃に、にやにやしながら近づく猫座。
「やっぱりそうだよね〜詩乃せんせぇ? 男女の違いがなんだっけ〜?」
「すみませんでした」
ゆっくりと椅子から降り地面に頭を擦り付けた詩乃。何とも綺麗な土下座だ。
「って、そんな土下座なんて。だ、大丈夫ですよ。全然気にして無いですから」
「ありがとう……それにしても女性だったとは。私変な事してないよね? 大丈夫だったよね?」
「男女の区別くらいつけてくださいね」
詩乃の頭をカルテでペシっと叩く鶴見。全く、人騒がせな人だ。
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