虚像偶像に惑わされ
第10話
私の部屋には女神様が居る。青い御髪に華やかな水色のローブ。優しく微笑んでいるその姿はまさしく神様だ。
「おはよう御座います。女神様」
私はベッドからゆっくりと立ち上がり、壁面に立つ女神様に向けて手を合わせ首を垂れて祈りを捧げた。
「今日も外の怪物が居るか確認してきます」
長い祈りを終えた私は玄関に向かう。玄関には腰ほどの大きさの女神様と、その肩に乗った手のひらほどの大きさの女神様が微笑んでいた。女神様は大小の違いはあれどその御姿は全く変わらない。私はそんな2人の女神様に見守られながら震える手で玄関の扉を開けた。
外には紫色の双頭のヘビの化物がダンボールの中から私を待ち構え、その悍ましい口を開き勢いよく首を伸ばしてきた。
慌てて腕で顔を守り扉を閉めた。あの怪物もまた女神様と同様気が付いたら現れていた。何故現れたかは私にも分からない。
「っつぅ……」
右腕を押さえる。突き刺されたような痛みが襲う。血がツーっと床に垂れた。
「女神様、祝福を……」
玄関で微笑む女神様に震える手をそっと差し出した。
女神様が私の腕にそっと触れると傷口は触れた側からキラキラと淡い光に包まれ、傷口は有ったのも分からない程綺麗に無くなった。
「ありがとうございます女神様」
無くなった傷跡を撫で玄関で祈りを捧げた。
「女神様、外にはあの化物が居ます。あそこから外へ出るのは困難です。しかし……」
冷蔵庫を開けるもすっからかんで何一つとして食べれそうな物は無い。
「このままでは餓死してしまいます。ベランダから外に出てもよろしいですか?」
私はベランダの方を伺う。ベランダのガラス戸の前には2人の女神様が立って微笑んでいた。
「ありがとうございます女神様。では行ってまいります」
私はベランダから外に出ると敷地と公道を分ける柵をよじ登り道路に出た。幸い部屋はマンションの1階、怪我をする事はない。
スーパーまでは住宅街を右にまっすぐ進むだけ。それなのにこの数週間一度も行けていないのは玄関の怪物だけが理由ではなかった。
「女神様。私に勇気をお与え下さい」
空を見上げる。曇天の隙間から巨大な女神様が私に微笑んでいた。私は勇気を決めて歩くとなんの変哲もない住宅街に突然、何の脈絡もなくそれは現れた。
玄関先に居たのと同じ。双頭の蛇の化け物が草木に絡まった姿でこちらへと首を伸ばしていた。これまではマンションは出れてもここで怖気付き渋々部屋に戻っていた。しかし、今日はそれを乗り越えて進まなければいけない。
「女神様。今度こそ私に勇気をお与え下さい」
蒼唯はもう一度覚悟を決めると目を瞑り、ただがむしゃらに走り抜けた。体中を塀や電柱にぶつけながらも何とか擦り傷や打ち身程度で抜けることが出来た。
「女神様」
私は胸ポッケの中から女神様を優しく取り出し胸の前で広げた。手の中から出て来た小さな女神様を私は掲げた。
「女神様。この私の傷を癒して頂けますか」
私の手の中でちょこんと立つ女神様は私に微笑むと体が光に包まれる。体のあちこちにあった擦り傷はどんどん消え、何もなかったかのように元通りになった。
完全回復した体でスーパーに向かう。スーパーでも野菜コーナーや菓子コーナーなど、所々に怪物は居るが他の人は誰も気にしていない。怪物も他の人には目もくれず私のみを狙ってじっと見つめている。近付いたらきっと噛みつかれるだろう。
私は早々にスーパーで買い物を済ませマンションへ戻った。勿論怪物の前は目を瞑って走り抜けた。
部屋に戻ると使う食材を床に置く。残りは冷蔵庫だ。まな板とガスコンロ、フライパンを床に置く。野菜と肉を切って油を引いたフライパンに放り込むとガスコンロで炒める。塩胡椒で適当に味付けをすれば肉野菜炒めの完成だ。
フライパンを皿代わりに口へ運ぶ。キャベツとにんじん、後は豚肉の入ったご馳走だ。玄関の中くらいの女神様の前にも少し盛ってお供えする。傷を癒してくれたお礼だ。
ピンポーン
私が肉野菜炒めを供えると、玄関で掠れたチャイムが鳴り響いた。
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