底
海溝へと、赤い糸を追うようにして己は飛び込んだ。
風を受け己の髪は激しく揺れ、外套が巻き上げられる。水面の灰色の光はどんどん遠退いていき、暗闇だけが視界を包み込んでゆく。耳元を地の底から響く演者たちの悲鳴が掠めて、鼓膜の奥へと纏わりついてくるのが分かる──何人食ったのか、分からない程。己の両足を掴んで底へと連れて逝こうとしている、己は大人しく彼らの導きに身を委ねることにした。
糸となって消えた頭の無い彼女の言葉を、己は反芻している。
──あなたは赦されている。
何に、何を赦されているというのだろうか。烏を叩き切った事か、栓を抜いて終わりを齎す事へか。
己は己の使命を全うするのみ、そこに赦しなどは要らない。
己の目的が、生まれたことそのものが、赦されないことであったとしても。
耳元に纏わりついていた悲鳴が離れていき、底を見ると白い光が見え始めていた。足首を掴まれる感覚が霧散し、落下が段々と緩やかになっていく。
己の旅路の終わりが、近付いている。
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