天啓

矢州宮 墨

本編

 赤錆びた砂塵が車外の景色を覆い隠す。風に巻き上げられた砂が嵐となり、日の光すら遮っていた。私と運転手は何をするでもなくミラー越しに視線を合わせた。

「そう深刻な顔をしなさんな。ここらじゃよくあることでさぁ。きっとあと30分もすれば出発できますぜ」

運転手はそう言って飲料缶を開けた。

「ああ、そう願いたいものだね」

平静に努めてみたものの一抹の不安は残る。窓の外は相変わらず砂嵐。このまま砂漠の中に車ごと埋もれ遭難してしまうのではないかと考えてしまう。

 私は考えを放棄するためにそっと目を閉じた。




 数週間前、スペースオメガインダストリ第4セクション―異星文明探査部門にて。

『スキャン中……レオ・モリソン情報管理官――認証。ようこそ異星文明探査部門へ』

自動音声のナレーションが終わると眼前の自動ドアが静かに開いた。

「ようこそ、管理官どの。主任研究員のヴィクター・リー・フジモトだ」

細いスチールフレームのラウンド眼鏡の奥から鋭い視線が向けられる。周囲の研究員たちもどこか真剣な雰囲気だ。

「レオ・モリソン。よろしく」

「こちらこそ。さっそくだが本題に入ろう」

ヴィクターが合図をするとスクリーンに宇宙の画像が映し出された。

「これは星雲研究部門が発見した超新星残骸だ」

超新星残骸、それは恒星が超新星爆発を起こしたあとに残される構造。星雲にカテゴライズされる天体の一つだ。

「ああ、それは知っているが、このバツ印のようなものは一体……」

残骸の中心部、誰かが上から黒く塗りつぶしたかのようにバツ印が見て取れる。

「それが問題なのだ、管理官どの。彼らの分析によれば、超新星爆発が起きたときに恒星近傍に何かしらの構造体が存在し、それが残骸の拡散を部分的に遮った可能性が高い」

私は例のバツ印をしげしげと眺める。

「我々の知る限りこのように角張った形の自然構造物は存在しない」

「……つまり、人工物があった可能性が高いと?」

ヴィクターは片方の眉をわずかに吊り上げ、

「ああ。だが当然我々が知る“人”ではないだろうがな」

と呟いた。

「異星人、か」

これまで人類が一度たりとも遭遇したことのない存在。その痕跡が初めて発見されたことになる。

「管理官どの、実は問題はここからなんだ」

「問題?これまでの話によれば見つかったのは痕跡に過ぎない、ということなのでは」

「これは超新星残骸までの距離と爆発の規模のシミュレート結果からわかったことだが、超新星爆発の光がこの星まで届いたのはほぼ確実。そして光が届いた時期は最近発見された遺跡の年代に符合する。これはその簡易報告書だ」


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《砂漠緑化プラント建造現場で発見された遺跡の年代について》


1. 概要

スペースオメガインダストリ(SOI)は、砂漠緑化プラント建造のために進行中のボーリング調査中、未発見の遺跡を発見しました。本報告書は、その遺跡の年代に関する調査結果をまとめたものです。


2. 発見の経緯

遺跡は、SOIが計画する砂漠緑化プラントの建設現場において、初期のボーリング調査中に偶然発見されました。


3. 年代測定結果

遺跡の年代は、既知のいかなる文明のものよりも古いことが判明しました。放射性炭素年代測定やその他の分析を通じて、遺跡の一部の建材に対する年代測定を実施した結果、その建設時期はこれまで知られているいかなる文明よりも遥かに古いものと推定されます。


4. 遺跡の特徴

建材: 遺跡の構造物は、木材および石材を使用して建設されています。これらの建材は、非常に高度な加工技術によって整えられていることが確認されました。また、長期間にわたり砂漠に埋もれていたために保存状態は良好と言えます。


積層構造: X線スキャンにより、遺跡は複数の層にわたる積層構造を有していることが判明しました。このことは、遺跡が単一の時代に築かれたものでなく、長期間にわたり建築されてきたことを示唆しています。


5. 発掘状況

現時点で、遺跡の全体はまだ発掘されていません。現在の調査は初期段階にあり、さらなる調査と発掘が必要です。特に、積層構造の詳細な分析や遺跡全体の規模の把握に向けた作業が進められる予定です。


6. 結論

今回発見された遺跡は、これまで知られている人類の文明史を覆す可能性のある重要な発見です。さらなる調査が必要ですが、これは出来る限りSOIが中心となって行うべきであるという提言が成されています。


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 そんなわけで詳細な調査が行われることになったが、例の奇妙な超新星残骸のこともあり、私とヴィクター、そしてある考古学者が中心となってチームが結成された。




 車のドアが勢いよく閉まる音で意識が現在へ引き戻される。

「さすが防塵コーティングだ。傷一つねぇや」

運転手はそう言ってエンジンをかけた。過去を回想している間に砂嵐は去ったようだ。もう外は明るく、視程がクリアになっている。

「さぁて、ちょっと飛ばしますぜ」

うなりを上げて車が動き出す。私は背もたれに体を押し付けるように姿勢を固定し、車の揺れに備えた。


 砂漠緑化プラント。スペースオメガインダストリがこれを建造しているのは他の惑星の環境を作り変える技術を確立するための基礎研究を行うためだ。それが偶然にも貴重な遺跡を掘り出してしまい、結果として私はここに派遣された。

 車を降りるとそこは相変わらず砂漠ではあったが、巨大なドーム状の屋根と壁に囲われていた。屋根の部分は透明な素材で作られ、日光は遮られることなく降り注いでいた。そして中央には粗末な柵で囲われた領域があり、そこが遺跡の発掘現場だ。

 ヴィクターがもう一人――おそらく件の考古学者だろう――を連れてこちらへ歩いてくる。

「管理官どの、どうやら砂嵐に巻き込まれたそうで」

「ああ、災難だったよ。で、そちらがコードウェル博士だね」

「エレノアでいいわ。ということはあなたが管理官?」

後ろで束ねられた長い金髪が風にたなびく。

「ああ、失礼。スペースオメガインダストリ情報管理官のレオ・モリソンだ。事前の通達通りこちらが主導で遺跡の調査を進めることになる……形式上は」

「形式上?」

「ああ、第一我々は考古学に関してプロフェッショナルではないし、わざわざこちらの要請に応えてくれたことに敬意を払いたい」

「つまりは好きなようにやってくれて構わないということだ。必要なものはこちらで調達しよう。それと宿泊場所はすぐそこのホテルユニットが使える。もちろん一人一部屋だ」

とヴィクターが補足した。

「いいでしょう。どの道ここは調査したかったし、物資を調達してもらえるのは助かるわ。まず遺跡の探索方法と必要なものについてだけど……」

 こうして我々の遺跡探索が幕を開けた。




 翌日、ヴィクターが蛇のような機械を連れて発掘現場へ現れた。

「ヴィクター、これは何だ?」

「探査用ロボットだ。エレノアが言うには、遺跡は長らく埋もれていたがために生身の人間が入るには危険らしい」

「ふむ、確かに崩落されては困る」

「一番怖いのは酸欠よ」

背後からエレノアが来てそう言った。

「では三人揃ったところでブリーフィングといこう。ヴィクター、まずこの探査用ロボットについて説明してくれ」

「こいつは基本的に自律探査するようにプログラムされている。遺跡の立体構造は事前のX線スキャンでマッピング済みだ。一応こちらからリモート操作することもできる。頭部には可視光の照明とカメラ、音波によるアクティブソナー、空気組成測定機が搭載してある。カメラのレンジは可視光から近赤外までだ」

「よくこんなもの調達できたな」

「この近くに第2セクション……惑星探査部門の建物があってな。お蔵入りしたのを借りてきたのさ」

「なるほど。つい最近頓挫したプロジェクトがあったと聞いていたがそれか」

「ご明察」

「ねえ、このロボットはどうやって動くの?」

エレノアが質問する。

「横方向の波状運動を前方への推進力に変換する……要するにヘビの動きを模倣しているわけだ。もし遺跡内部が砂まみれでもスリップせずに進めるだろう。密度にもよるが砂中を潜行することもできるだろう」

「なら安心ね。サンプル採取はできる?」

「残念ながらそれはできない。もともとサンプル採取用のモジュールはついていたらしいが別の探査機に組み込むとかで外されていた」

「じゃあ本格的な調査はしばらく先になりそうね。完全に発掘してからじゃないと」

「まあまあ、二人ともわかってると思うが調査は今回の一回きりじゃないんだ。そのへんは後々また計画を立てよう」

「そうね」

「それもそうだな。それからこの探査機の活動可能時間だが……」

突然の地鳴りがヴィクターの説明をさえぎる。

「何かまずいぞ」

地面が揺れ、足元の砂がうずまき始める。まるで巨大な砂時計のように局所的な渦が発生し、足が飲み込まれていく。

「エレノア博士!管理官どの!」

ヴィクターの叫び声が瞬時に遠ざかり、私の意識もそこで途絶えた。




 さらさらと砂が落ちる音、遠くで何かが崩れる音。そして誰かの足音が響いていた。

「……助かった、のか」

ゆっくり立ち上がり、周囲を見渡す。砂岩でできた洞窟のような広い空間。上を見上げると天井の僅かな隙間から光が差し込んでいたが、そこまでは遠すぎて辿り着けそうにない。足音の方へ目を向けると、遠くでエレノアが何かを調べていた。

「エレノア博士」

近寄って声をかける。

「管理官さん、ここから遺跡の内部に入れそうです」

「入って大丈夫なのか?」

「ええ、どういうわけか酸素はありますし有毒ガスも検出されていません」

エレノアは腕につけたデバイスを見て言った。

「それにここはまた崩落の危険があります」

「仕方ない、行こう」

私はエレノアのあとに続いて遺跡へ足を踏み入れた。

 意外なことに遺跡の中は整然としていた。装飾のない滑らかな石壁が無機質な雰囲気を演出していて妙な不気味さを感じる。

「そうだ、ついでにサンプルを採取しておきましょう」

そう言うとエレノアはどこからか取り出したピックとハンマーで壁をコンと叩いた。

「手際が良いな」

とつい感想が口をつく。

「まあフィールドワークが専門ですから」

エレノアは削り出した小さな欠片をアンプルに入れ、なにかをメモして懐へ仕舞った。

「さあ、先へ進みましょう。地上までの距離からして、おそらくここは遺跡の最下層。上へ登っていけば発掘現場から脱出できるはずです」

「おそらくそうだろう。X線スキャンの結果には目を通したが、空間はすべてつながっているはずだ。端末に点群データを入れておけばよかったな」

「大雑把に言えば、この遺跡の外形は上向きの正四角錐に近似しています。上へ行く道さえ見つかればそう迷わずに済みますよ」

そう言いながらエレノアはまたサンプルを採取している。

「それは?」

「木材です。分析すれば伐採された時期がわかります」

「なるほど。そういえば例の報告書によるとここが人類最古の遺跡の可能性が高いんだったか」

「個人的には信じられない……だからこのサンプルを持ち帰って詳細に分析しないと」

「そのためにはまずここから生きて帰らないとな」

背後を振り返るとこれまで歩いてきた通路が闇に溶けていた。ここではエレノアの懐中電灯だけが頼りだ。私はすぐにエレノアの方へ向き直った。

「さあ、はぐれないように気をつけて」

我々は歩きながらこの遺跡について議論した。年代測定の結果を真とするならば間違いなく人類最古の文明と呼べるものなのは間違いない。ただしこの保存状態の良さは異質であり、他にも奇妙なことが多い。エレノアが言うには、壁や床に装飾が無さすぎるらしい。表面は鏡面仕上げのように平滑に磨かれていることから、装飾を施す技術がなかった可能性は除外される。そして記号的装飾だけではなく壁画や文字らしきものも存在しない。

「では我々のルーツからは独立した文明だと?」

「んー、その可能性は捨てきれないですね。ただ地理的立地から考えるとむしろ……待って、なにか聞こえる」

何かを引きずるような音がこちらへ近づいてくる。

「一度止まろう」

曲がり角の手前、私は壁を背にしてそっと向こうを覗き込んだ。明らかに人工的なライトの光が左右に動いている。

「ヴィクター?」

ライトがこちらを照らす。

『良かった、二人とも無事か!』

ヘビ型の探査機は上体を持ち上げそう言った。


 ヴィクター(が操るヘビ型探査機)と合流した我々は、脱出に向けて作戦会議を始めた。

『まず、遺跡の中の空気についてだ。常時モニタリングしながらここまで来たが、幸運にも人体に害はなさそうだ』

「だがヴィクター、一般論としてだがこんな環境あり得るのか?ずっと砂の下に埋もれていたのに……」

「確かにかなり珍しいというか、特殊な事例ではあります。ただ、現に私たちが呼吸できている以上モニタリングの結果に間違いはないのでしょう」

「では何かが新鮮な空気を循環させているということか」

『どこかに換気扇があるとか?』

ヴィクターは珍しく冗談めかして言った。

「一つ考えられるのは、私たちが落下したような空洞か洞窟のようなものが他にもあって、それがうまく通気口のような役割を果たしたという可能性です」

「あり得るな。というか今更だが、あの地響きはなんだったんだ、ヴィクター?」

『どうやら近傍で小さい地震があったらしい。このあたりで地震が起きるのは稀だからな。運悪く崩落が起きたんだろう。地上は無事だし、遺跡の周囲もスキャンしたが崩落しそうな箇所はなかった』

「では問題は我々だけというわけだ」

「脱出できれば問題無しね」

『さあ、出口まで案内しよう』


 ヘビ型探査機に先導され、我々は遺跡の3層目に到達した。ちょうど地上までの折り返し地点だ。通路を少し進むと開けた空間に祭壇のような構造が現れた。

「待って、これは……」

エレノアは驚いた様子で祭壇を調べ始めた。

『む?』

「ヴィクター、実はこれまでの下層部分にはこういった視覚的装飾や文字の類は一切なかったんだ。それがここにきて突然現れた」

『ふむ、確かに奇妙だな』

ヴィクターに説明しつつエレノアの方へ歩みを進める。

「エレノア、何かわかるか?」

「ええ、これを見て」

エレノアの視線の先には人の背丈ほどの石版が安置されていた。そして周囲には壁画が彫られている。物語か伝承のようなものを表しているのだろうか。

「壁画か、しかしなぜ突然ここに来て内装が一変したんだ?」

「文字が生まれる前段階として何らかの象形が生まれることはある。だけどこの石碑に書かれているのは紛れもなく文字だわ」

『他の文明に侵略された、とか?』

「それにしては遺跡の設計構造が一貫しすぎています。この石碑が解読できれば……あれ?」

「どうした?」

「これ、2つの言語で書かれてます。しかも片方は見たことがある古代語です」

『もしかして解読できるのか?』

「少し待っていてください。画像スキャンして翻訳プログラムに照合させます」


 十数分後、エレノアが端末を両手で抱えるようにしてこちらへ走ってきた。

「間違いなく、これは今世紀最大の発見になります。それどころか人類史を揺るがしかねないことが書かれていました」

『本当か?』

「ええ、これが碑文の現代語訳です」

エレノアが差し出した端末の画面を私とヴィクター(ヘビ型探査機の頭部)が覗き込む。


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《天の光と念話の消失》


突然現れし一つの星があった。それは太陽のごとく、夜の闇を塗りつぶした。あの夜、世界は光に包まれ、闇は存在を失ったかのようであった。


光の雨が我らの身を通り抜け、肉体と魂を震わせた。光が過ぎ去った後、我らは知った。今まで当然のごとく行っていた意思疎通、心の声―念話―が失われたことを。我らは初めて、自らの言葉を持たぬ無力さを知り、深い孤独に包まれた。


孤独の闇の中、新たなる光が芽生えた。それは「文字」という新しい概念であった。我らの心に刻まれしは、形を持ち、目に見える「文字」という存在。それは我らの心と体の一部となった。文字という新たなる力を手にした我らは、それを用い、再び意思を交わし、共に歩む術を得たのだ。


天の光は消え去り、念話は失われた。しかし、新しき概念、文字と共に、我らは再び進みゆく。

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「これは……」

「素直に読むなら、星の光が文字をもたらしたと解釈できるけど、そんなことがあり得るのかしら?」

『おそらくこの伝承のなかにある星の光というのは超新星爆発のことだろう。ある程度の大きさ、質量を持つ恒星は死に際に大きな爆発を起こすんだ。だからあたかも新しい星が生まれたように見えるんだ』

「でもそれは単なる自然現象よね」

「ああ、だが我々SOIの星雲研究部門が発見し、異星文明探査部門と合同で調査している天体―超新星残骸―は明らかに奇妙だ」

『あの星の超新星爆発には間違いなく何者かが関与している。我々はそれが異星人だと踏んでいる。そして、星雲研究部門に頼んでいた超新星残骸の拡散シミュレーションの結果がついさっき届いたんだが、これも興味深い結果だったよ』

そう言うとヘビ型探査機の頭部が床へ映像を投影し始めた。星雲のような構造が2つ並んでいるがその大きさは倍以上の差がある。

『大きい方は理論上考えられる最小規模の超新星残骸、そして小さいほうが例の奇妙な超新星残骸だ。超新星爆発自体が人為的に引き起こされた可能性すら出てきた』

私とエレノアは思わず顔を見合わせていた。今までSOIやその他の企業連合体の機密情報に触れてきた私でもこれには驚かざるを得ない。おそらくエレノアもそうなのだろう。これまでも人類の歴史が変わるような発見を幾度となく見てきたはずだ。それでも今回の碑文に刻まれた物語は遥かに壮大なものだったのだ。

『こんな話をしておいてなんだが、驚くのは地上に上がってきてからにしてくれ。地上から見守るのも地味に心臓に悪いんだ』

「ああ、すまない」


 そして――

『さあ、この通路が最後だ。ってそんなに慌てると危ないぞ。もう夜なんだからな』

通路の奥に光が見える。私とエレノアは自然と出口へ向かって駆け出していた。遺跡の外、私たちが数時間前に眺めていた場所へと。

 遺跡から脱出した我々は、すぐに再開の喜びをわかちあった。

「一時はどうなることかと思ったが、無事に帰ってきてくれてよかったよ」

「ヴィクターのナビゲートのおかげね。私たちだけじゃ迷っていたかも」

「同意見だ。ありがとう、ヴィクター」

「運良く地上に残れたんだ。それくらいはしないとな。それより遺跡で見つけた碑文だが……どう思う?超新星爆発を意図的に起こして宇宙空間へ放出する。そこまではいい。だがそれで我々の先祖が文字を獲得することになると思うか?」

ヴィクターは私の目を覗き込んだ。

「理論上は可能かもしれない。光とは、要は電磁波だ。我々は主に可視領域のものを光と呼び、それによってものを見ることができる。それだけではない。今や人類は不可視の光、つまり可視光の外側の波長領域をつかって情報をやり取りしている」

「電波による通信か」

「情報という観点からすれば、例えば言語や文字のような模倣子を光に乗せて遥か彼方のへ送信することも不可能ではないはずだ」

「そうか。ひょっとすると“彼ら”の文明は滅びの間際に存在証明をしたかったのかもしれないな。どこかの星へ、どこかの知性体へ、かつて存在していた先達の存在を」

「あるいは文明の灯火を託したのかもしれないわね」

そう呟いたエレノアの視線の先には満天の星空があった。

 星の光は、今も地上へ届いていた。

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天啓 矢州宮 墨 @cymphis

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