第3話 聖女と話そう

「え? 蔵元さん?」

「いや、起きがけにボケんな! あんたが蔵元さんでしょ?」

「え? 私は高橋ですけど?」

「ちょっと! やっぱり高橋さんだったじゃない!」


 ププッ、騙されましたね。


「騙されたじゃないんだよ!」


 えへへ、お茶目なジョークじゃないですか。


「所で、御堂さんはこんな所で何してんの?」

「私の名前をしってんの?」

「だって、クラスメートだし」

「だったら、何で最初にボケた?」

「それはお約束みたいな?」


 高橋さんもボケ担当みたいですね。よかったですね、仕事が増えましたよ。


「ツッコミ担当も欲しいよ」


 それは、その内って事で。


「でさ、高橋さんは女神ってのに連れて来られたんだよね?」

「そうそう。急にこの世界に連れて来られて、これからお前は聖女だって」

「ところでさ、聖女って何が出来るの?」

「こむら返りを治す位かな?」

「いや~、あれ痛いもんね。って限定的過ぎるだろ!」

「だって、レベル低いし」

「高橋さんもレベルって言った。そのレベルって何?」

「レベルはレベルでしょ?」

「説明になってないよ」


 まぁ、あのクソ女神の加護なんて、そんなもんですよ。それとレベルっていうのは、なんかすっごいやつです。


「だからさ、説明になってないんだよ! まぁ、いいいや。所で高橋さんも、何か使命みたいのを押し付けられてるの?」

「魔王を倒せって……」

「魔王? それって」


 灯ちゃんが倒しちゃった奴ですね。因みに今の魔王は、灯ちゃんです。


「御堂さんが? じゃあ御堂さんを倒さないと!」

「いや、倒さないでよ」


 それに、高橋さんじゃ手も足も出ませんよ。何せ灯ちゃんのレベルは一万ですから。


「単位がバグってる! この間は千って言ってたし」


 因みに高橋さんのレベルは如何ほどに?


「私は三かな」

「ひく!」

「今まで何してたの?」

「今までって言われても、こっちに来たのが三日前だし」

「それで?」

「街中でこむら返りが流行ってたから、それを治してたの」

「そんなの流行らないでしょ?」

「それも、魔王の仕業なんだって」

「魔王って案外しょぼいのか?」


 まぁ、灯ちゃんがワンパンで倒した位ですし。


「パンチすらしてないけどね」


 確かに自爆みたいな?


「身も蓋も無い事を言うな!」


 それにしても、高橋さんのレベルが三とは。想定外もいいところですね。


「なんでよ」


 今の所は、人質としての価値しか有りません。


「人質にして誰と交渉するのよ!」


 前にも言いましたけど、国ですよ。この世界に聖女は一人きりなんですから。


「こむら返りしかなおせませんけど」

「自分で言うな!」


 そんな拙い加護しか与えてくれないクソ女神とは、縁を切っちゃいましょう。


「そんな事が出来るんですか?」


 ええ。もう切っちゃいました。


「早や! そんな簡単に色々出来るなら、私と高橋さんを帰してよ!」


 だから、嫌ですって。これから面白くなるんですから。


「面白く?」


 世界を相手に、灯ちゃんが無双するんです。


「怖い怖い!」


 聖女も手に入った事ですしね。そうだ。この際です、高橋さんをパワーレベリングしちゃいましょう。

 そして高橋さんと一緒に天下を取るんです。


「盛り上がってる所、申し訳ないんだけど」

「どうしたの、高橋さん?」

「ここから逃がして欲しいの」


 なんか唐突にぶっこんで来ましたね。


「あんたが言うな!」


 どうせ、この国で奴隷の様にこき使われてるから、逃げたいなんて所でしょ?


「高橋さんって、そんな扱いを受けてたの? こむら返りを治してたんじゃなかったの?」

「私じゃなくて、宮本君がね」

「お前じゃないんかい!」

「だから、宮本君を逃がしてあげて欲しいの」

「宮本君って、あの宮本君。習字部の?」

「そう。宮本君は勇者にされちゃったの」


 はっはぁ~ん。わかりましちょ。


「噛んだね」

「噛みましたね」


 全て理解したのです。


「スルーしたね」

「しましたね」


 うるさいですよ、二人共! それより、宮本君に何が起きているのか説明しましょう。


「何がって? こき使われてるとかじゃないの?」


 浅はかですね、灯ちゃん。勇者としてよばれたからには、戦わなきゃいけません。


「何と?」

「魔王とですよ」

「高橋さんが答えるんかい!」


 魔王の配下と壮絶な戦いを繰り広げ、今まさにレベルアップの真っ最中なのです。そんな時に、灯ちゃんが魔王を倒してしまいました。


「全部、あんたのせいだけどね」


 そして、新たな魔王はもっと強大な力をもってます。


「だから、あんたのせいだって」


 そんな過酷な状況から、宮本君を救い出したいと言うのですね?


「そう、大体そんな感じ」

「大体って、高橋さんも案外適当だな」

「だからね、蔵元さんに力を貸してほしいの」

「そうは言ってもね。宮本君がどこにいるかわかんないし」


 そんなの私にかかれば、昼ごはん前のおやつですよ。


「意味がわかんないし!」


 ま、そんな事より食事にしましょう。お腹が空きました。


「AIもお腹が空くんかい!」


 味噌ラーメン丼が良いですね。


「だいぶ攻めてる丼物だな! ラーメンの汁でごはんがビチャビチャになるだろ!」

「私もその味噌ラーメン丼で」

「高橋さんもかい!」


 濃厚な味噌のスープをおかずに、白飯を掻き込む。それはそれは、もう。エッキサイティン!


「何とか丼の話はいいよ! 大体、私はお腹が空いてないんだよ」

「私は空きましたよ。もう朝ですし」

「いつ日が明けた!」

「とっくに日は昇ってますよ。もうそろそろ、お昼でも良いかも」


 わかってらっしゃいますね、高橋さん。じゃあ、とっととご飯を食べて、宮本君を拉致りに行きますか。


「おい! 拉致っていったか?」


 言ってませんよ。


「言ってませんね」

「ボケが二人とか、もうやだよ」

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