第32話 久しぶりだね。一樹。
トラウマの克服。そんなこと、そう簡単には出来ない。そして自身の追い求める夢。時にそれは、表裏一体、紙一重の存在となって目の前に現れる。
どこまでも、いつまでも、あの日の映像が繰り返される。鳴り止まぬ俺の頭の中のスキル。父親を殺せとそう言っている。
煩い。ただ、それだけだ。それだけなのが1番恐ろしい。
「お兄様?」
何故俺は、割りきって進めているのだろう?人でなしか?それともなにもかも恨んでいるからか?解らない。俺は…もとからこうなのかもしれない。
「お兄様?」
にしたって、どれだけ進もうとも…奥は見えてこない。なんなのだろうか?自分が動いているのか、止まっているのかさえ解らない。
「お兄様!!」
ふとそんな声が耳に届き、我に返る。
「!?…ど、どうした?」
「どうした?じゃ無いですよ。さっきから呼んでいるのに。」
さっきから…全く聞こえなかった。
「ここに入ってから随分、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「ああ…大丈夫だろう。」
「そんな無茶しないで下さいね?」
「いいや、しなきゃならん。俺はどうしても、親父について知りたい。その上で…こんな馬鹿げたものを見せてくるようであれば殴ってやりたい。」
「先程言っていた…幻覚を見せるらしいと言う奴ですか?」
「ああ。逆に、お前はなにも見えないのか?」
「ええ、なにも。」
個人差か?それとも…何か他の要因があるとでも?
「お兄様には何が見えているんです?」
それ聞くか…?
「言ったら多分、お前後悔するから言わない。」
「ええ…私のことなんだと思ってるですか!!」
「か弱い姫?」
「なっ…私これでもこのクランで1番強いんですけど!!絶叫の戦乙女とか言う二つ名あるんですけど!!」
うわぁ…厨二くせぇ…。
「その目はなんですか!その目は!!」
「いやぁ、だって俺に勝ってもなかったし。」
「それは…お兄様は自分のスキルがなんなのか自覚してるんですか?」
「え?俺のスキル?俺のスキルなんてせいぜいその場に応じてこれからするべきことの最適解を教えてくれるようなもんさ。」
「…ん?」
「え?」
「と、言うことは…お兄様…私達を蹂躙したあの力については…無意識…?」
「え?」
俺、またなんかやっちゃいました?
「…えぇ…。」
なに?その軽い絶望。
「いや…解ってた。解ってたんです。お父様から言われておりました。私じゃお兄様には勝てないと…。」
「…ほう…そりゃあまたどうして…?」
「お兄様には2つ目のスキルがあります。」
「…え?」
「私の力の暴走を防ぐための最強のスキル…らしいですが…生憎と名前も知りません。」
「…その言いぐさ…なんか作られたスキルみたいな言い方なんだけど…。」
「…そうですよ。私とお兄様のスキルはお父様の手によって作られたものです。」
は、はは…もう、乾いた笑いしかでねぇや。我が子を被験体に?狂ってやがる。常識人みたいなことを言われたけどやっぱり狂っている。
「作られたスキルねぇ…。」
何よりなのがこんな最強レベルのスキルを幾つも一個人が作り出したと言うこと。そんなことが可能なのであれば…この世界は終わる。
「俺達の他にも人工のスキルを有している奴は?」
「お父様だけです…。」
自分までも…ますます狂ってやがる。全く話が見えてこねぇ。
「そうか…。」
ともかく、一発は殴らないと気が済まない。その場所に向かうためにまた歩みを進める。
「お兄様…。」
「その、お兄様ってのやめてくれないか?慣れねぇ。」
振り返らずにそれだけ言う。
「おにい…?」
違う、そうじゃない。が…まあ、ましか。
「行くぞ。二葉。」
何もかも解らない。この忌々しい記憶のループの中、何を思えばいいのかも。
ずっと…奥へ、奥へと進む。
そうして…俺達はその場所にたどり着いた。
「ここが…そうみたいだな。」
そこにあったのは大きな扉である。なんともまあ…ダンジョンのような。
「行くか。」
「はい…。」
そうして俺達は、その扉を開けた。
そこにいたのは…どこかで見た初老の男性。その人が倒れていた。あれは…三浦さん…?何故ここに!?
「うそ…おとう…さま?」
「おやおや、君まで来たのかい?二葉。」
慣れない声だ。その正体は…化物と言って差し支えの無い姿の…1人の男だった。
「久しぶりだね。一樹。」
「白一…努。」
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