第28話 言うほど間違いでもなかったでしょう

 あらら…白一さん…あれ使っちゃいましたか…ともすれば想定外のなにかが起きた…。


「しかしながら…僕のやることは変わりませんね…二宮 天音の奪取…。」


 ビル屋上付近にて謎の真っ黒で大きな球体の発生を確認した。

 やはり…あの時三浦さんを通したのは間違いでしたかね…?


「まあ、もう1人の僕がそう言ってたんで言うほど間違いでもなかったでしょう。」


 そうして僕はその場を後にしようとして…違和感に気がつきもう一度頭上を見上げた。


「ん…?」


 何か…落ちてくる?


「ぁぁああぁぁぁぁあああ!!!!」


 あれは…二葉さん?え?


「仕方ないですね…。」


 地面を蹴り、対象に向かい飛び上がる。空中でその少女をキャッチする。


「二葉さん、どうされたんです?」


「お、お父様が…!お父様がぁ!!」


 困った。子守りには慣れていませんが…まあ仕方ないです。あの人には敵いませんから。

 ともかく二葉さんとともに、地面に着地する。


「二葉さん、怪我は無いですか?」


「無いけど…お父様がぁ!!」


「泣かないで下さい。もう18歳でしょ?」


 ファザコン娘めが…いやまあしかし…目の前で父親があんな姿になったのでは無理もないか。


「白一さんはなんと?」


「い、生きなさいって…。」


 はあ…あの人も随分と…いや、止めよう。そりゃあ最期くらい親らしくありたいでしょうね。狂人に成りきれなかった狂人。


 白一さんは確かに狂ってる。だけど、妙なところで家族思いなんですよねぇ…もっとも…彼ら彼女らの母親には…届かなかったみたいですけど。


 そりゃ当然なんですよ。


「そうですか…しかし…僕もこれからやることがありますし…。」


「私も行く!!」


「そうは申されましても…。」


「お父様は言いました…私には経験が足りていないと。だから、あなたの戦いを見てみたいのです!」


「なるほど…まあ勉強熱心なのはいいことです。解りました。では、行きますか。」


 そうして、僕は彼女の手を引きその場へと歩みを進める。まあ、放っておけば向こうから来るんですが…こっちから行ったほうが早いと言えば早い。


 そうして…このファザコンがそんなに速くは走れないとか抜かすので、結局僕がおぶって走ることとなった。

 これだから子守りには慣れないのだ。


「百出さん…わがまま聞いてもらってありがとう。」


「…いいんですよ。」


 はあ…しかし、我々もこれからどうするか考えねば。白一さんがあの姿になったと言うことはそれ即ち今後どうしようもなくなったと言うことである。

 彼のスキルによって何を見たか…穏やかではありませんね。


 さてと…この辺でしょうかね。とあるビルの上で止まる。


「百出さん?」


「…居た。」


「…居た?」


 その車を見つけたので、とりあえずそこめがけて飛び降りる。


「百出さん!?」


 「まあ、見ててください。これが僕のやり方ですよ。」


 そう言うわけで…僕はその刀を取り出す。


「ど、どっから出しました!?」


 いやぁ…白一さんって凄いんだな。俗にアイテムボックス的なのも作れちゃうんだから。


 そうして、とりあえず車を両断する。


「さて、天音さんをこちらに返してもらいましょうか。」


「も、百出さん!困惑してますって!!」


 ん?まぁ、そりゃあそうか。とりあえず、二葉さんをおろす。


「もう一度言いましょう。天音さんをこちらに返してもらいましょうか。」


「絶対そうじゃない!!」


 まあ、解ってはいる。車を両断されては声などでないだろう。


「あ、あんたは…センチピードのNo.2…百出 春仁…。」


 クラン、レオンの上層メンツが勢揃いときた。さてと…とっとと回収して…?


「天音さんは…それに蒼井さんも…。」


 居ない。その場にいる筈の…いや、先程まで確かに居た筈の2人…。


「あんた…白一 努ってのがどういう人なのか知ってるのか?」


 は?僕は油断なんてしていなかった…いつの間に背後を取られたんだ?


「おやおや…好戦的なことで。」


「そりゃあ…こんなことしておいて警戒しないほうがバカだろう。それに俺のスキルがこうしろって言ってる。」


 スキルが…そう言っている…。


「く、ふふ…。」


「何がおかしい?」


「いえ、よく聞く口癖だったもので。そうですね…まあ、言ってしまうのであれば白一 努と言うのは、あなたとそこにいる二葉さんの父親ですよ?」


 そう言って指を指す。


「ふた…ば…?」


 ゆっくり、彼は二葉さんの方向を向いたのだった。

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