第27話 20年以上前の話だ

 なぜ…なぜこのタイミングなのだ?寄りにもよって。三浦 壮介…。


「困りますよ。アポぐらい取ってもらわないと。」


「いや、すまんな。だがどうしても急ぎの用事だったもので。娘に知り合いの配信を見せてもらってな。あれはなんだ?」


「あれはなんだともうされましても…なんのことでしょう?」


 このおっさん…勘が良すぎるんだよ。だから嫌いなんだ。


「すっとぼけるのは無しにしてもらおうか。調べはついている。あの二宮って言う奴…レオンを抜けてお前のところに行ったそうじゃないか。」


 くっそ…なにもかも狂ってやがる。なぜ私の提言が何もかもを外すのだ?こんなこと今まで一度も…何者かの介入?いいや、そんなわけはない。そもそも、提言と言うのは未来を観測し、そこ導き出された最適解を私に推奨する力である。ならばいったい何が原因だ?


「ええ、そうですが?」


「配信の内容は知っているだろう?」


「なんのことだか?」


「七瀬、及び蒼井の襲撃だ。これは言い逃れできんぞ?」


 ああもうどうしてしまおうか…あの時…何故提言は一樹を殺せと指示したのだろうか?何故覚醒をさせるのは駄目なのだろうか?


 明らかに矛盾が生じている。もっと早い段階で気がつくべきだった。これは明らかに異常だ。


「私の方からはなにも指示しておりませんので…。」


「ほう…まあ、それも本人に聞けば解ることだ。」


 こいつ…まさかレオンと手を組む気か?それは流石に私と言えど不味い。百出くん。マジで頑張って二宮くんを回収してくれ。


「そう言うわけで…白一 努。お前を拘束させてもらう。」


「まぁ待てよ。そんな道理は今のところ無いだろう?」


「そのモニターの記録を遡っても良いんだぞ?悪趣味な蹂躙が記録されている筈だ。」


 こいつ…何故その事を知っている?ハッカーでも居るのか?いや、悪趣味な蹂躙と言っていた…ともすれば一樹の覚醒は知らないのでは?


『提言―――――』


 いいや、知らないにしてもこの様なら…私はどうやら詰みのようである。


「お父様…。」


「ああ、大丈夫。お前はいきなさい。二葉。」


「へ?」


「な、何をする気だ?」


「何って簡単だよ?久しぶりに、私が戦おうって話だ。」


 いやぁ…何もかもを託すことにはなるがすまないね。ここは私がラスボスになるしかなさそうだ。ともかくまずはこの脳筋を倒すとしよう。


「そんな…お父様!!」


「いきなさいと言っただろう?君はまだまだ成長できるんだから。」


 私がこれまで尽力して研究していたもの。それは人工的なスキルである。これまで私は4つのスキルを作成した。あれももう…20の話だ。


 まず最初に完成したのが、予知のスキル…そう、提言である。被験者は私だ。成功した。あれは大きな1歩だったが…まさかここまでの破滅を招くとは思って居なかったね。


 2つ目に完成したのが、今、二葉に宿っている能力だ。あれが完成した当初、誰を被験者にするか相当悩んだ。悩んで悩んで…悩み抜いた末、提言はこう言った。


『提言―――2人目の子に投与することを推奨』


 だってさ。イカれてやがるけど、野望のために私はそうすることを決意した。そうして、提言に従い3つ目のスキルを作成するに至る。


 一樹に宿ったそのスキルは二葉の暴走を止める物となる筈だった。投与当初、一樹にスキルは発現しなかった。失敗に絶望した。私はあの頃からまだありもしないダンジョンに取り憑かれていたのだろうな。

 薬品を一樹に投与しているところを、彼女に見られた。まあ、当たり前のごとく離婚されたよね。結果として一樹は彼女が、二葉は私が引き取ることとなった。もっとも、一樹は二葉のことなど覚えていないだろう。


 あまりにも幼かった2人…盾と矛を離れ離れにしてしまった後悔と、盾の作成に失敗した焦り。その2つがあった。そんななかで完成したのが4つ目…現状私が最後に作り上げたスキルだ。

 二宮くんが使っていた力はそのスキルのほんの欠片にしか過ぎない。何故ならば…あんなもの完全に使えば、人の体裁を保てないからだ。


 言うなれば、私が自殺するために作ったスキルだ。


 私のしていることは決して正しいわけではない。だが、私はこの選択を間違っているとも思っていない。人類を救うだの大層なことを掲げるつもりはないが…ただ、あの2人が生きていてくれればそれでよいのだ。あの2人はなにも知らなくて良いのだ。


 にしても、提言…お前は最速の道を提示してくれる割には詳しいことを言ってくれない。とんだハズレスキルだよ。まあ、私の意思に応じた答えをしてくれているからなのだろうから…矛盾があるのは私の心か。


 一樹を殺そうとしたのは、このままであれば私が一樹に殺されるため。そうなってしまえばその日、指導者が居なくなる。

 一樹にスキルに目覚めてほしくなかったのは、戦いに巻き込みたくなかったから。

 だが…いざ目覚めてみると案外嬉しかった。


 。それも、そうすれば一樹が死ぬことはないと解っていたから。その後はあらゆる戸籍から一樹の名を消した。それで生き残ってくれるのならそれでよかったのに。


 私は随分と半端な人間だ。情に厚くもなれない。非情にもなりきれない。


 さて…人生の振り返りはこのくらいにしよう。


『スキル―――己が為の地下牢獄ダンジョン


 魔力の流れが一帯を包み込む。地形が形成され、通路が形成され…私を核にそれが広がっていく。


「貴様…!!」


「お父様!!」


「二葉。君は生きなさい。」

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