第26話 だいぶ壊れ寄りだぞ。それ。

 俺のナイフは、そいつの頸を捉えることはなかった。


「…へ…?」


 そんな声を上げたのは目の前の彼女である。


「俺は無駄な殺しはしない主義でな。ただ解っただろう?これが死ぬっていう恐怖だ。」


「あ、ぁ…。」


 力無く気絶する彼女。きっと今まで負けを知らなかったのだろう。即死でなければダメージが通らないのだから…ただそれを差し引いても相当タフな奴だったのだろう。


「一樹くん…?」


「すみません…ああするしかないと思って…。」


「よかった…一樹くんだ…。」


 ずいぶんと怖い思いをさせてしまった。反省である。流石にやりすぎたが…これできっと…これできっとどうなるんだ…?


「君…一樹くんと言ったか。」


「は、はい。」


「自己紹介が遅れてすまない。僕は須藤すどう 瞬だ。アマネを止めてくれてありがとう。」


「い、いえ、なんでもないですよ…。」


「いやいや…あんな大怪我を…負っていたはずだが………?」


 あれ?そう言えばそうじゃん。俺はちゃめちゃにダメージ受けてた筈なんだけど?どうなってんの?


「なんか…治ってる…。」


「あの怪我、そんな簡単に治るもんじゃないだろう!?即死でもおかしくはなかったぞ!!」


「まあ、そうは言われても…治ってるもんは治ってるんですから。」


「君、どんなスキルを持ってるんだ…。」


「俺のスキルなんてせいぜいショボい未来予知程度ですよ。」


「だいぶ壊れ寄りだぞ。それ。」


 なんか前にもそんなことを言われた気がする。しっかし…どうして急にアマネは力を使えなくなったんだ?


「まあ、ともかく!みんな無事だったし!!結果オーライ!!」


「とはならんだろ。」


 七瀬さんの締めを遮る瞬さん。実際そうだろう。


「センチピード…何をどうしたらこんなことができるのか…皆目見当がつかないな。」


「白一 努…。」


「一樹くん、その名前気にしてるけどどうかしたの?」


「いや、なんか引っ掛かるっていうんですかね?聞いたことがあるような…無いような…。」


 なんかぼんやりとモヤのかかったような存在。


「まあ、それも込みだ。乗り込めば速いだろ。」


 瞬さん?


「乗り込むっていったい…。」


「決まってるだろ?クラン、センチピードだ。」


 瞬さん!!アグレッシブ過ぎます!!


――――――――――


「マジかぁ…乗り込んできちゃうかぁ…。」


「お父様…私が出ましょうか?」


「いいや、私たちは早急に逃げよう。」


「その必要など――――。」


「あるんだ。一樹のスキルは私が作ったものだからね。よく解る。」


 暴走を防ぐために作ったスキルだ。あれは相当ヤってる寄りに作った。ましてや、よりによって私と似たようなスキルまで持ち合わせているとは。そんなの、二葉に勝ち目がない。


 我が子ながら凄まじいね。しかし、まあ、本当にやってくれるとは思わなかったな。うちの子は強いとは言ったがいささか強すぎた。


 そしてもう1つ…この男が関わったとなると…ろくなことが起きんだろうな。


「さて…しかし二宮くんは回収せねばならんな。行ってくれるかね?百出くん。」


「なっ、いつの間に!?」


 二葉はそんな感じで驚いている。やっぱり、まだまだ実戦経験が足りない。


「やはり、あなたには敵いませんよ。」


「どうだ、向かってくれるか?」


「ええ、すぐに。」


 そう言うと、彼はすぐにその場を後にした。


「いったいいつから…。」


「え?最初からだよ?」


「さ、最初から!?」


 うーん…もう少し二葉は実戦投入しなければ。それとスキルに頼りすぎる癖もどうにかしなければいけないな。


 二葉のスキルはあまりにも破壊的すぎる。故に、他のものは何一つ伸ばさなくてもよい。


 最強の矛だとは思うのだが…これでは七瀬くんにも勝てんだろう。

 さて、逃げる準備に入ろう。それから一樹を味方に付ける方法だったが…何か良い案は無いものか?


『提言―――現状、蒼井 一樹を味方に付けると言うのは不可能です 強行手段として洗脳を推奨します』


 これほぼ無理なやつじゃないか?私の洗脳術って言うと基本的に弱みに漬け込んだものが大半だが………一樹…絶対怖いもの無いよ。絶対弱みとか無い。それこそ、私が父親だって言ってしまったら彼は私を殺すだろう。


「マジかぁ…。」


 まあ、どうにかなるか。


 さてと…私たちはどこに逃げようか?そうだな…ああ…。


「あ?」


 誰だ?なんか凄く嫌な予感がする。


「クラン、センチピード代表。白一 努。」


「おや、三浦さん。困りますよアポぐらい取ってもらわないと。」

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