第25話 質問しているのは俺だ

 なぜ立っているか。そんなの自分でも解らない。ただ、不思議と立っていられるだけだ。


 記憶の片隅にある『白一 努』それにからだが勝手に反応した。


「なんだ?てめぇ…また殺されたいか?」


「知らん。質問しているのは俺だ。白一 努っていうのは誰だ?」


「死んでいくてめぇには関係ないだろ!!」


 大地を蹴り、俺に飛びかかる彼女。さっきみたく課題は発動しない。まあ、どうせ、避ける気力もない。


 俺はその拳を受けた。だがこれが不思議と痛くない。先程のようなバカみたいな威力でもない。


「あれ?どうした?」


「…そ、そんな…バカな…?」


「まあ、いい。答えてくれ。俺の質問に。」


 それを無視し、何度も何度も俺を殴るアマネであったが何度やっても結果は同じ。俺にはダメージ1つ入っていない。


「答えろよ?」


 自分のなかでなにかが弾けたような感覚があった。とたんに座り込むアマネ。


「あ、あぁ…?力が…入らねぇ。」


「答ろ。白一 努っていうのは誰だ?」


「…く、クラン センチピードの社長だ。」


 クラン センチピード…やっぱり知らねぇ。だけど…どうにも引っ掛かるな。さっきの話を聞くに、センチピードってのはろくなことをしていなさそうだが…少し調べる価値はあるのかもなぁ…。


『課題―――父親を殺せ』


 ここでこいつが騒ぐってことは、父親の可能性がある男って訳か。

 ともかくは…。


「教えてくれてありがとう。それで、戦いは続けるのか?」


「…は?」


「見ての通り、俺が立っていてお前がそこにへばっている。まだ続けるのか?」


「て、てめぇ…!!」


 まだ飛びかかり殴ろうとする。その手を掴み勢いを利用してそのまま投げる。


「なっ!?」


 なんだか…力のバランスが均一になった気がする。俺とこいつは今、同じくらいのバランスで戦っている。


「い、いてぇな!!」


「…痛い…か…。」


 どうやら僕のなかに目覚めた物はスキルを無効化するような何かをしているらしい。まだすべては掴めていないが…まあ、それでいいだろう。こいつが相手なら。


「アマネが…ダメージを受けた?」


「スキルが無効化されている…ってこと?」


「よくも…てめぇは!!」


 相も変わらず殴り、蹴り、単調だ。軌道がよく解る。受けても痛くはない。


 こっちは魔物相手に5年間サバイバルしてんだ。勝てるなんて思うな。

 その攻撃のすべてを受け流す。


「はぁ、はぁ…。」


「終わりか?なら今度は…こっちだ。」


 ナイフを手に取る。


「か、一樹くん!!」


 大丈夫すぐだ。苦しむようなことはしない。


「あ、嫌だ…。」


「散々殺すだのなんだの喚いて、殺される側は嫌ですって…虫が良すぎるよな。」


「止めろ!!君!!」


「すぐ終わりますよ。大丈夫です。」


 ゆらりと、ナイフを手に近づく。


「こ、来ないで…いや…。」


「黙れよ…俺を殺そうとしておいて。」


 間合いに入った。そのナイフを勢い任せに振るった―――――。


――――――――――


 あぁ、失敗作だと思ってたけど…きちんと機能するんだ。ならあいつもあいつで使えるが…考えうる限り最悪の状況だな。


「ほら、お父様。私が行った方がよかったでしょ?」


「いいや、君が行っても同じだったさ。二葉。」


「なんで?私はあんなヘマしないわ?」


「いいかい、二葉のスキルと一樹のスキルは対になっている。練度が同じくらいなら力は拮抗するだろうが…彼は実戦経験の場数が違いすぎる。」


 まあ、そうなったのも私のせいではあるんだがね。


「私が負けるとでも?」


「ああ。だってあのスキルは二葉の暴走を防ぐために私が作ったんだから。」


「…お父様…それは私に対する侮辱ですか?」


「いいや、私の過去の失敗だよ。最も…今それが目覚めてしまったけどね。私の目指していた最強の盾だ。」


 一樹があれに気がつくかどうかは解らないが…さてどうしたものか。


「あれが…お父様の目指していた最強の盾…。」


「二葉、君の力は強すぎるんだよ。広範囲に影響を及ぼす。だから、それを防ぐ手段が必要だ。それに、一度全力を出してみたいんじゃないのか?」


「…全…力…。」


 何もかもを破壊する…そうだね七瀬くんと似たような力と言えばそうだが…決定的な違いがある。こっちはタイムラグの無い波動だ。

 だから盾が要るんだけど…まあ、彼女はもう使い物にならんだろうからな。仕方ない。


 一樹を味方に付ける方法を探そう。

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